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第5章 ゆとりある郷土

 富山県民は、空間的にゆとりを持った環境の中で生活を営んでおり、交通や各種サービス施設の整備を精力的に行ってきた。しかし、各種基盤施設の必要度とともに人口減少や財政的限界を含めて、これまでの開発の在り方を土地利用とともに再検討していく必要がある。

第1節 都市集中と過疎化
 富山県民は富山平野に散らばって住み、都市形成は相対的に進んでいない。かなり緩やかな都市集中が起こっているが、これと同時に各都市で空洞化現象もみられる。また、富山市では都心への再集中の動きもある。
 他方、他県に比べれば限られているが過疎地域の課題も抱えている。

第2節 居住環境
 ゆとりのある居住空間の中で、住宅事情は優れたものとなっている。
 しかし、既に戸数が過剰となり空き家率が高まっており、その流動性のなさが課題となっている。
 また、各種環境施設の整備・維持も大きな課題である。

第3節 交通
 域内交通については、自動車交通と公共交通の調和が大きな課題である。
 また、県外との広域交通についても、鉄道、道路、港湾それぞれが課題を抱えている。

第4節 情報通信
 富山県の情報化への対応・システムの整備は順次進んでおり、各種システムの効果的な活用は地域の将来を大きく決定する要素となってきている。

第5節 災害と安全
 富山県は治水対策を充実するためにかつて石川県から独立しており、これまでの努力が功を奏し安全な県となっている。現在においても災害対策は重要な課題であるが、近年災害も質を変えてきており、新たな対応が迫られている
 また、環境問題については、地球的視点からのあり方も踏まえた地域づくりが求められている。

第6節 21世紀の県土利用
 土地利用については、農地を都市的利用に転用しつつ、空間的にゆとりのある生活を営んできた。現在、人口の停滞・減少、低い経済成長に向かっており、各種の開発事業の在り方を改めていく必要があるが地域なりの共通認識が形成されていない。

 既に述べた富山での社会移動(転居)の少なさは、都市の集中も緩やかなものとしてきた。さらに自動車社会の中で、郊外での宅地開発が進み、都市の拡散が進みつつある。しかし、上述のような生活、産業を実現していく地域として、人口減少・高齢化の社会の中では、コンパクトにまとまった都市の再構築が必要である。

 住宅については、空き家の増加が目立っているが、その家、土地の効果的な活用を図っていく工夫が必要である。地域社会の中で良好な居住空間を維持していくことは、本来、各住宅の居住者・所有者の責務である。しかし、時間の経過とともにこれが困難となる家が出始め、環境の急速な悪化が起こり得る。このため、地域に住む人たちが、あるいは行政が、それを補っていく必要がある。既存住宅を効果的に活用するためにはまず、その評価が普及し価値を持つ不動産として流通が促される必要があろう。また、多様な形態のシェアを促していくことも可能であろう。福祉施設等への転換もあろうし、日中のたまり場としてのシェアリビング、共同の食事の場としてのシェアダイニング、さらにはシェアハウスなど高齢化が進む社会の中で、多様な工夫があり得よう。また、更地にして他用途への転換が図られることもあろうし、更地のままであっても地域の人達による植栽等によって美観を維持していくことも意味があろう。これは各住宅地の間での生き残りの競争(エリア間競争)になっていくのではなかろうか。

 県内にはいわゆるシャッター商店街も多いが、こうした地域の仕舞屋、空き家については、それなりにそのファザードを工夫し、街として物販とサービス提供を重ねた快適な空間に変身していくことが求められる。既存の街の集積を活かせば、郊外量販店に勝る力を持つ可能性は十分にあろう。

 なお、コンパクトな街の形成を目指すためには、郊外での際限のない宅地供給は、抑制される必要がある。少なくとも現時点での市街化調整区域や農振農用地区域での宅地造成は禁止するくらいの措置があっていいのではなかろうか。

 さらに、道路をはじめとする各種基盤施設の整備については、人口の減少、高齢化、財政の限界の中で再考される必要がある。
 例えば、富山県の道路は全国で最も整備されているが、年々の拡張率も最も高い。人口の減少・高齢化のなかで自動車交通の減少が予想され、近い将来に過剰なものとなって顕われてくる。

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(Apr.15,2016Re-Ed.)