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第3章 ゆとりある郷土
第5節 災害と安全
第2項 自然災害

1.災害の状況
―都市開発型自然災害の増加―

(1) 罹災者数等の推移
(2) 人的被害
(3) 住宅被害
(4) 耕地被害
(5) 地震
(6) 被害総額
(7) 災害リスクエリア

 今日では、多くの地域で、自然災害の発生はまれな事象となっている。そして年々の発生件数の統計的数値はひとたび災害が起これば跳ね上がり、大数の法則が働かず、平均値などの統計量は意味が不明確なものとなる。このため県での発生の程度、全国の中での位置付けなどを明確に語ることは困難が多い。

 富山県の自然災害罹災は、都道府県の中でもかなり少ないが、雪害は避けられないようだ。また、21世紀に入って増えている様相が見られる。

 ⇒災害統計の地域間比較


(1) 罹災者数等の推移
 自然災害発生の富山県での長期的経緯を見ると、1980年代の前半までかなりの発生があったが、その後20世紀中は治まっていた。しかし、21世紀に入って再び発生している。


 全国での発生状況については、20世紀後段にもある程度の発生があり、21世紀に続いている。

 富山県と全国の発生状況を比較すると、富山県での21世紀に入っての災害の再増加は、単に気象状況の変化とは言えないのではなかろうか。
 ⇒自然災害の変化


 右図は、最近30年間(1991年から2020年)の都道府県毎の人口百万人当たり年間自然災害罹災者数を昇順に並べグラフとしたものである。
 なお、人口当たり罹災者数に換算した場合、人口規模の大きな地域ほど各年毎にどこかで災害が起きている可能性がより高いことに留意しておく必要がある。この影響は全国値に典型的に表れている。
 また、富山県でも全国でも1980年代前半まで自然災害が比較的多く、ここでの期間は、その後の30年間となっている。
 ちなみに、30年間は気象で過去の平年データを求める期間である。

 富山は相対的に災害の少ない県であり、多数の罹災者が伴う災害も殆どないことが読み取れる。






(2) 人的被害
 人口当たりの年々の死亡・行方不明者について見ると、富山県では、人数は限られているが災害の発生している年が多い。
 これに類似した県は、石川県を除き日本海沿岸の青森から福井までの県である。これは雪による事故死など個別的な災害があるということであろう。



(3) 住宅被害
 住宅の全半壊棟数についても、'80年代後半から'00年代前半にかけて一旦鎮静化していたが、その後増加に転じているように見られる。


 富山の世帯数当たりの住宅全壊半壊棟数は全国の中でも相対的に少なくなっており、大規模な災害は殆どない。ちなみに、最も大きいのは2008年の22棟(実数)であった。


 年々の浸水災害について、床上と床下に分け見ると、富山では1980年代前半までに災害はある程度治まったのだが、1990年代の末から、再び床下浸水が起こっている。
 これは、気候変動による影響もあろうが、農地の宅地化を進めた結果としての都市部での内水災害が増えているためといえよう。


 全国での床下浸水は、近年は沈静化しているようにも見える。


 都道府県ごとの浸水被害について、床上浸水棟数は、富山県は相対的に少ない。


 ただし、床下浸水まで含めると、一定程度の災害がある程度起こっている。


 なお、下水道による浸水対策について、富山県は必要とされる個所の70%以上で対応しており、全国でも特に進んだ地域となっている。

 (統計データ)

  ⇒内水災害の事例





(4) 耕地被害
 耕地自然災害については、'00年代後半以降、流出埋没がある程度起こっている。それ以外の冠水は、最近年は2008年を除いて記録されていない。


 耕地の流出・埋没被害についても、富山県では、大規模な災害は相対的に少ない。
 ちなみに最も大きな災害は、2008年の355haの被害である。


 耕地の流出埋没を除いた冠水被害は、全国ではかなりあるが、富山県では相対的には少ない。被害が記録されているのは、30年中3年のみであった。
 なお、耕地の内、田は冠水被害が出難いようであり、富山県の場合は田の比率が高く、冠水被害が少なくなっているようだ。



(5) 地震
 過去10年間の震度1以上の地震があった回数は、富山では105回にとどまり、全国で最も少ない。


 震度別発生回数を見ても、富山の少なさは際立っている。


 過去の地震発生回数が少ないことはエネルギーが蓄積されているという可能性もある。
 しかし、地震調査委員会資料によれば、富山市の今後の大地震の発生確率(30年以内震度6弱以上)については、5%程度の低いものとなっている。

  ⇒プレートテクトニクス

 ちなみに、人口・企業等の誘致において、このデータで地震の少なさを誇示する自治体がある。これに対して、地震調査委員会では、地震がないという誤解を招きかねないと異議を唱えている。しかし、誤解の可能性はともかく、居住・立地の選択において、意味のある情報であろう。地震保険の保険料もこの確率で差が付けられている。

(統計データ)


(6) 被害総額
 富山県での自然災害被害額について見ると、数年に一度100億円前後の災害が発生し続けており、'80年代後半から'00年代前半の小康状態は見られない。


 また、人口当たり被害総額を都道府県の中で比較しても、富山は必ずしも特に低い県とはなっていない。
 ただし、特別に大きな災害が起こっていないということはできるだろう。毎年の被害総額は、一人当たり千円程度から1万円強までなだらかに分布している。
 なお、被害額には、雪害も含まれているものと思われるが、実態を把握していない。


 人口当たり被害総額は、明らかに大都市圏で低くなっており、富山はこの地域に次ぐ位置にある。


 さらに、国土交通省の水害被害額の統計で同様の図を描くと、富山県は災害の少ない県ではなく中程度の県とする必要があるようだ。

 人口当たり被災者数や世帯当たり被災住宅数などは、都道府県の中で富山県はかなり少ないことは間違いない。
 しかし、人口当たり被災総額では中程の位置となっているのは、公的基盤施設などの被害額も含まれ、これを人口当たりで検討するとどうしても多くなってしまうのであろう。これは、人口とは別に県土の広がりなどが関連しており、別途、県土面積当たり、あるいは可住地面積当たりなどの指標を工夫してみる必要があるのだろう。


(統計データ)


(7) 災害リスクエリア
 2020年12月に国土交通省が、2050年時点の災害リスクエリアを整理して発表している。富山県について、リスクエリア内に居住している人口は、77万人中、48万人(62%)となっている。殆どが洪水エリアで46万人、他に土砂災害エリア2万人、津波エリア1万人となっている。

 しかし、2050年であれば地球温暖化による海面上昇で、平野部のかなりの面積が海面以下エリアとなっている可能性もある。その時点での罹災者はいないとしても、実態としては、大変な混乱がもたらされているのではなかろうか。



 富山県では、多くの罹災者がでる水害は四半世紀以上前(1970年代前半)に終息しているようだが、近年は、計画性を欠いた開発による都市開発型災害が散見されるようになってきた。発生すると、地球温暖化と関連があり得る集中豪雨の影響と説明されるが、都市開発の影響にも言及される必要があろう。

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(Jan.26,2022Rev.)