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第5章 ゆとりある郷土
第5節 災害と安全
第2項 自然災害

2.治水事業
―変化するダム建設需要―

(1)ダム
(2)海岸
(3) 富山の水に関する研究の必要性

 富山県にとって治水事業は、約140年前(1883年)に県が置かれた大きな理由でもあったが、努力の甲斐があって、大きな自然災害はかなり減少してきている。


(1)ダム
【治水】
 富山県では、概ね1980年代前半に、大規模な自然災害を抑制できるようになった。(右図再掲)
 しかし、2000年代に入って再び災害が見られるようになっている。


 住宅の被害について見ると、最近は、特に、浸水被害が見られるようになっており、住宅の全壊は、発生するようになってはいるが、被害棟数は少ない。(右図再掲)
 このような最近の変化は、地球温暖化の中での気象の変動の影響も考えられるが、他方で、浸水災害が目立っているのは、農地の転用等により、降水の流出係数が高まり、降雨による急激な増水が起きるようになったためである。実際に、特定の都市河川の氾濫による被害が県内各地で起きている。
 気象変動への対応を考えれば、ダムの整備は際限なく必要ともいえるかもしれないが、現在、求められるのは、秩序ある土地利用への配慮であろう。


【上水】
 都市用水の需要については、1990年代の半ばまで漸増したが、その後人口の減少とともに、横ばいから減少に転じている。


 一人当たり一日当たり使用料は次第に減少し、300gを割るようになった。ただし、これでも、世界的に見れば過剰利用といえる状態である。
 人口の減少は、既に、1980年頃には予想されていたことであり、上水需要から新たなダム建設が求められる状況にはない。
 ちなみに、久婦須川ダムについては、富山市の上水需要も見込んで補助金を受けて建設されたが、その後、ダムから上水を求める必要がないことが判明し、国からの補助金を返済するという事態が起きている。

水道の所管は厚生労働省であり、水道統計がまとめられているが、政府統計の総合窓口であるe_Stat には載っていない。厚生労働省のサイトにはある程度掲載されているが、給水量等は掲載されていないようだ。統計書の販売に配慮して、敢えて掲載されていないのではと勘繰りたくなる。厚生労働省以外でも似た状況のものがあるが、政府統計については次第にe_Stat に掲載されるようになってきている。


【工業用水】
 工業用水の需要については、1970年代にピークとなり、その後漸減している。(右図再掲)
 これは、工業の業種構成の変化とともに、回収水の再利用が進んだための効果もある。
 富山県では、神通川工業用水道の整備を進めたが、過剰投資となり、その敷地の一部をゴルフ練習場さらには太陽光発電所として活用している経緯がある。

 工業統計表は経済センサスと統合され、一部の指標が探し難くなっている。あるいは集計されなくなったのだろうか。経済センサスの導入は不可欠であったと考えられるが、政府の統計担当者にも我々利用者にも移行期の混乱があるようだ。



管理中のダム
ダム名位置目的型式高さ
(m)
容量
(千m3)
完成
年度
室牧ダム八尾町F.N.P80.517,000S36
上市川ダム上市町F.N.P644,850S39
和田川ダム砺波市F.A.W.I.P213,070S42
利賀川ダム利賀村F.P372,700S49
白岩川ダム立山町F.N.WGR502,200S49
子撫川ダム小矢部市F.N.W456,600S53
角川ダム魚津市F.N58.51,550S53
熊野川ダム大山町F.N.W.P899,100S59
上市川第二ダム上市町F.N.P677,800S60
朝日小川ダム朝日町F.N.P845,280H02
布施川ダム黒部市F.N.Es58.51,350H04
城端ダム城端町F.N.Es593,000H04
境川ダム上平村
岐阜県白川村
F.A.W.
I.P.Es
11559,900H05
大谷ダム
(生活貯水池)
黒部市F.N.Es29.5325H10
宇奈月ダム宇奈月町F.W.P9724,700H12(国)
久婦須川ダム八尾町F.N.P.Es
95
10,000
H14
建設中のダム
ダム名位置目的形式高さ
(m)
容量
(千m3)
備考
舟川ダム
(生活貯水池)
入善町F.N.Es49.8600
利賀ダム利賀村F.N.I11031,100(国)
目的  F:洪水調節、N:既得取水の安定化および河川環境の保全、
     A:特定かんがい、W:水道用水、I:工業用水、P:発電、
     Es:消流雪用水
形式  A:アーチダム、G:重力式コンクリートダム、
     GR:重力式コンクリートダム・フィルダム複合ダム
     R:ロックフィルダム、F:ゾーン型フィルダム、E:アースダム

出所;富山県河川課ホームページ
 舟川ダムは竣工しており、さらに、既にかなり土砂で埋まってきているように見受けられる。


 利賀ダムについては、事業仕分けでは厳しい状況にあったと考えられるが、取り敢えず周辺工事が続けられている。

利賀ダム完成予想図⇒




(統計データ)

(Jun.09,2016Rev./Sep.03,2005.)


(2)海岸
―乏しい自然海岸―

短い海岸線延長
 我が国の海岸線総延長35,643kmのうち、富山県の海岸線はわずか0.4%の147kmにとどまっており、海洋に面した都道府県の中でも鳥取県、山形県に次いで少ない。
 これは、富山県の地形の成り立ちが、日本列島の島弧形成の地殻変動で傾斜した地殻基盤の上に扇状地が形成され、そのまま富山湾へと入り込み、海岸線が総じて単調で島もほとんどないためである。県西部の海岸線では沖積平野もあり、さらに西端には岩石海岸もあるが、全体として冬季の寄り回り波に洗われ、厳しい浸食を受けている。


乏しい自然海岸
 富山県の海岸のほとんどが、港湾等の利用施設あるいは各種の保全施設で固められており、自然海岸は8.9%にとどまっている。
 この比率は、全国では、大阪1.1%、愛知7.2%に次いで小さいものである。




(3) 富山の水に関する研究の必要性
 自然海岸比率の低いのは、海岸の浸食と養成の均衡を人為的に欠いたためである。さらにいえば、陸上部での河川氾濫の被害を防ぐため、あるいは電力を得るため、数多くのダムを山間部に築いたことによって、土砂が海岸に流出しなくなり、一方的に浸食される状況となったためである。
 現在の技術では、一方でダムを築き洪水を防ぎ、一方で離岸堤等の海岸保全施設を築き浸食を防ぐより手だてがないようである。
 しかし、例えば、現在試験的に実施されているような洪水時のダムからの人為的な排砂や、あるいは水害防備林の整備などによって、このジレンマから少しでも逃れることができないか、富山県の水に関する実態をよりきめ細かく研究していく必要があろう。
 このように、ダムによって自然の循環のサイクルを破壊している例は、世界各地にあり、この研究は、世界に貢献すると考えられる。
(ナショナル・ジオグラフィック日本版1997年1月号「ナイル川デルタ地帯」参照、黒部川に関する考察も掲載)

(統計データ)

 経済社会環境が大きく変わる中で、ダムへの需要も大きく変わってきており、その事業は、将来に向かっての防災、水需要、発電等々の見通しのもとで進める必要がある。しかし、ダムの建設は極めて長期間を要する事業であり、その軌道修正は容易ではない。
 防災に関しては、災害が少なくなったとしても、水害を防ぐための事業は、怠るわけにはいかない。費用便益に配慮し、何年に一度程度のどのような災害までを防ぐのか、明示して検討していく必要があろう。
 防災としての対応は当然としても、実態としては、我が国では過剰なダム建設が進められているという認識が一般的であろう。民主党政権の下での仕分事業では八ツ場ダム建設の是非が話題になったが、防災というより、建設事業の展開自体が求められていた観がある。
 また、富山県では、1980年代初めの中沖県政での最初の県民総合計画策定の際の分析では、利水上の面からは新たなダム建設の必要性がないことが明らかであったし、防災上の面からも建設の根拠がかなり脆弱であった。しかし、経済活性化の面からの配慮で、ダム建設は続けられている。
 立山の砂防ダムも過剰な工事だと指摘する県庁職員がいたが、これは小生には判断できない。
 いずれにしろ、中立的な判断がなされるメカニズムが作れないでいることは事実であろう。


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(Jun.08,2020Rev.)