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第4章 堅実な生活
第6節 開かれた生活習慣

第2項 県民意識(県民性)
―保守的というより功利的―

(1) NHK調査
(2) 伝統意識
(3) 社会意識等
(4) 新たな解釈

 統計で県民意識を的確に捉えることは難しいが、どうも巷間で言われている「保守的」というより、「功利的」ということになってきたようだ。

あいまいな県民性
 地域の特性について考える場合、県民意識などといった概念をしばしば持ち出す。これによって、様々な実態が包括的に解釈でき、理解できた気になることも多い。しかし、日本全国をくまなく回り、体験しながら、各地の県民意識を捉えている人はどれくらいいようか。多くの人は、限られた地域の気質しか知らないであろうし、その気質もたまたまの体験でその地域の普遍的なものかの検討もされない。

 蓋然性の高い県民性の説明をいかにして行うか。県民性に関連する事例を列挙する方法があるが、これは予め県民性を仮説として持ちがちであり、それを支持する事例を列挙しがちとなり、理論負荷性を持つため、根拠のある説明とはならない。
 結局は、それなりの標本数を持ったアンケート調査を実施する必要があろう。しかし、その労力は膨大なものとなり、困難が多い。
 ちなみに内閣府によって毎年実施されている「国民生活に関する世論調査」は、北陸地域の集計を行っているが、その年々の統計値を観察すると地域性の指標としては利用困難である。
 ⇒内閣府「国民生活に関する世論調査」


(1) NHK調査
 こうした中で、極めて古い調査であるが、1996年6月末にNHKにより全国県民意識調査が、個人面接の手法で行われている。各都道府県の標本数が900人(12人ずつ75地点)全国計42,300人の調査であり、有効回答率も70%と高く、それなりに信頼できる調査となっている。この報告書では全国平均から有意(95%)に乖離している指標も明記され、県民意識について考えるための客観的な指標が提供されている。
 以下では、この結果について富山県の県民意識を再考する。ただし、県民意識とは、全国平均からの乖離であり、必ずしも県民の大多数がそのような意識を強く持っているという意味ではない。日本の中で平均からの乖離を議論しても大きな意味を持たないというさめた視点も一方で持っている必要もあろう。

全国平均から有意に乖離した主な指標等
項目富山県 全国
昔からあるしきたりは尊重すべきだ48.2% -57.2%
家の祖先には強い心のつながりを感じる54.0 -56.9
神でも仏でも何か心のよりどころが欲しい50.0  50.0
人は結婚するのが当たり前だ59.4 +48.5
受験競争は子供の能力をのばすために必要23.9 +19.5
今の世の中は一人一人の庶民は無力だ62.3 -69.7
学歴がなければ社会は認めてくれない57.0 -61.8
世の中すべて金次第で良くない47.9 -54.7
お金はしばしば人を堕落させると思う48.5 -52.2
お年寄り等のためのボランティアをしてみたい46.4 -54.3
税金があがっても社会福祉をもっと充実して欲しい48.2 -55.8
普段の支持政党は自民党(フェースシート)40.1 +26.7
富山の県民性と調査結果
 富山県の県民意識については、一般に勤勉で、家族を大切にし助合い、信仰心も厚いなど、保守的だと言われているのではなかろうか。確かに、女性の就業率等は高く、世帯の規模は大きく、生活保護等の社会福祉にたよらず、家族助け合って足腰強く生きており、老人クラブや婦人会・青年団等の地域社会組織の組織率も高く、選挙における投票行動も含めて、総じて保守的な傾向が強いとみられることが多いようである。
 しかし、NHKのこの調査は、このこととは多少意味合いの異なる結果がでている。
 表は、各項目について「そう思う」と答えた人の比率(%)であり、富山県の比率が全国平均から有意(95%)に乖離し、かつ多少気になる項目を中心に列挙したものである。



(2) 伝統意識
 まず伝統意識については、NHKの結果報告でも特に再整理してあり、東北、九州で強く、富山県は全国平均程度となっている。個別の項目でも、富山県では、「しきたりの尊重」や「祖先へのつながり」が、平均以下の方にはっきりと乖離している。
 また、信仰心は全国平均であり、結婚観についてだけ伝統的意識が見られる。
 これらの結果は、通常の富山県の県民意識の認識と異なったものであろう。

(3) 社会意識等
 一方、一人一人の無力さ、学歴社会などといった硬直化した社会のイメージは相対的に少なく、また、金銭感覚ではお金に関する卑しさをあまり感じていないと見られる。
 さらに、社会の助け合いについては、相対的に意識が低い。このことも通常の認識と異なるように思われる。

 ⇒男女平等に関する意識
 ⇒県議会議員の構成

(4) 新たな解釈
 以上のような通常の県民意識についての認識とこの調査結果とのずれをどのように捉えればいいのか。
 保守的で伝統意識が強いとされる根拠の、家族規模の大さ、地域社会組織の組織率が高さ、選挙の投票行動などは、意識というよりも、富山県の地形的成り立ち、産業発展の経過などから結果として出てきただけかもしれない。伝統的な意識構造は他地域ほど残ってきてはいないとすべきなのかもしれない。さらに言えば金銭意識等から見ると功利的な意識が強くでていると解釈した方がよいのかもしれない。
 この解釈を採れば、合計特殊出生率が全国に先駆けて低下したことや高齢者の支援を医療により多く委ねていることなども理解し易そうである。
 ただし、伝統的な意識・規範を解消してきながら、社会福祉やボランティアなどといった新しい社会のための意識・規範の形成は乏しいようである。
 このような図式は日本全体の課題でもあり、富山は世界での中での日本の特徴をより強調してだしていると言えそうである。この意味で富山は日本の縮図だと言いたくなるが、このようなものの言い方が県民意識を語る場合のいい加減さにつながっており、これ以上議論を展開するのはやめた方がよさそうである。

 県民意識の再認識は、むしろ意識が変化してきていると捉えることが的確なようである。ちなみにNHKの全国県民意識調査は1978年(昭和53年)にも行われており、この間に県民意識が大きく変化したことを示唆している。
 ⇒NHK調査新旧比較

 根拠のある県民性の検討は容易でないが、大きく変化してきている可能性もあり、柔軟な発想が求められている。

(統計データ)

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(Mar.20,2015Rev./Jun.1997Orig.)