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第4章 堅実な生活
第3節 安心した暮らし
第5項 福祉総括

1.生活の不安
―小康状態だが続く基盤崩壊―

(1) 生活保護
(2) 雇用
(3) 家庭
(4) 学校
(5) 治安
(6) 都市
(7) 崩壊し続ける生活基盤

 現代社会には解決すべき多くの課題がある(といっても、各時代それぞれに多くの課題があったのだろうが)。そして生活に様々な不安をもたらしている。
 多くの課題は、バブル経済崩壊後、その回復が容易でないことが見えた1990年代後半に、問題を大きくしたが、現時点では、多くの問題を抱えながらも小康状態にあるように見られる。
 しかし、安心した生活を送れる状態にはなく、生活の基盤は崩壊しつつあるのではなかろうか。COVID-19騒動の結果として、人々の生活が一層大きく崩れることが危惧される。

(Jun.29,2020Rev.)



(1) 生活保護
 生活保護率は、'90年代年央を底として上昇を続けていたが、'10年代半ばから横這いとなり、小康状態を保っている。しかし、COVID-19騒動の中で、再び上昇し始めているようである。(右図再掲)
 いずれにしろ、現時点では、全国で人口比1.7%を超えており、我が国の貧困の課題は大きい。
 なお、富山県の保護率は全国で最も低い位置にあり、次に低い福井県からもさらに離れている。



(2) 雇用
 生活保護の拡大は、世帯の経済的困窮によるが、雇用機会を示す失業率については、2010年をピークとして下がってきている。水準としては、摩擦的失業があるとしても、さらに低下する必要があろう。(右図再掲)
 しかし、完全雇用が実現するとしても、非正規雇用を含め、働く人の所得格差に大きな課題がある。
 基本的には、同一労働同一賃金の実現が求められる。ただし、この実現は決して容易でなく、例え実現してもそれで多くの課題が解決するわけでもない。
 富山県の失業率は、全国でも特に低い位置で推移している。



(3) 家庭
 我が国の戦後の離婚率は、高度経済成長期以降低水準で推移していたが、1990年代後半以降に急上昇した。(右図再掲)
 しかし、'00年代後半では、横ばいから低下気味となっている。
 ちなみに、富山県の離婚率は、都道府県の中では特に低い。


 2020年の富山県の自殺者数は209人(警察庁速報)であった。
 人口10万人当たりでは、20.9人となり、都道府県の中では、岩手、山梨、宮崎、青森に次いで高くなっている。地理的分布としては、北東北3県と新潟、富山の高いのが目立っている。


 自殺率は、1990年代後半に中年男子を中心に跳ね上がったが、'00年代以降横這いから低下へと推移していた。
 しかし、2020年は全国各地域で反転しており、特に富山は、前年比32%増でもっとも大きく伸びた。この増加はコロナ禍の影響とも言われているが、富山での伸びの要因ははっきりしない。



(4) 学校
 学校(児童・生徒)の問題が、社会全般の問題とどう連動して起こるかは判然としないが、暴力行為の発生件数は、'00年代後半に増加し、現在は横ばい状態となっている。


 小学校の児童の不登校率は、1990年代に入って増加し、1990年代央以降は漸増ないしは横ばい状態となっている。


 中学校の生徒の不登校率も、1990年代の入って増加し、1990年代央以降は漸増していたが、'00年代後半から低下の様相が見られ、都道府県の中でも特に低い県となっている。
 富山県では'00年代後半の低下が特に大きい。



(5) 治安
 交通業過を除く刑法犯(窃盗が大部分)の認知件数については、長期間漸増し、さらに'00年代の初めに急増したが、その後急低下し、現時点では1970年代央(高度経済成長直後)の水準をさらに割って低くなっている。
 富山県の人口当たり認知件数は、相対的に低い水準で推移している。



(6) 都市
 ホームレスは、大都市地域に偏っている。この人数については、その調査方法等について問題が指摘されたりはしているが、2000年代を通じて経年的には大きく減少していることは間違いないであろう。
 ⇒ホームレス



(7) 崩壊し続ける生活基盤
 以上のように、生活状況の急激な悪化は一段落し小康状態となっている。しかし、結婚し子どもを育てるといった普通の生活が難く、社会の崩壊が進んでいるのではなかろうか。そして、COVID-19騒動によりさらに悪化するのではなかろうか。

 合計特殊出生率は、回復を期待されながらも、1970年代央以降、低下し続けていた。しかし、'00年代央で底ち、若干の増加傾向も見られたが、先行きは定かでない。(右図再掲)
 全国の合計特殊出生率1.4は、一世代で人口が70%に減少し、半世紀で半減する水準であり、異常な水準と言っていいだろう。


 結婚し、子どもを育てるというのは、各自の選択ではあるが、その選択が自由にできない社会は危うい。婚姻率の低下は、当初は各自の自由な選択により晩婚化が進んでいるのだという解釈がなされたが、生涯非婚と見られる者も増加し始めている。仮に個人の選択として、個別には、これを受け入れるとしても、子育てが困難な社会、当たり前の生活ができない社会は、改められる必要がある。(下図再掲)
 ちなみに、富山県の未婚率も男の若年層から全国水準を上回り始めている。

 バブル経済崩壊以降、働く人の所得は停滞、減少を続けている。この結果、低所得層の人がかなり増大している。(右図再掲)


 さらに、社会保障の切り詰めがなされ、各種ケアの負担が増大している。(右図再掲)



 以上は思いつく指標を列挙したもので、あるいは恣意的になっているかもしれない。しかし、それぞれ小康状態にあるとはいえるだろう。
 ただし、状況が改善していない課題も多く、基本的には生活基盤の崩壊が続いているのではなかろうか。

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(Jan.24,2021Rev./Aug.06,2013Org.)