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第4章 堅実な生活
第3節 安心した暮らし
第5項 福祉総括

2.新たな方向
―ベーシックサービスの公的提供―

(1) ライフステージの支え
(2) 安定した生活の支え
(3) 包括的な支え
(4) 一時的な支え
(5) 財源の確保

 生活基盤の崩壊を如何にしてくい止めるか。基本的には、各自が自立した生活を確保できるように、各種のベーシックなサービスを広く提供していくことであろう。


(1) ライフステージの支え
 長い人生の中には、他者の支えを求めざるを得ない時期がある。これを行政サービスを核とし社会全体で支えることが必要であろう。

@養育保障
 出生児の減少のなかで、働く人の子育てが大きな課題とされてきた。
 子育てを家族あるいは学校に任せてしまうのでなく、社会全体で育てるという、基本的な考え方が求められよう。
 このため、十分な児童手当とともに、各種ケアサービスの提供が必要である。学校運営等への地域社会の参画も進めていく必要がある。

 子育てに関して、保育所の待機児童は、2019年4月時点で富山を含め7県ではないこととなっており、全国各地域でかなり減少してきている。(右図再掲)


A学習保障
 現在、高校卒業者の半数以上が大学・短大等へ、2割強が専修学校等へ進んでおり、これが、子育て世代の大きな負担となっている。
 人生初期における学習(教育)は、社会全体として提供する必要がある。また、各自の再学習(リカレント教育)も社会で保障していきたい。
 このためには、授業料等を求めない教育や返済を要しない奨学金を充実させる必要がある。



B老後保障
 自立した生活ができない高齢者・障害者の支援も社会で行う必要がある。
 その基礎に年金制度があるが、既に永続性のないものとなっており、単に支給開始年齢の引き上げだけでなく、支給額の引き下げ等を含めた改革が早急に必要である。
 また必要な介護サービスは、社会で提供していく必要がある。しかし、介護保険制度は、限界にきており、費用削減のための手立てが工夫されている。この分野への一層の資金の導入が求められる。特に、介護等で働く人の就業環境改善が求められる。
 なお、地域社会での高齢者を含め多様な世代の交流は、高齢者の活き活きとした生活の確保に大きな意味があろう。
 なお、制度改革の中で在宅指向があるが、現実には、施設居住者とともに単身・夫婦のみ世帯が次第に増加していることを確認しておく必要がある。



(2) 安定した生活の支え
 安定し見通しを立てることができる生活のためには、安定した所得の確保と不測の事態に対応できる環境が求められる。

@就業保障
 所得の確保については、主として企業の役割であり、企業経営者は、働く人の立場に十分配慮すること求められる。単純な発想では、働き手が減少すればそれに応じて賃金が上昇するのだが、実際にはこうしたメカニズムは働かない。このため、働く人が安定して十分な所得が得れるよう、行政のそれなりの介入が避けられない。
 最低賃金の決定はもとより、雇用形態、働き方等、様々な側面で、人間らしい生活ができるよう保障していく必要がある。


A医療保障
 不幸にして傷病に見舞われた人への支援も公的に行われる必要があり、医療保険制度が整備されている。
 医療保険についても財政的な困難から、病床の削減などが図られているが、適正な運営が求められる。(右図再掲)



(3) 包括的な支え
 以上のような公的サービス等が適切に提供されれば、困窮に陥る人はかなり減少するであろうが、最後の砦として、生活保護の制度がある。

 都道府県毎の総人口中の生活保護を受ける人の比率は、'90年代半ばを底に増加し続けてきた。ただし、2010年代半ばに至って、横這い気味に推移している。(右図再掲)
 富山の受給者の比率は極めて低いが、若干の増加の様子が見られる。



(4) 一時的な支え
 コロナ禍の困難の中で、多様な救済手当が乱発されている。
 このような手当は緊急事態対応として許容されるのだろうが、制度的な正当性に乏しく人気取りのためのバラマキ施策になりがちである。
 手当に長期的展望がなければ、将来不安の中でその多くは貯蓄へ回り、景気浮揚効果は乏しくなる。また、財源の議論も顧みられない。
 さらに、多様な消費を契機とする支援では、それを利用できない低所得の人もおり、結果として逆進的な制度となる。GotoトラベルやGotoイートなどは、この観点からかなり危うい。


(5) 財源の確保
 人々の生活に必要な公的サービスを提供し続けるには、多額の財源が求められる。これには負担と提供サービスの関係を明確にして、消費税を引き上げて賄っていく必要があろう。

 都道府県財政の歳出の中での扶助費の割合の推移を見ると、'90年代前半、'00年代前半に大きく低下しているが、これは財政難から生活保護費支給の切り詰めが行われたものである。保護を受ける人の生活が、一層厳しい状況に陥っていることが想像される。(右図再掲)


 各種ケアサービスの差別のない公的提供こそ安心した生活の保障になるとともに、格差の解消にも繋がるのではないか。
 現在、財政難の中で、社会保障関連歳出の抑制のために、各種公的ケアサービス提供の削減が図られている。個々の政策展開との因果関係は慎重に検討しなければならないが、こうしたケアサービスの削減が、人々が困難に陥る契機となり、生活保護受給者を増加させる可能性を持っている。
 富山なりに充実したサービス提供を行いたいところであるが、全国一律の制度運用の中で、独自の施策展開は難しい。
 各種ケアを公的に支援することは財政的に厳しが、その他の歳出からの転換とともに、増税も厭わず対応していくことが必要でなかろうか。ケアの受給対象者を所得などで区別せず、真に必要な人に提供する制度によって、増税への理解も得ることができるであろう。
 なお、行政サービス以外の地域の皆で支え合う仕掛けを創っていくことも十二分に留意しておく必要がある。



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(Nov.17,2021Rev./Aug.07,2016Orig.)