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第4章 堅実な生活
第2節 安心した暮らし

第1項 自立した暮らし
―極めて低い生活保護率―

(1) 低い生活保護率
(2) 低い貧困率
(3) 民生委員の活動

 富山県の生活保護率は極めて低い。経済社会環境が、少なくとも相対的には、良好と評価していいだろう。


(1) 低い生活保護率
 富山では、人口当たりの生活保護受給者数が極めて少なく、2022年度で生活保護率は全国最低の4.2‰となっている。これは、次に低い長野の5.4‰からも乖離している。
 全国の中では、中部の諸県が特に低い。
 逆に、受給率の高いのは、大阪、北海道、沖縄、高知などである。
 ちなみに、最も高い大阪府の受給率は30.4‰であり、富山の7.2倍となっている。


 全国の生活保護受給者数は、概ね1980年代半ばまで横這いで推移してきた後、バブル経済の中で減少していた。しかし、バブル崩壊とともに横這いとなり、1990年代半ばを底に再び増加し始めている。これは、企業がその構造改革における雇用削減の一環として、解雇を厭わなくなった時期と重なっている。
 さらに、リーマン・ショック後の経済的混乱の中で、2009年度に生活保護率が急上昇し、かつての安定した水準を超えるものとなっている。富山でも全国最低ではあるが、1999年を下限としてその後わずかな上昇を続けている。
 なお、2010年代半ばからは各地域ともおおむね横ばいとなっており、特に高かった地域は低下気味に推移している。ただし、富山県については、'10年代後半以降上昇が続いており、今後注視しておく必要があろう。特に、2022年度については、他地域では横ばいが多かったが、富山は0.2‰ポイントの増加で、全国で最も増加幅が大きかった。
 実際に生活保護を受けているのは、高齢者世帯、母子世帯、傷病者世帯等が多く、労働市場の限界的な部分から弾き出されていると考えられよう。
 コロナ禍で生活保護の申請は増加しているとのことだが、実際の受給者は減少の趨勢が続いているのは、却下が多いということであろうか。



 生活保護の扶助の種類別で見ると、富山県では、生活扶助が2.89‰、医療扶助が2.82‰、住宅扶助が2.41、介護扶助が0.82‰などとなっているが、いずれも全国値に比べて極めて低い。


 富山県での生活保護率が低いのは、@世帯規模・世帯構成などから見られるように家族の支えがあると考えられること、同時にA若年層で単身になる者や母子世帯等になる者が少ないと考えられること、B有効求人倍率など労働関係指標から見られるように働く場があることなどが考えられる。なお、働く場については、地場で生まれ育った企業があることともに、行政が土木事業、農業振興事業等に注力してきたことも背景にある。
 ⇒生活保護率の決定要因
 ⇒年齢階層別生活保護率


申請取り下げ却下取り下げ
+却下
全国
(申請比%)
226420
100
11104
4.9
13387
5.9
24491
10.8
富山県
(申請比%)
543
100
15
2.7
54
9.9
69
12.7
うち富山市
(申請比%)
322
100
5
1.5
41
12.7
46
14.2
 世間体あるいは自立心から敢えて保護申請をしない、あるいは、行政窓口が受付を抑制しているという議論もあるが、この実態は確認できない。
 ちなみに保護申請に対する却下件数の比率が富山市でかなり高いが、取り下げ件数が少なくなっている。これは、いわゆる門前払いが少なくなっているということであろうか。

 ⇒生活保護の捕捉率


 なお、高齢者については、家計調査統計から見て、それなりの年金を受給している人が相対的に多いと考えられる。
 ⇒生活保護を考える


 ちなみに地方自治体が行っている児童生徒の就学援助について、地方自治体によって制度が異なり一律に捉えられないが、統計で捉えられている範囲では富山県の援助率は5,582人で児童生徒の6.7%であり、道府県の中では最も低い。


(統計データ)


(2) 低い貧困率
 所得格差の指標としてジニ係数があるが、これは人々の困窮状況を直接表すものでなく、所得の分布形態がかなり異なっていても同じ値になりうる。このため困窮した人々の割合を直接表す指標として貧困率が用いられる。これは、世帯等の所得を実質的な一人当たり所得に換算し、その中央値(所得順に並べて真ん中にいる人の所得)の1/2以下の所得の人の比率である。ただし、これを算出するには素データからの加工が必要であり容易ではない。実際には、関係する研究者それぞれが工夫して求めたものが発表されている。なお、統計制度が変更され、素データの利用がそれなりにできるようになっており、今後は、質の良い推計統計がいろいろと計算されるであろう。

 右図は、田辺和俊(東洋大学客員研究員)、鈴木孝弘(東洋大学教授)「都道府県の相対的貧困率の計測と要因分析」(日本労働研究雑誌〈投稿受付2016年10月4日,採択決定2017年10月13日)の「『住宅・土地統計調査』データに基づく都道府県別貧困率」である。
 これによると、富山県は10.2%で都道府県の中で最も低い。
 全国では13.4%であり、中部地方の諸県が総じて低く、大都市の都府、九州・四国の県で総じて高い。


 貧困率の経年変化をみると、'90sに貧困率が高くなっており、2000年代に入って若干低下している。


 ちなみ貧困率と生活保護受給率にはある程度の相関があることが確認できる。
 ⇒生活保護率の決定要因


 厚生労働省は、貧困問題と社会保障政策の効果の解明のために「所得再分配調査」を行っているが、新聞概要報道ではジニ係数を用いて、政策の効果として格差は横這いないしは若干の改善と説明している。しかし、これだけでは、貧困の多様な状況にほとんど踏み込んでいない。



 (統計データ)

(Sep.08,2019)



(3) 民生委員の活動
―富山県での民生委員の活動は中程度―

 民生委員は地域に住む人の福祉を支える最後の相談役だが、その活動は地域毎、各民生委員毎によって様々である。このため実態は分かり難く、その仕事に関係していない者が統計のみで考察しようとするのは、極めて乱暴である。ここでは、このことを承知のうえで、参考までに統計を整理しておく。

 民生委員への年間相談件数は、富山県では70,672件で、人口当たりでは、67.3件/千人であった。
 この人口当たり件数は、地域によって大きな差があり、一般に大都市圏の都府県で少なくなっている。


 民生委員の人数は、富山県では2,539人、人口当たりでは2.4人/千人である。
 各都道府県の人口当たり民生委員数は、相談件数の多い地域ほど多くなっている。
 富山県は概ね都道府県の中程の位置にある。


 相談の内容について、富山県で突出しているのは、日常的な支援である。全体の1/3を超えこれは全国で一番多い。

(統計データ)


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(Mar.09,2024Rev.)