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第5章 ゆとりある郷土
第6節 県土利用の再確認
第1項 土地利用計画
2.県土利用計画 ─開発事業指向の土地利用計画─
県土利用計画は、土地利用の変化の趨勢に沿って策定されており、結果として開発指向の内容となっている。
ここでは、次項の内容と重複するが、計画策定の背景となる近年の土地利用の変化に触れておく。
現時点(2024年11月)の「富山県土地利用基本計画」は、2013年作成に作成された第4次計画で2010年基準〜2021年目標となっている。
これ以降は改訂されておらず、富山県土地利用審議会の直近の開催は、2016年であった。
今、何が求められているか。
人口減少を直視するとともに、地球温暖化への必要な対応を強調すること。
@都市をコンパクトにまとめる
交通量の削減
建設事業の削減 空家の有効利用
災害防止は国土強靭化というより脆弱地の回避
A食料確保
持続できる経営を支援
具体的に政策と連動した計画が求められるのではなかろうか。
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(1) 国土利用計画富山県計画
国土利用計画富山県計画が2013年3月に策定された。計画期間は、2010年を基準として2021年までのものである。
前回の計画は期間が2010年で終了していたが、県の新総合計画策定を待って改めたということである。
前回計画期間中の各地目の土地面積の実際の変化を計画の目標と比較すると、農用地などの変化に見られるように、実績が目標の半分程度にとどまっている。
そして新たな計画の目標は、前回の期間の実績のさらに半分程度としている。
農地面積の年々の減少量について、これまでの実績と土地利用計画の年当たり変化の水準を重ねて見ると、土地利用計画の目標水準は、計画策定時点での実際の年当たり農地減少量となっている。これは実態に沿った計画であり、意図的な方向性を込めたものではないと言えよう。
「目標」という言葉には違和感があるが、計画で使っている言葉である。
(2) 地目別面積の変化
2007〜2010年の10年間の地目別面積の変化についてみると、農地と水面等(河川・水路)が減少し、道路と宅地に入れ替わっている。これ自体は、国土利用計画富山県計画(2010〜2021年)の内容に沿うものである。
しかし、計画量自体が、常軌を失しているように思われるのだが、いかがだろうか。
増加した住宅地約7.5km2は居住密度をDID下限の40人/haとすれば30000人に相当し、人口減少の時代に異常な大きさではなかろうか。この多くが農地から転用され農地の減少も12.3km2であり、農地を守る視点から見ても問題がある。
2000年代に入ってからの地目別土地面積の変化の推移を見ると、'00年代の当初は、、地目の変化がかなり大きかったが、次第に減少し、'10年代では、年々の振れはあるが、農地で概ね100〜200ha減少の横ばいとなっている。
また、この農地の転用は、主として、宅地と道路となっている。
近年の統計については、km2単位でしか入手できていないので、かなり粗い整理となっている。
宅地については、住宅地が主体であるが、商業施設等のその他の宅地としての利用もある程度含まれる。
工場用地は、減少気味で推移している。
全国の都道府県の人口当たり住宅用地の完成面積の推移を見ると、富山県では、'00年代前半にかなり大きかったが、現在は鎮静化している。(この統計の発表は現在2009年度で途絶えている。)
現在の住宅事情や人口の減少趨勢を鑑みると、今後ますます少なくなっていく、あるいは少なくっていくべきとも考えられるが、世帯の新築住宅需要や建築事業者の旺盛な供給姿勢から見ると、実際の動向にははっきりしない面がある。
近年、空家が急速に増えている。マスコミが取り上げ、行政も対応を検討している空家問題は、街中の空き家が周辺に迷惑を及ぼしていることである。
一方で、マクロ的な課題もある。人口減少(現時点では、世帯数は単身世帯化により増加しているが間もなく減少へ転ずる)にも拘わらず、新設住宅が増加し続けていることである。これは、街中(DID)での居住者の減少、人口密度の低下をもたらし、都市の発散に繋がっている。このことは、例えば、富山市中心部の人口減少、高齢化などに典型的に現れている。
なぜ、空家が増えるのか。一つは、既存住宅の転売市場が育っていないことである。これは、これまで土地のみ評価して中古住宅の転売を行ってきたためであり、不動産業者にとって必ずしも魅力ある事業となっていないためであろう。ホームインスペクター(既存住宅の評価者)の機能が発展していないためであり、新たに住宅を求める人は、新築住宅を指向することとてなっている。
これに対して、郊外での住宅地の供給が安価になされている。都市内で既存構造物を撤収して整地するより、郊外の区画整備された田の転用は安価なものとなり、自己所有の田であれば高い価格を設定しなくても採算が合う。結果として、これまで、市街化区域以外の住宅団地が無秩序に開発されてきた。
工場立地の動向については、実態としても、経済の一層の国際化、産業構造の変化等から考えても低水準で続くと見られ、新たな工場用地への転用は限られたものとなろう。
ただし、太陽光発電のための土地利用が急増している。ちなみにグラフでは2010年以降の太陽光発電は除かれている。
他方、道路については、現在、富山県の道路は全国の都道府県の中でも整備されており、さらに、急速に拡張されているが、これは方向転換がなされるべきものではなかろうか。(右図再掲)
一定の資金の下では、平野部が主体の富山県では、最も効率よく道路が整備されていく。そして、国からの一定の資金の流れがある中では、主体的な事業の縮小は容易ではない。地域としての対応が難しくなっている課題といえよう。
富山県の土地利用計画(「富山県土地利用基本計画書 目標年平成33年」)や長期住宅計画(「富山県住まい・まちづくり計画 平成23年度〜平成32年度」)を見てもこのような土地利用の適正化を図ろうとする姿勢はない。
このように国土利用計画富山県計画には、各種の開発事業を制御していこうとする発想はなく、開発事業がある場合には、その事業が円滑に展開できるように、その展開を是認するための根拠として土地利用計画を決めているに過ぎないと言えるのではなかろうか。
農地保全、地球温暖化抑制、公共交通利用拡大、さらにはコンパクトシティ形成などといった視点からの土地利用調整を行おうとする姿勢が見られない。
経済社会環境を十分に配慮し長期的な観点から土地利用を制御していくということは、今日の為政者には、ほとんど展開できないこととなっているように思われる。
(統計データ)
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(Jun.10,2020Rev./Jun.05,2013Orign.)
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