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第5章 ゆとりある郷土
第6節 県土利用の再確認
第2項 土地利用制度の運用
1.都市形成 ―人口のスプロールを助長した都市計画―
都市計画は人口のスプロールを防ぎ、一定の地域に人々がまとまって住むことを意図したものであるが、富山県では、かえってスプロールを助長してきた。
(1) 土地利用計画が実現せず逆効果となるメカニズム
富山県での人口の都市に向かっての集中については、模式的には、次のように説明できよう。
富山・高岡の両市の中心部では、地価の水準や生活機能の喪失から、既に居住人口の空洞化が進んでいる。
そして、建前としては、周辺の市街化区域内の住宅地化でその流出を受け止めている。ただ、この区域自体は相当の面積的余裕を持って設定されているのだが、都心の空洞化による流出と全県からの人口の集中を受ける機能を十分に果たしていない。
実際には、都市計画地域内の市街化調整区域を飛び超えて、より地価の安価な周辺市町に人口が広がっている。さらに、道路網の整備によってこの流れに拍車がかかっている。ちなみに市町村合併前の旧範囲の富山市・高岡市では、既に人口流出超過となっている。
富山市・高岡市の周辺市町では、都市計画の用途地域となっている部分もあるが、その他の地域での農用地の転用で対応されている部分も多い。
さらには、市街化調整区域での住宅団地整備もかなり多い。
都市の中では、中高層住宅等の整備があまり求められないこと、市街化区域内の遊休地・農地の保有経費が低いことなどによって、十分な土地の高度活用が進められていない。一方、幅の狭い市街化調整区域(通勤等の時間をほとんど要しない幅)を超えた周辺地域に宅地の豊富な供給がある。これらの事情によって、富山県では密度の高い都市形成が進んでいない。
近年、県内を回って感じる印象では、大きく広がった一塊の農業用地が極めて少なくなってきている。農業用地の見晴らしを遮る住宅地が、年々、蚕食されてきている。そして、未だ残る広い農業用地は、富山市の北部や射水平野など、かえって市街化調整区域にみられる。
これは、農業振興計画でなく、都市計画によって農地が保全されている状況といえるのではなかろうか。また、都市地域直近の宅地のスプロール(拡散)を押さえながら、さらに離れた地域でのスプロールを許しているのは、県土全体としての土地利用計画に整合性がないことになるのではなかろうか。
富山平野として食糧生産の責務を果たしていくこと、あるいは人口の減少や工業用地等の需要の限界が見えていることなどを考えると、現在の富山県の土地利用の展開は極めて危険に感じられる。
都市計画や農業振興計画の土地利用規制の制度は、全国一律の制度である。地域なりに十分に咀嚼し、地域に合った制度の運用を主体的に展開していくことが求められているといえよう。
土地利用の制御は極めて困難な事業であり、総論賛成・各論反対に陥りがちな課題であるが、県民が共通認識を持ち、早急に対策を講じていく必要があるのではなかろうか。
⇒土地利用制度の柔軟な運用の事例
(Jan.20,2002.Rev./Jan.24,1998.)
(2) 都市計画の区分と人口
国勢調査を元にした、都市的様相の検討については、従来、DID人口を利用してきた。
2010年の国勢調査では、都市計画の各土地利用区分毎に人口等が集計され、発表されている。
やはり、富山県では都市の集積が乏しいと言えそうである。
都市計画の各土地利用区分毎の人口については、地域全体の地形や従来からの居住形態などが大きく影響しており、その評価を安易に行うことはできない。
経時的変化が分かれば、ある程度の判断はできようが、この件については国勢調査の過去のデータを求めることができない。
しかし、富山県の都市計画各土地利用区分毎の人口についてみると、市街化調整区域及び非線引き非用途地区を合わせた本来人口集積を図らない区分の人口が37%と大きなものになっている。
これは、都市があまり形成されていない状況と見ることができよう。
例えば、福井県の状況と比較すると、まず富山県では線引き都市計画地域の人口の比率がかなり大きい。
そして、この中では市街化調整区域の人口の比率が63%と極めて大きなものになっている。
他方、非線引き都市計画区域では、非用途地区の人口が23%とやはり福井県に比べて大きい。
富山平野では散居村的居住形態が取られてきた経緯があり、富山県での都市計画(土地利用計画)の展開の評価は難しいが、市街化調整区域あるいは非線引き都市計画区域の非用途地区で大規模な住宅団地をかなり進めてきたことは事実である。
このため、交通(道路等)、給排施設(下水道等)を中心とする基盤施設整備がコスト高であったことは否めない。また、今後の維持も高いものとなろう。
さらに、高齢化社会の中で、人々の繋がり合った社会をどう維持していくかなども大きな課題である。
(Mar.01,2012)
都市計画法では、市街化調整区域(非用途地域)は都市的開発を抑制すべき地域として位置づけられている。また、非線引き都市計画区域の非用途地域の多くは農業振興法上の農用地区域となっており、農業が継続されるべき地域として位置づけられている。
富山県の都市計画区域内での用途地域人口の比率は、61%に留まっており、都道府県の中では36番目となっている。
都市計画法や農業振興法が成立してから50年近く立っているが、用途地域の人口比率が低いということは、土地利用の考え方があまり生かされていないということになる。
それぞれの県の地理的環境、歴史的経緯もあり一概に決めつけれないが、用途地域の人口比率が低い状況は、法律違反はないまでも、土地利用計画をかなり柔軟に運用をしてきていると推測される。
都市計画区地域分別人口 2010年国勢調査 | 人口 | 構成比 |
全国 | 富山県 | 石川県 | 福井県 | 全国 | 富山県 | 石川県 | 福井県 |
都 市 計 画 区 域 計 | 線引き 都市計 画区域 | 市街化区域 | 87,491,540 | 462,102 | 638,582 | 210,351 | 69.7% | 43.3% | 56.1% | 26.7% |
市街化調整区域 | 9,810,897 | 132,977 | 86,307 | 35,334 | 7.8% | 12.5% | 7.6% | 4.5% |
計 | 97,302,437 | 595,079 | 724,889 | 245,685 | 77.5% | 55.7% | 63.7% | 31.2% |
非線引 都市計 画区域 | 用途地域 | 7,657,584 | 153,803 | 104,724 | 262,227 | 6.1% | 14.4% | 9.2% | 33.3% |
非用途地域 | 12,223,126 | 260,782 | 168,277 | 198,891 | 9.7% | 24.4% | 14.8% | 25.3% |
計 | 19,880,710 | 414,585 | 273,001 | 461,118 | 15.8% | 38.8% | 24.0% | 58.6% |
用途地域計 | 95,149,124 | 615,905 | 743,306 | 472,578 | 75.8% | 57.7% | 65.3% | 60.0% |
非用途地域計 | 22,034,023 | 393,759 | 254,584 | 234,225 | 17.6% | 36.9% | 22.4% | 29.8% |
計 | 117,183,147 | 1,009,664 | 997,890 | 706,803 | 93.3% | 94.5% | 87.7% | 89.8% |
非都市計画区域 | 8,362,456 | 58,230 | 139,903 | 80,305 | 6.7% | 5.5% | 12.3% | 10.2% |
計 | 125,545,603 | 1,067,894 | 1,137,793 | 787,108 | 100.0% | 100.0% | 100.0% | 100.0% |
富山県では、農地保全上の問題があるにも拘わらず、団塊ジュニアの世代が結婚し世帯を形成した1990年代の半ばにかなりの農地が宅地に転用され小規模団地などが形成された。今後、2010年代以降については、市街化区域内の残された農地の宅地化が進み、総世帯数が減少する中で、結果として、既存住宅地の中で空き家が増えるとともに、かつて形成された小規模団地では高齢化そして空家化が進みゴーストタウン化の課題が顕在化してくるであろう。
⇒土地利用計画の遵守
⇒2016年の都市計画の大規模変更
(Sep.03,2013)
(統計データ)
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(Mar.15,2015Re-Ed.)
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