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土地利用制度の柔軟な運用の事例

(1) 正当な宅地開発
(2) 既存都市の外縁の開発
(3) 非線引き区域での開発
(4) 市街化調整区域内での開発

 都市計画制度は一定のまとまった地域に都市を形成していくことを目指したものであり、新たな住宅地の開発は、原則として既存の用途地域の中で行われることが念頭に置かれている。しかし、この原則を外れた方が新規開発が容易にできる面があり、結果として、制度が都市のスプロールを助長しているようだ。


(1) 正当な宅地開発

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富山市経堂
(富山市経堂)
 既存の市街化区域内での残存農地等の宅地化等は土地利用計画の理念に則った正当な開発である。
 ただし、今日まで宅地化されずに残っていたことが、制度の不徹底を示すものだとの指摘もある。
 また、現在、人口減少が明確になってきた段階で、宅地化を急いでいる様相もあるようだが、これは実証できている訳ではない。



(2) 既存都市の外縁の開発

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富山市下飯野
 まず、既存市街地の市街化区域に連なった市街化調整区域での開発が目立つ。これは、土地利用計画の内容を知らない限り正当な開発に見えるだろうが、計画の主旨からは外れるものである。
 この場合、市街化調整区域を市街化区域に切り替えている場合とそのまま開発する場合がある。

(富山市下飯野)
 ニュータウン嬉野は、2018年分譲が開始され、2019年には北日本新聞住宅が展開催されている。国道415号線に沿い、あいの風鉄道東富山駅直近地でもあり、既存市街地に隣接している。住宅地としては、極めて好ましい立地といえよう。
 ただし大規模な商業施設の整備も同時に行われており、富山市全体としてはスプロールが助長されている。


 右図は現在(2019年Web.)の土地利用計画図である。
 当該地域は、市街化調整区域、農用地区域(一部白地)となっており、本来、都市的整備を抑制する地域である。
 この宅地化についての評価は、都市の拡張をどう制御していくかの姿勢の問題であろう。
 この地域の南部では、あいの風鉄道に新駅(鍋田駅)を設け、宅地を整備していこうという構想もあるが、住宅地に好ましい立地だとしても際限のない開発を続けている。
 ちなみに、1997年に、この南側に済生会病院が富山市都心部から移転してきている。


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婦中町
(旧婦中町)
 旧婦中町では、ファボーレの開設に伴って、新たな市街化区域の設定が行われるとともに、周辺の市街化調整区域の宅地化もかなり進んでいる。
 この地域の整備については、カドミ汚染田の再生の最終調整の問題もあったが、かなり無秩序に広がっているように見える。


 ファボーレ(右図の赤枠区画)は、市街化調整区域から市街化区域に変更されている。

 また、かつて、ねむの木団地(右図南端の青枠区画)の開発は、市街化調整区域を超えた非線引き区域で行われているが、このような見識は今日では見られない。

 右図は1993年の土地利用計画図。



 右図は現在の土地利用計画図。
 (以下、同様。)



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高岡市南
(高岡市南部)
 高岡市の南部(連続した市街地の南端)でも市街化区域の範囲を超えて開発が進んでいる。
 この地の開発は、テクノポリス計画やテクノドームの建設が先鞭を付けているが、今日ではイオンモールの立地、さらには 新幹線新高岡駅(ここは以前からの市街化区域の南端)の整備が進んでいる。



 イオンモールの開発に際しては、新たな市街化区域の設定が行われている。
 仮に、この変更を拒めば、砺波市への立地があり、高岡市にとって不都合であったであろう。

 ちなみに、おとぎの森の範囲も新たな市街化区域である。


 現在の土地利用計画は、右図からさらに新幹線駅の部分が市街化区域に改められている。

 さらに、イオンの拡張計画があり、駅南部の市街化調整区域・農業振興農業区域の転用が当然行われることを前提に議論されている。土地利用計画の遵守について一顧だにされていないが、どのように捉えればいいのだろうか。
 ちなみに、かつて立山町にイオンが進出しようとした際には、土地利用計画を根拠に当然のように否定されている。
 いろいろな土地開発事業について、その是非の判断が土地利用計画とは別にあり、その判断の根拠として土地利用計画が便宜的に利用されているようだ。
 全国ベースの大型店は、人口減少等を含めて経済状況が変化する中でたやすく撤退する可能性がある。高岡は街を固めることを考えていないと、ますます寂れていく恐れがある。

(May.04,2016)




(3) 非線引き区域での開発

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砺波市北部
(砺波市北部)
 富山高岡広域都市計画区域の範囲を超え、その直近の非線引き区域での開発が盛んに行われている。
 富山高岡広域都市計画区域内であれば市街化調整区域となっておりその開発が規制されているが、この範囲を超えれば、都市計画の規制は外れる。
 ただし、多くは農業振興地域となっており、さらに農用地区域となっていることも多いのだが、非農用地区域(白地)と併せて、かなりの整備が行われている。 

 砺波市北部の農地の中に点在する小規模住宅団地はこの典型的事例である。
 

 現在の土地利用計画図を見れば、この状況は一目瞭然に分かる。
 砺波市側の農業振興地域では宅地開発が進み、非農用地区域がかなり混在している。
 これに対して、高岡市側では、非農用地区は限られている。
 このような対比は、都市計画の市街化調整区域(高岡市)で農地が保全されたが、この規制のない非線引き都市計画区域(砺波市側)で開発が進んだ結果である。
 砺波市が非線引きであるのは、建前として、高岡市に比して都市的整備が想定されなかったからであるが、規制しないことによってかえって開発が進んでおり、地域全体として見れば、土地利用計画の失敗は明らかである。





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高岡市・砺波平野北部、北陸本線福岡駅南側
非線引き区域
(旧福岡町)
 砺波平野でも、高岡市(旧)に隣接した高岡市福岡町の非線引きの都市計画区域でも、同様の開発が進んでいる
 大概、農業振興地域の農用地区域であるが、農地の住宅地への転用が比較的柔軟に進められてきたようで、かつての散居村と明らかに異なる無秩序な住宅立地が進んでいる。旧来の住宅と近年建設された住宅とは、樹木の有無である程度識別できる。

 この場所は北陸本線の車窓からもある程度眺めることができ、新たな住宅が乱立し風景をさえぎっている。


 北陸本線南側でも福岡駅直近の地域は用途地域となっており、その限りでは近年の宅地開発と都市計画との整合性はあるが、その範囲を超えて新たな宅地造成が進んでいる。

 地図上の用途地域(赤斜線の範囲)の西南端にある学校が、写真上の東北端にあるグランドを伴う建物(学校)である。
 農用地区(黄色塗りの範囲)でも新しい住宅(地図上になく、写真上では木が育っていない)が散在している。




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富山市大山町西端、月岡住宅団地の東側
非線引き区域
(旧大山町)
 一方、旧富山市に隣接した富山市大山町の西端は、市街化調整区域の外側で福岡町と類似した立地にあり、従来の散居村の様相も残るが、新たな住宅地として、一定の広がり(概ね2,3ha)を持った住宅団地開発が進められている。福岡町と比較すればある程度の秩序を持っている。
 実際には、これまで行われてきた水田の区画整理事業が基礎となって、住宅団地の区画が形成されている。
 ちなみに、このさらに西側の旧富山市内の市街化調整区域には、県が開発した月岡住宅団地がある。




 新たな宅地造成でも以前から計画され、農用地区域から除外されていたものと、近年まで農用地区域であったものが混ざっていることに注意する必要がある。



 右の写真は、かつてのこの地域のものである。この後に農業投資で耕地整理が行われ、それを基礎としてさらに宅地化が行われている。




(4) 市街化調整区域内での開発

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富山市神通川下流左岸
市街化調整区域
(富山市つばめ野(四方))
 実は、市街化調整区域でも大規模な住宅地開発がかなり行われている。
 これは、小公園等の整備を含め計画的に展開されるということで、従来から許容されているものである。

 近年では、例えば、富山市神通川下流左岸の開発があり、その西側には、射水平野が広がっている。


 この地域では、特に、市街化区域化の手続きも行われている。








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富山市常願寺川下流左岸
市街化調整区域
(市街化調整区域での公共施設の整備)
 他方、富山市(旧)の海岸線近く、常願寺川左岸の市街化調整区域では、扇状地の末端で沖積平野的な地域であり、孤立した住宅はなく集落を形成している。潜在的には人口が増え住宅が乱立する可能性がある地域だが、市街化調整区域での規制に守られ、スプロールが防止されている。
 近年の宅地開発としては、運転免許センタ、市営球場、斉生会病院、リハビリ病院、東高校など公的施設の整備が際立っている。

 この場所は北陸本線の車窓からも眺めることができ、広がった農地の中のリハビリ病院が目立つ。



 以上のように、富山県においては、市街化調整区域では公的な施設、住宅団地を別にすれば都市のスプロールがある程度防がれてきたが、その外側の非線引き地域では、住宅のスプロールが進んできており、今日まで続いている。また、調整区域内でも幾つかの大規模な住宅団地開発が展開されている。
 市街化調整区域の設定は、1970年以前に行われており、自動車の利用により幅の狭い設定では無意味となることが十分に予想されなかったようである。その後の自動車社会化の中で、県土全体を市街化調整区域にすべき事態となったのだが、積極的な対処はなされなかった。
 現在、既に県全体として人口減少が始まり、世帯の減少がまもなく始まると予想されているのだが、最後の機会として農地転用による住宅地整備が盛んに進められているようだ。

 このような土地利用計画の失敗は、全国各地で見られる。
 かつて、大都市圏を念頭に置いた都市計画法が、全国一律に適用された。しかし、大都市圏以外の地域では、市街化調整区域の設定が十分になされず、自動車社会の中で、かえって、線引き都市計画区域の外側での宅地の開発がもたらされた。
 こうした状況が見えた時点で、即座に都市計画の線引きを改める必要があったが、これは困難な作業であり、結果として放置された。
 本来、農業側の見識も問われているのだが、平野部の優良農地保全を本気で考える主体は、存在していないと思われる。

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(Nov.06,2019Add./Aug.30,2008Orig.)