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第5章 ゆとりある郷土
第5節 災害と安全
第1項 人為災害

3.交通事故死亡
―減少は限界か―

(1) 各都道府県の推移
(2) 富山県の推移
(3) 道交法違反
(4) 高齢者の事故

 交通事故死亡者数は漸減しているが、その限界に近づいているようにも見られる。また、高齢者の関係する事故が目立つようになってきている。

(1) 各都道府県の推移
―長期的減少趨勢―

 全国各都道府県で交通事故の減少が進んでいる。
 しかし、減少の趨勢がある中で高齢者の死亡の増加が懸念されている。

 なお、都道府県毎の事故死者数の実数は小さく、年々の値の変動がかなり大きい。富山県での死亡者数も、長期的趨勢としては漸減傾向にあるのだろう。
 しかし、2015年、2016年、2018年、さらに2021年、2022年に跳ね上がっている。2023年には31人、人口10万人当たり3.1人で都道府県の中では16番目の大きさとなった。


 各都道府県の平均死亡者数について、まず、大都市圏では、公共交通の便が良く、自動車の利用が少なく、人口当たり死亡者数は少なくなっている。これが、全国平均値を引き下げている。
 四国地方等については道路整備、交通事故対策の遅れがあるのではなかろうか。



 都道府県毎の人口当たり自家用車保有台数と人口当たり交通事故死亡者数には相関がある。大都市地域で両方の数値が特に低いことが相関係数を高くしている。
 富山は、自動車保有に比して事故死亡者は若干少ないようだ。



 なお、警察統計の死亡数は24時間以内死亡であり、実際の死亡数とは差異がある。ちなみに30日以内死亡では、2017年の富山での死亡者数は44人であり、24時間以内の19%増となっている。全国では、20%増であった。



(2) 富山県の推移
―減少の限界か―

 ・死亡者数
 交通事故死亡者数は1990年代以降、長期に渡り低下趨勢が続いている。最近年は、年々の変化が激しく、2019年は、34人で1940年代の水準までに戻っている。

 1990年代半ば以降、次第に死亡者数の減少が進んでいたが、その限界に達しているのではなかろうか。これまでの減少は交差点の形状の改善(例えばY字からT字へ)などによったものと思われるが、ここへきて一段落しているように思われる。
 近年死亡数が増加しているのは高齢者であるが、高齢者自体の増加の中で事故死の減少を図っていくのは難しいとは思われるが、何らかの方策はないものだろうか。

 ・事故件数
 交通事故件数及び事故死亡者数は'90年代前半以降低下の趨勢にあった。2000年代に入ってからの動きとしては、事故発生件数及び死傷者数の着実な減少も認められた。
 死亡者数の減少のみであれば、救急医療体制の充実も寄与しているとも見られるが、発生件数の減少については、Y字路のT字化など道路構造の改良、交通標識の充実、交通違反取締り、その他各種の交通事故防止対策が功を奏しているといえよう。
 現在の、年間死亡者数は、自動車の本格普及以前の概ね1955年頃以前の水準に匹敵する。かつて、本格的な交通事故対策が取られる以前の道路や法制度の下での自動車当たり死者数は現在の100倍を優に超える程度となっており、今日では想像できない異常値である。現在の水準は、例えば自殺による死亡者数の1/5以下であり、かなり低くなっていると評価はできよう。




(3) 道交法違反
―長期的低下―

 かつて富山県の道交法違反は人口当たりで見てかなり多かったが、次第に減少し、'00年代半ば以降は、全国平均をかなり下回るようになっている。
 交通事故死亡者の削減のため、違反取締や道路環境の整備等の努力を重ねた結果であろう。
 '10年代後半に富山で検挙が増加しているのは、違反の増加もあろうが、死亡者数の増加の下での取り締まりの強化による面もあろう。


一時停車率
―次第に改善―

 近年の交通事故死亡者数低下趨勢の要因の一つは横断歩道で一時停止しない歩行者妨害についての取り締まりを強化した効果が出ているという説もある。ただし、47都道府県の人口当たり死亡者数と一時停止する者の比率の相関は見いだせない。

 ちなみに、JAFが2024年に行った調査によると、一時停止する車は、全国平均で53%であるが、富山県では32%と低い。
 このような統計は、不確実性が大きくならざるを得ないが、調査方法については下記のとおりであり、JAFなりに最善を尽くしているとみられる。

調査方法
1.横断歩行者はJAF職員
(横断歩道の立ち位置や横断しようとするタイミングを統一)
2.調査日は月曜日から金曜日のみ(小雨を含む雨天時を除く)とし、10時〜16時の間に実施。調査回数は1箇所50回(合計100回)の横断
3.調査対象車両は、横断歩行者側の車線を走行する自家用自動車、自家用トラック(白ナンバー)
4.センターラインのある片側1車線道路で、原則として、調査場所の 前後5m以内に十字路及び丁字路交差点がない箇所で、道路幅員が片側2.75m〜3.5m、交通量が3〜8台/分(目安)とし、制限速度が40〜60km/h程度の箇所

 経年的には、啓発活動や警察の取り締まりによって、一時停車する比率が増加してきていることは確かであろう。しかし、2024年の富山は大きく落ち込んでいる。


 ちなみに、2020年、2021年両年の調査結果を比較すると、それなりに相関があるが、地域によっては、両年で大きく異なった比率になっている。


(Oct.19,2021)



(4) 高齢者の事故
―富山県で特に目立つ―

 富山県内での2018年の高齢者の交通事故死亡は、実数で24人であった。人口10万人では、10.5人となり、全国では3番目の多さである。


 先に述べた通り、年々の交通事故死亡者数は変動が大きい。このため、1年限りのデータで状況を判断することはできない。しかし、何年間かの平均値をとるとしても、その区間でかなりイメージの異なる値となるので、実態を把握することは難しい。
 ただ仮に死亡率を1万分の1とすれば、人口30万人で平均30人、標準偏差約1人の死亡となり、変動の幅としては3人程度を見積もることとなる。これに趨勢的変動、年々の環境変動を加味すれば、特異な変動ということではないだろう。


 高齢者以外の交通事故死亡については、富山県内での2018年は実数で29人で、人口10万人当たり2.6人で都道府県の中で19番目の大きさであったが、やはり年々の変動は大きい。


 右図は都道府県毎の高齢者以外及び高齢者の人口当たり交通事故死亡率をプロットしたものだが、2つの率にはあまり相関が見られない。


 都道府県毎の交通事故による死亡者全体の中での高齢者の比率についてみると、東北地方日本海側から北陸の一帯などが特に高い地域となっている。
 これは、高齢者が平野に広がって居住し続け、自動車に依存して生活していることが要因の一つとなっていると考えられ、死亡者削減への対策は容易でないとみられる。

(統計データ)


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(Jan.04,2023Rev.)