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第4章 堅実な生活
第6節 開かれた生活習慣
第4項 コミュニティシップ

2.地域づくりへの協働
―鈍い動き―

(1)NPO制度
(2)地域包括ケア事業
(3)学校地域支援事業
(4)子ども食堂
(5)包括的ネットワーク形成

 かつて近代化以前の社会では、都市地域を除けば、生活の殆どはそれぞれの村の範囲内で、家族・地域社会が助け合い自給自足で行われていた。
 近代化以降、次第に市場経済が入り込み、雇用されて働き、給与を得、商品を購入し、消費するという生活が一般的になっていった。さらに、様々な社会の課題を解決するため、政府が多様な役割を担い、我々の生活を支えるようになってきた。そして、従来、家族・地域社会が担っていた機能は、市場・政府に委ねるようになり、かえって自らの発想による主体的生活を失っていった。かつての家庭・地域社会の基盤は、次第に崩壊してきた。これは家庭の主体的選択であるばかりでなく、市場からの強要も合わさった共同作業であった。市場・政府が導いていくところは、必ずしも我々の思うところでないにも拘わらず、次第に巻き取られていってしまうと注意を促したのは、H.アーレントである。こうした課題は、現代社会に生きる者に取って、日々考えていくべき不可欠な主題である。
 (前ページと内容の重複があるが再掲した。)

 資本主義市場の暴走や政府機能の財政的限界に対して、新たな体制の整備が模索されている。行政施策の中でも、地域包括ケアや学校地域支援など、ボランタリィな活動を求めるようになってきているが、このような動きは、行政の押し付けに見えボランタリィな活動を危うくする懸念がある。
 こうした中で、自らを取り戻すために、主体的に議論することが必要で、その場が必要であるとしたのは、J.ハバーマスであり、公共圏での熟議を提唱している。民主主義の機能不全が言われる今日、大切な視点であろう。ただし、しかるべき議論がなされるか疑問があるとしてN.ルーマンと論争がなされている。

 現代社会の具体的な課題としては、先進国での経済成長が続かなくなり、市場経済の下では配分の課題が解決できず、様々な格差が生じ、暮らし難さが顕在化してきたことであろう。自由主義経済を標榜する政府の下では、様々な格差是正策が十分には機能せず、多様な課題が顕在化している。

 こうした中で、市場・政府には、委ね切れないものがあるとして、家族・地域社会の在り方が議論され、コミュニティ、ボランティアといった言葉が飛び交っている。そして新たな生き易い社会を形成するために、国は行政制度としていろいろな試みが提示してきているが、富山の感度はかなり鈍いようだ。

(1)NPO制度
 NPO制度は、阪神淡路大震災の後、ボランティア活動の重要性が認識され、その組織の法人化が制度化されたものである。当時、全国各地で新たな法人が陸続と立ち上がったが、富山県ではその立ち上がりがかなり遅かった。県がその旗をふることによってようやく多様なNPO法人が設置され始めた経緯がある。(右図再掲)


(2)地域包括ケア事業
 地域包括ケア事業は、高齢者の福祉・医療支援が円滑に進められるよう、地域で総合的な組織を形成しようとするものである。富山県では、介護保険において施設依存が高く、体勢を急速に立て替えていく必要がある。そして、包括ケア事業の組織は、形式的には立ち上がっている。しかし、全国共通した課題ではあるが、それが実効性を持つには多くの困難がある。(右図再掲)


(3)学校地域支援事業
 学校地域支援事業(コミュニティ・スクール制度)については、子どもが抱える様々な課題を学校のみでなく、地域社会とともになって解決していこうとする制度である。これまで富山県では取り組んでいる例がなかったが、教育委員会がその設立に努力すべきことが義務化され、ようやく富山市の幾つかの学校で事業が始まったところである。しかし、マスコミの報道でもほとんど見かけず、県民には知られていないようである。(右図再掲)


 既存事業へのボランタリィな参加、そして自らの手によるボランタリィな活動の企画実践、そして地域創りの協働へと、自らの力量を引き上げていかなければならない。
 ボランタリィな協働が、何かを契機に地域創りの活動としてイメージアップされ、共通認識が形成され、大きな動きとなっていく必要があるようだ。
 市場・政府が担わない機能を再び家族・地域社会が安易に引き受けることにも課題があろう。J.ハバーマスの言う公共圏での熟議を展開し、政府の在り方の変更を促していくことがまず大切であろう。

(4)子ども食堂
 富山県にある子ども食堂は2021年末で24箇所であった。人口10万人当たりでは2.29箇所となり、全国5.31箇所の半分程度で、都道府県の中では最も少なかった。
 ちなみに、小学校区で子ども食堂が開設されている比率は、全国の22.2%に対して富山県で13.4%であり、都道府県の中では41番目であった。


 新聞(北日本新聞)のニュースの中では、富山県で子ども食堂が少ないのは、三世代同居の多さや貧困率の低さなどが背景にあるとされていた。
 たしかに富山県の事情として挙げられるだろうが、全国の都道府県の生活保護率との相関は見られない。
 ちなみに、子ども食堂の組織のほぼ2/3がその役割として多世代交流拠点となることを挙げている。富山県でこのような機能はことさら必要ではないのだろうか。富山県については、老人クラブの組織率のように旧来からある組織の繋がりは見られるが、新たな繋がりの形成は劣るようだ。

(統計データ)

(Jan.05,2022Add.)


(5)包括的ネットワーク形成
 右の図は富山県による地域包括ケアの解説図である。さらに具体的に表現すれば、下の図にある四条畷市のようなものとなろう。
 ただし、これらを構成する各人・組織の多くは既に地域に存在しており、如何に機能的に連携していくかが課題であろう。


 このため、地域に住む人にとっては、これらの人・組織が見えるようになっており、必要な際には、気軽に連絡がとれるようになっていることこそ大事であろう。
 ただし、プライバシー等の問題もあり、まずは、地域に人がおり組織があることが分かることが大事で、必要に応じ地区センター等を通じて、個別具体的に紹介してもらえることが求められる。

 実は、このような課題は、高齢者の支援ばかりでなく、我々の生涯の生活にとって求められることである。
 このため、各小学校区、さらには町内会程度の範囲で、人と人が繋がる契機となる活動がリストアップされ、その内容が周知されるとともに、必要に応じて連絡が取れることが求められよう。
 このような地域の人・組織の見える化によって、地域に住む各人が必要に応じて地域からの支えを受け、また地域での活動を展開し、多様な繋がり、包括的なネットワークが形成されていくことが期待できよう。

(Feb.11,2021Add.)



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(Jan.05,2022ReEd./Dec.12,2016Orig.)