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第4章 堅実な生活
第1節 絆の強い社会
第4項 強い繋がりの地域社会

2.地域社会の変化
―縮小する組織―

(1) 世帯の縮小
(2) 地域社会組織の縮小
(3) 町内会、NPO等

 富山県における地域社会の強い繋がりも次第に変化しつつあると見られる。そして新しい社会構築への対応には遅れているようだ。
 ただし、いろいろな活動の事例は、先進的で目立つものが情報として伝わってきており、特定の地域社会であまりお目に掛かれないことが、遅れている証左とならないことに留意が必要であろう。


(1) 世帯織の縮小(再掲)
 前述のように、富山県に関連した統計指標として、背景に家族や地域社会の強い繋がりがあると想像されるものがいろいろとあるが、近年、これらの内容は大きく変化してきている。
 その筆頭が、世帯規模の変化であろう。都道府県の中では、まだ大きな規模であるが、2005年国勢調査で3人を割り、さらに縮小を続けている。



(2) 地域社会組織の縮小
【老人クラブ】

 老人クラブの組織率もかつては、100%を超えていたのだが、現在は、5割を割った。ただし、この組織率は、年齢に達した人を勝手に登録し、活動をしていない人も多数含んでいる可能性がある。



 富山県高齢福祉課の資料によれば、富山県での2017年の老人クラブの加入率(加入者/60歳以上人口)は39.6%となっている。17年前の2000年の加入率61.2%に対して、約20%ポイントの大幅な低下である。
 この加入率は、市町村によって大きな違いがあり、南砺市で77.9%であるのに対して、舟橋村では、21.9%に留まっている。
 ただし、加入率は登録者の率であって、どの程度の活動をしているかは定かではない。
 なお、厚生労働省の取りまとめている行政報告例では、65歳以上人口比となっており県の統計とは差がある。


【婦人会】
 富山県教育委員会の資料によれば、富山県での2017年の婦人会の加入率(加入者/成人)は、1.8%となっており、2000年の加入率16.9%からさらに大きく低下した。
 また、市町村によって大きな差があり、礪波市で6.6%となっているのに対して、氷見市、富山市、黒部市、立山町、朝日町、舟橋村は0%で組織が消滅している。
 各地域の町内会等では、その活動のために婦人部などが設けられているが、県組織等の婦人会には参加しないことが多い。
 婦人会は、かつては、例えば食生活運動による健康増進など地域で大きな役割を果たしたが、現在では、その役割が見えなくなっている。


 以上のようなコミュニティ組織については、一応、任意加入の組織と考えられる。
 しかし、婦人会、青年団については、歴史的経緯から、全員加入の考え方がある。さらに老人クラブについても、こうした組織の類推から全員加入の考えがあるのだろう。いわば任意のネットワーク型組織でなく、社会的に決められたヒエラルキー型組織の様相が強い。
 こうした中で、青年団については、対象年齢層である若い世代の社会移動が激しく、歴史的なしきたりに束縛されない面もあり、いち早く組織が崩れたといえよう。婦人会については、地域なりに、婦人の集まりがあっても、いわゆる婦人会組織への登録は、面倒が多いとして避けられているのであろう。老人クラブについては、世代交代と元気な高齢者の増加とともに、組織率も低下していくであろう。
(統計データ)


(3)町内会、NPO等
 地域にとって欠かせない清掃などの活動は町内会等が組織されて担われている。しかし、包括的な目的を持った組織の活動は最低限でいいだろう。もちろん、その活動は町内会毎に多様であっていい。
 その他の地域の多様な活動については、基本的には、自発的な(ボランタリィ)な任意組織(アソシェーション)によって担われればよい。
 この組織形態は多様なものが可能で、メンバーもはっきりせず、規約もなく、定期的活動もないものから、いろいろと規定され法人化しているものまでの幅があり得よう。人と人とのいろいろな繋がりがあって、ワイワイやっていくこと(コンヴィヴイアルなイメージ)がいいと考えられる。
 こうした多様な活動がある中で、地域に住む各人が、地域から排除されず、包摂されていることが望まれる。
 具体的には、NPOなどの動きもある。インターネットのホームページを契機とした新たな繋がりの形成も期待できよう。
 ただし、富山県でのNPOの活動は、他地域に比べて低調なようである。

 以上のようなコミュニティ組織の是非はともかく、加入率の低下と相まって、コミュニティでの人と人の繋がりが薄くなってきていることは間違いない。そして、このような組織の中で培われてきた、様々な社会規範も弱まっている。この結果、その是非はともかく、少子化、離婚・非婚、高齢者扶養の社会化等々、様々な社会問題も生じてきている。いわば、フランシス・フクヤマのいう「大崩壊」である。フランシス・フクヤマ著、鈴木主税訳、「大崩壊」の時代(上・下) 、早川書房、2000年7月
 フクヤマのいうように、社会規範の再構築のためには、ヒエラルキー型組織の再強化ではなく、個々人のボランタリーな意識によるネットワーク型組織の形成が必要であろう。この新たな繋がりの中で、誠実さや互恵性といった精神をとりもどし、信頼関係の及ぶ幅を拡大していくことが求められていよう。

 話は変わるが、このような地域社会の実現のための物理的な場としては、町内会の公民館が、地域の日常的なたまり場となることが期待され、食堂や喫茶店、コンビニエンスストア等の機能が併設されていると実質的なものとなっていくのではなかろうか。このため、地域の既存の住宅が効果的に活用されるための税制等の仕掛け、あるいは不動産事業者の積極的な活動が期待さ れる。

 地域社会の繋がりへの意識が変化するなかで、富山県民はその補完を行政施策により強く求めているようだ。しかし行政は財政的な限界が見えており、生活を支える多様な施策を家族・地域社会へ押し返そうとしている。
 「地域包括支援センター」はこの例であろうが、その評価はともかく、実態としてなかなか展開していかないようである。


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(Apr.23,2020Rev.)