次頁節目次章目次表紙

第3章 ゆとりある郷土
第5節 災害と安全
第3項 環境問題

2.温暖化
―かなり多いCO2排出―

(1) 家庭のエネルギー直接消費
(2) 家計消費全体
(3) 電灯と自動車
(4) CO2排出削減戦略
(5) 活動の鎮静化


(1) 家庭のエネルギー直接消費
―暖房と自動車利用で地域差―

 環境省の「家庭からの二酸化炭素排出量の推計に係る実態調査」では、地方毎に世帯のエネルギー直接消費に伴うCO2排出量を試算している。
 この統計によると年間一人当たりCO2排出量の全国平均では1.7tであるが、日本全体の排出量は一人当たり約9tであるので、約20%の把握にとどまっている。
 つまり家庭消費でのエネルギーの直接消費以外に、エネルギーを使った財サービスの消費も多く、さらに多様な基盤施設整備でのエネルギー消費なども多いことに留意が必要である。

 北陸(新潟・富山・石川・福井)の年間一人当たりCO2排出量は2.26tであり全国の1.71tに比して32%多い。
 地域ごとの消費量は、暖房で大きな差がでており、寒冷地の北海道、東北、北陸で多い。また、給湯もほぼこれに沿っている。
 自動車燃料でも差がでており、大都市地域を含む関東甲信、近畿で特に少なく、その他地方で多くなっている。


 CO2の排出をエネルギー源別に見ると、多いものから順に電気、ガソリン、灯油等となっているが、これらはいずれも北陸で相対的に多くなっている。


 北陸と全国の年間一人当たりエネルギー消費量の差を見ると、北陸が全体で0.53t多いが、その内訳は、暖房で0.18t、自動車燃料で0.22t、さらに給湯、照明家電製品等でそれぞれ0.08t多く、冷房は同水準、台所用コンロでは若干少なくなっている。



 CO2排出をエネルギー源別に見ると、北陸で相対的に多くなっている電気は暖房・給湯及び照明家電製品の需要で、灯油は暖房の需要で、ガソリンは自動車の需要となっている。


 暖房について、世帯毎のCO2排出量別に、世帯の分布構成を見ると、北海道、東北、北陸で1t以上の世帯の多いことがはっきり分かる。


 冷房については、当然ではあるが、北海道、東北で排出の少ない世帯が多い。ただし、日本全体でも排出の量は暖房に比べればかなり少ない。


 給湯については、北陸で消費量の多い世帯が目立つが、四国・九州・沖縄を除いてその他の地方でもある程度消費している。


 台所用コンロについては、分布の地域差はあまりない。


 照明・家電製品については、北陸・東北で2t以上消費の世帯が多い、これは世帯人員の多さ、住宅の広さなどが関連しているのであろう。
 なお、沖縄、中国、四国でも多消費の世帯が多くなっているが、この背景はよくわからない。ちなみに前回調査(2017年度)でも同様の傾向は見られ、統計的触れではないようだ。





 自動車燃料については、自動車を使っていない世帯が10%を割っているのは北陸のみである。2t以上消費する世帯は北陸、東北で多い。これは世帯人員の多さも関連しているのであろう。



 世帯のCO2排出量の分布をエネルギー源に見ると、電気ではそのピークが0.5-1.0tの地域と2-3tの地域に分かれている。この要因については、はっきりしない。


 都市ガスは供給されていない世帯がかなり多い。





 灯油については、北海道、東北、北陸での排出が多い。


 主として家屋内で利用するエネルギー源については、概ね2-3tの排出にピークがあるが、暖房、給湯の需要がある寒冷地では、一層多い排出に分布が広がっている。


 ガソリンについては、関東甲信、近畿などで排出のない世帯が多い。ただし関東甲信で1都3県を除けば、かなり排出の多いことが予想される。





(統計データ)

(Apr.01,2022)


(2) 家計消費全体
 次に、家計で消費する財・サービスの生産過程も含めたエネルギー消費量(間接的消費も含めた全消費量)として、一人当たり年間CO2排出量を都道府県毎に推計して見る。
 環境庁『温室効果ガス「見える化」推進戦略会議(第3回)H20.09.08』に 国立環境研究所 から提出さた資料「家計が購入する商品・サービスの生産・消費に伴うCO2排出について」があり、各消費支出項目ごとに一定金額当たりの排出CO2量が計算されている。これを家計調査(都道府県庁所在都市)の費目別消費金額と掛け合わせ合計すれば、排出CO2量の合計が求まる。ただし、 国立環境研究所と家計調査の費目の区分が一致していないので、類似項目を適宜合わせて計算することになる。
 結果は、上述の環境省の調査と同様であるが、この試算では都道府県に細分した違いが判る。また、財サービスの生産に伴う排出(間接的排出)についても情報が得られる。
 総排出量については、最大の北海道に次いで、東北日本海沿岸の秋田、山形が並び、次に、水戸、福島と富山、金沢がある。逆に少ないのは、大阪、神戸、京都と近畿の都市と那覇が並び、次いで東京、横浜などがある。
試算に使った基礎データがかなり古く、現在とエネルギー価格などが異なっているため、上図は都道府県間の相対的大小を検討するものと捉えておく必要がある。また、二人以上勤労者世帯で消費支出額が大きくなっていることにも留意が必要である。


 エネルギーの直接的消費以外の間接的排出については、都市によってかなり差があり、明確な傾向は分かり難いが、東京1都と周囲3県の都市等で特に高くなっている。富山は中間程度にある。


 家計の支出総額を現在の全国値とし、 国立環境研究所「家計が購入する商品・サービスの生産・消費に伴うCO2排出について」の統計を換算して、現在の家計の個別消費項目の間接排出分を含むCO2排出総量を求めることができる。
 その消費によりCO2を直接的排出する電力、ガソリン、都市ガス等の燃料で多くなるのは当然である。
 間接的な排出に関しては、ガソリン等の燃料を使う運輸関連消費でも多くなっている。また、下水道の処理でも排出が多い。
 航空に関しては、個人によって支出額に大きな格差があろう。ちなみに、東京ニューヨーク往復で2t弱のCO2の排出となるとみられ、これは、個人の平均年間排出量の1/2程度にもなる。航空利用者は、このことを十分に自覚する必要があろう。


 (統計データ)


(3) 電灯と自動車
電灯使用量
 富山県の人口一人当たり電灯電気消費量(2016年)は、2,982kwhであった。
 都道府県別には、福井県が最も多く3,813kwhで、次いで、石川、富山と続いている。
 電灯の電気は、家庭での消費ばかりでなく、一般の商業施設、事務施設など(民生業務部門)も含まれるが、工場等の電力は除かれる。このため、地域の人が、働き、消費するために使っている普通の電気需要とみて、人口当たりで比較することに一応意味はあろう。ただし、東京のような夜間人口に比較し昼間人口が極端に多い地域は、大きなものとならざるを得ない。
 富山県、あるいは福井県、石川県で消費量が多い原因は、仮説として、家が広いこと、所得水準が高いこと、冷房・暖房双方の電力消費があることなどが挙げられるが、都道府県統計から相関関係を見出すことは困難である。
 電力会社では、電気(電力)の供給について「電灯」と「電力」に区分している。

 近年の富山県での電力消費の推移を見ると、工場等の電力については、横ばい気味で推移しているが、電灯については、年率3%弱で着実に伸びている。
 地球温暖化の問題から、エネルギー消費の削減が言われているが、家庭での消費削減については、精神的な努力はなされているとしても、総合的に見て、実質的にはなされていないといえそうだ。
 家庭での削減を促すためには、使用量によって逓増する電力料金体系などが必要なようだ。
 あるいは、省エネ型の製品の普及も手段であるが、テレビなどのように大型化を伴い、さらにこれに奨励金を出しているようでは、なかなか進まないであろう。


自動車利用
 人口当たり乗用車保有台数については、依然として増加を続けている。ただし、人口の減少局面に入っており、実数では横ばいに近づいている。
 これまでの保有台数の推移を見ると、概ね1960年代後半に広範な普及が始まった後、さらに1990年代に普及が加速している。特に北陸3県の増加が著しい。これは、バブル経済の中で、さらには団塊ジュニア世代の住宅取得の中で、居住地が一層郊外に発散したためであろう。この結果、北陸地域での保有台数は、1990年代後半には、北関東に並ぶまでに飛躍している。
 ⇒自動車の炭酸ガス排出量

 実は、炭酸ガスの排出によって地球温暖化が進んでいると認識されたのが1980年代末であり、ヨーロッパの一部の国では1990年代の初めに既に炭素税の導入が始まっているが、我が国、特に北陸地域では、こうした状況を無視してきたといえよう。さらには、京都議定書の期間中にあっても、個々人は、排出削減を意識し続けてはいなかったように思われる。
 ⇒京都議定書


 かつて、水質汚濁の解消等が大きな懸案であった時代に、産業部門では法規制の実施等により一定の時期を画して解消したが、民生家庭部門は、自発的努力を求めることには限界があり、結局は下水道の普及等を待たざるを得なかった。
 炭酸ガスの排出については、超低燃費の自動車の普及や化石燃料に寄らない発電の普及などに待たざるを得ないのであろう。



(4) CO2排出削減戦略
 ここで、このようなデータから着想される、富山という地域での地球温暖化ガス削減戦略を提唱しておく。
 まず、灯油等の他の光熱については、住宅の暖房費が高いことを意味している。これを削減するためには、二重ガラスの設置等を含めて、住宅の高気密化が有効とされる。このため、エネルギー効率の高い住宅の普及を図ることが得策ではなかろうか。特に、富山では、地場のハウスビルダーが健在であり、住宅関連部材を生産する企業も多いので、住宅産業(クラスター)の形成が期待される。
 一方、ガソリン消費の削減については、自動車から公共交通への移行が不可避であり、富山市が既に提唱しているようにコンパクトシティの形成を図っていくことが必要であろう。
 また、電気代に伴う排出削減については、様々な方法による電力消費量の削減が第一であるが、同時に小水力発電等の自然エネルギーの一層の導入を企て、実質的な排出量削減を進めることが考えられる。
 ⇒再生可能エネルギー事業発電容量

 富山県は温室効果ガスの排出を2030年までに2013年比で30%削減する目標を掲げている(県環境審議会2019年8月)。これは国がパリ協定に対応して掲げている26%を若干上回るものである。
 ただし、通常の国際的に基準とされる年は、地球温暖化が進んでいることが確認され、一部の国で排出削減努力が始められた時期の1990年である。日本全体の2013年の排出量は、1990年比で約15%増加しており、この意味では県の削減目標は15%程度に留まっているともいえる。さらに富山県では2030年までには人口が2015年比で10%程度減少すると見られており、これを加味すると、削減目標は程度5%とみるべきかもしれない。
 こうした見方では、国の26%の目標は、実質0%に近いことになる。排出削減はいろいろと困難な面があるが、このような削減目標で、国際社会の顰蹙を買っていることを知っておかなければならない。

参考;
 ⇒地球の平均気温の推移(「地球は満員」の項)


(5) 活動の鎮静化
 地球温暖化による異常気象が頻発し始めている。これへの対応はかなり手遅れとなっており、一刻も早い行動が必要である。
 我が国の人口一人当たり温暖化ガス排出量は世界平均の倍程度であり、この意味では、まず排出量を即座に半減する必要があろう。さらにこれまで多量に輩出してきた先進国の責務として削減を進め、早急に輩出を実質ゼロまでに持っていく必要がある。
 個人としての許容量を考えると、色々な議論があろうが、まず世界平均が挙げられよう。そしてこれを極度に上回る排出は正義にもとるであろう。このため我々日本人は、もはやこれ以上に物的消費を拡大することは許されないのではなかろうか。そして、そして一定以上の所得は使いようがなく意味をなさなくなってきていることにも気付かなければならない。
 現在、地球温暖化ガスの削減については、専らエネルギーの転換、そしてエネルギー消費の効率化が議論されている。
 しかし、我々の多様な活動の鎮静化も避けて通れない。具体的に特に懸念されることとしては、例えば交通手段の選択と建設事業の継続が挙げられる。
 交通手段については、まず日常的な自動車の利用を再考する必要がある。これについては、遊興で自動車の利用を促すような広告などは禁止するほどの対処も必要であろう。また多様な旅行での飛行機、船舶の利用についても、できる限り削減、中止すべきでなかろうか。この意味で観光産業の振興は方向を間違っている。Go to トラベルの施策も温暖化ガス削減を顧みていない。
 また、各種の建設事業の鎮静化も重要である。多様なインフラ整備については、必要最低限の維持補修に限定していく必要があろう。これについては、国から地方への財政配分システムを包括的に改め、縦割りシステムを廃止し、各地域にとって必要最小限の事業のみが実施される仕掛けが必要である。
 日本にはこのようなシナリオを検討・実現していく政治システムもないし、関連する経済活動にかかわる人たちからは猛反対されるであろう。そして経済成長はどうなるのかという疑問が呈される。しかし、物的消費の削減、互いにサービスしあう産業への移行つまりハードからソフトへの移行が肝要であり、GDPの減少は甘受せざるを得ない。
 人類に明日がなくなってきていることを自覚する必要がある。
 (統計データ)

次頁節目次章目次表紙

(Apr.01,2022Rev./Mar.13,2019Re-Ed.)