次頁、
節目次、
章目次、
表紙
第3章 モノづくり指向の産業
第1節 主要業種概観
第4項 第3次産業
5.観光産業 ―コロナ禍で宿泊者4割減(2020年)―
観光産業は地域経済に幅広い影響を持ち幾つもの業種にまたがる産業である。ここでは、主体となる宿泊業を中心に見る。
2020年以降、観光産業はコロナ禍に見舞われている。今後、コロナ禍は収まり元の状況に戻るのか、あるいはコロナと共に生きる社会(ウィズコロナ)となるのか明らかではない。
このため、これまでの元の状況とコロナ禍の中での状況を区別して検討しておく必要がある。ただし、以下では必ずしも丁寧な仕訳はできていない。
観光産業は、経済が停滞する中で、各地域が地域なりの発展を期待している産業であり、厳しい地域間競争にさらされている。例えば北陸新幹の線開通効果はさほど大きくはないようだ。そしてコロナ禍の中で宿泊者数は大きく落ち込んでいる。さらに、アフターコロナとして活性化が期待されているが、地球温暖化に鑑みると飛行機利用の抑制など今後厳しい対応が必要である。
(1) 宿泊者数
都道府県毎の観光客の入込みとして宿泊者延べ総数を見ると、地域によって大きな差があり、特に多いのは大都市圏の都府県及び一部の道県に限られている。
富山県の宿泊者延べ総数は、2020年で223万人であり、都道府県の中では42番目の位置にあった。相対的に少ないことは間違いないが、この位置の評価には、いろいろな捉え方があり得よう。
大都市地域自体は多くのビジネス旅行宿泊者を呼び込むであろうし、大都市の周辺地域では、大都市居住者のレクリエーションの場として集客宿泊機能が育つであろう。これは観光資源の有無以上に大きな要素のようであり、むしろこうした地域で観光資源が育てられてきたようにも見られる。
他方、大都市地域から離れた地域で、滞在型リゾート機能を持った、あるいは育てた北海道、沖縄などでも旅行宿泊者が多くなっている。
【参考】
ちなみに人 2017年の富山県の宿泊者延べ総数は、で390万人であり、都道府県の中では38番目の位置にあった。
次に人口当たり宿泊者延べ総数で見たものが右図である。
これで多くなるのは、大都市圏周辺県と一般に評価されている観光地となる。
石川県も特に多い県に含まれる。
宿泊者のうちの外国人の比率は2.3%(2020年)で、都道府県の中ほどの位置である。
観光の目的地としては、魅力度ある地域が選ばれていると考えられる。
この都道府県の魅力度の階層分けを次のように名付けることができるるのではなかろうか。
@別格 北海道、京都、沖縄
A大都市 東京、大阪、神奈川、福岡
B観光地(大都市を含む) 長崎、奈良、石川、長野、千葉、宮城、兵庫
C準観光地 静岡、鹿児島、宮崎、熊本、広島、愛知
D観光拠点有 青森、新潟、三重、富山、山梨、秋田、大分、香川、高知
E観光拠点保有 岩手、山形、和歌山、愛媛、福島、岡山、岐阜
F小規模等 島根、滋賀、福井、鳥取、栃木
G東京等大都市近接 山口、徳島、群馬、埼玉、佐賀、茨城
都道府県の魅力度を試算したブランド総合研究所の「地域ブランド調査2020」がある。認知、魅力、情報接触、観光意欲、居住意欲など計84項目についての回答から人口規模その他の調整がされ、算出されている。
この魅力度と宿泊者総数にはある程度の相関がみられる。
(2) 宿泊者の推移
近年我が国では観光振興に力が入れられているが、都道府県毎の最近10年間の推移を見ると、各地域でそれぞれ増加傾向を示している。全国では、'10、'11年にかなり増加し、次いで'15年まで緩やかな増加、その後'16年、'17年は横ばいに近くなっている。
富山県については、'10、'11年の増加の後、横ばい気味の推移となっている。北陸新幹線開通の'15年は若干増加しているようにも見えるが、その後に続いていない。さらに'18,'19年は、前年比減少に転じている。ちなみに'19年の外国人延べ宿泊者数前年比は増加となっている。
これに対して、石川県については、'15年に一段増加したことが見られる。富山県については、観光客が増加したとしてもビジネス客の日帰り化と相殺している可能性があろう。
しかしコロナ禍によって2020年は大きく落ち込んでおり、全国では39%減となっている。
こうした中で、富山駅周辺等でホテルの建設が進んでおり、その稼働率が懸念されているが、近年、旅館の宿泊者が大きく減少し、ビジネスホテルの宿泊者は増加を続けている。
富山で2020年の落ち込みは総数で37%減で全国並みであった。
これを宿泊施設別に見ると、ビジネスホテルは29%減で相対的に軽微であるが、リゾートホテルは59%減と大きく落ち込んでいる。
(3) 県内入込の推移
県内観光地への入込数の推移をみると、アルペンルート、黒部峡谷といった県外からも客を招く観光地で長期的な減少が見られる。
また、五箇山については、横這い気味で推移している。これは世界遺産への認識の高まりによるものであろうか。
一方、海王丸パークや氷見については、近年大幅の増加があるが、新たな施設の整備やイベント開催によるものであろう。
県内観光地への入込数の長期的推移については、現在の統計と同じデータはないが、どの観光地にあっても、概ねバブル経済崩壊以前まで拡大してきていた。
入込者数に新幹線開通による一時的盛り上がりは間違いなくあるとしても、これまでのような趨勢の中で、長期的な盛返しはかなり難しいのではなかろうか。こうした中で、外国人の入込が要点になるかもしれないが、数量的には限られたものであろう。
イベントへの入込の推移についても、低下ないしは横這いの傾向が見られる。
ただし、図示していないが、環水公園など新たに入込を拡大している拠点もある。
(4) 宿泊施設
宿泊施設の型で旅行宿泊者数を分類し、その構成を見ると、富山県では、ビジネスホテル型の宿泊が主体で、リゾートホテル型は極めて少ない。観光地としての入込が少ないということであろう。
宿泊施設の客室稼働率については、51.5%で都道府県の中ではかなり低い位置といえよう。
宿泊施設を観光目的の程度で区分して都道府県毎の客室稼働率を見ると、観光目的施設の稼働率が低い県としては、新潟、長野、福井など大都市圏の周縁県が見られる。これは、バブル経済期に積極的に整備した施設があり稼働率が落ちているということであろうか。
コロナ禍での稼働率の変化を見ると全国で42%から21%と約半分になっており、富山ではも33%から17%と約半分となっている。
(統計データ)
旅行宿泊者数は人口集積のある大都市圏との地理的関係によって決まるところが大きく、観光資源もそれに沿って育まれてきたと理解すれば、北陸新幹線の開設は、一方でビジネス旅行宿泊者が減少する可能性も考えられるが、他方で観光旅行宿泊者については増加する契機となりえよう。
しかし、観光関連施設の整備はあるとしても、観光資源は短時日のうちに育てられるものではないし、そのための新たな素材もことさらある訳でもない。
むしろ、今後は、地域に住む者が、自らのための住みよい地域創りを営み、そうしたイメージを広めていく中でこそ観光資源が育まれるのではなかろうか。
富山市で言えば、LRTで交通軸が構成され、松川・いたち川・運河を生活の潤いとして活かした新しい街創りを着実に進めていくことが大切であろう。立山黒部アルペンルート等への訪問者の宿泊も得るためには、富山市などが一度は訪ねてみたい都市としてイメージされる必要があり、運河やLRTが活きている生活は、十分なメリットを持ちうる素材であろう。
多くの地域では、自然の素晴らしさと伝統文化の豊かさを誇示する。しかし、それを地域の人自身が、十分に理解し生活の中に組み入れていないのでは、底が割れてしまっており、本当の魅力が現れてはこない。地域文化が十分に育たないと、観光資源としてもお粗末な状況にとどまらざるを得ないことに気付く必要があろう。地域に生きる人々にとっては、自らが地域の自然文化をどう楽しみ、生活を豊かにしているかが問われていることとなろう。地域のすばらしい資源を生活に活かし、地域文化の中に根付かせていること自身が、自ずと情報の発信となり、一層内容の深い観光資源に育っていくのであろう。例えば、博物館や美術館の内容を充実していくこと、自然や民俗の研究を深めていくことなどが、自らの文化を高めると同時に観光資源を育て充実していくこととなろう。
インターネットでアメリカの国立公園のホームページを見ていると、そこに入り込んで楽しむためのアドバイスが実に豊富に出てくる。既に、各地の県・市町村が観光を念頭において、ホームページが開設されているが、趣味等に関する一般的な検索で行き当たるような、もっと深い内容のホームページが期待されるのではなかろうか。
(5) 飛行機の利用
現在、観光産業の振興として外国人の流入に力を入れている。しかし、これは飛行機の利用を増やすものであり、地球温暖化の観点からは好ましくない。
航空会社の資料で、1座席km(ASK)当たり25gだという情報がある。また、車と飛行機は単位重量距離の運搬に同じエネルギーが要るという情報もある。この二つの情報は、1.5人乗った車がガソリン1リットルで17km走るとすると同等の意味を持つこととなる(ガソリン1リットルの炭素の重量を630gとする)。1ASKに25gとした場合、例えば、東京・ニューヨーク間は、10,000km強であり、仮に往復すれば、0.5tの排出ということとなろう。「ロンドンからカリフォルニアまで運ぶ旅客一人につき大気中に1トン近い炭酸ガスを排出する。」という言説があるが、炭素ベースでは約1/4となり、概ね整合性があると考えられる。ちなみに、全世界で一人当たり炭素排出量は1.3t/年、中国で2.0t/年、日本は2.6t/年である(2014年)。
国際観光の拡大については、いずれ否定的な議論が現れてくるであろうし、地域自らの生き方として、しっかりと検討する必要がある。また、立山の除雪などについても、考え直す必要があるのではなかろうか。
次頁、
節目次、
章目次、
表紙
(Oct.11,2021Rev.)
|