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第5章 ゆとりある郷土
第6節 県土利用の再確認
第2項 土地利用制度の運用
3.地価の動向 ―都道府県の中ほどに上昇―
かつて、相対的に見れば、富山県内の地価はかなり低かった。これは、都市周辺の土地供給がかなり柔軟になされ、都市への人口集中が相対的にはあまり進まなかったことが背景にある。
しかし、近年の地価変動については、基本的には景気動向等に伴って全国の変化率と併行し、相対的には大都市圏に次ぐ動きとなっている。
この結果、富山県の地価は、都道府県の中で、中ほどの位置までに上がってきた。
ただし、2020年代に入って、コロナ禍等を経て、若干これまでと異なった動きを見せているようだ。
(1) 地価水準
2024年7月都道府県地価調査で住宅地に関する調査地点全体の平均地価を見ると、富山県は30,900円/m2で、都道府県の中では25番目(真ん中)の位置にある。これは、以前に比べればかなり上昇している。
ただし、調査地点の選択の問題があり、このデータで地価水準を判断するのは妥当性が低い。
かつての地価
富山の生活空間は、主として複合扇状地上に形成されており、洪水に備えて微高地に居を構えることなどはなく、自らの耕作する農地に近接して住むことが好都合であった。このため「散居村」に見られるように、集落を形成する意識が乏しく、都市を形成してこなかった。
1960年代末の土地利用計画策定後も都市の範囲を明確に限定する気運はあまりなく、非線引き都市計画区域の農業振興地域内の農用地区域などで、小規模団地の造成が図られてきた。
このような土地の供給がある中で、結果として地価が相対的に上昇してこなかった。
下図は、バブル経済直前の1985年水準を100として、それ以降の各都道府県の地価の推移を見たものである。
まず、1980年代後半から、バブル経済の中での地価の高騰があり、バブル経済の崩壊とともに、'90,'91年をピークとして、低下に転じている。
しかし、バブル期に地価の高騰が少なかった地域では、'90年代半ばに、地価の横ばいが見られる。一方で景気の低迷があり、地価の引下げ要因が強かったと考えられるが、景気浮揚のための公共事業の展開と、宅地の実需が地価の横ばいをもたらしたと言えるのではなかろうか。この時期は、団塊ジュニアの結婚・世帯形成期にあたっており、富山県などではバブル経済期以上に住宅建設が盛り上がっている。
その後、概ね2000年以降、再び、地価の低下が大きく続いている。これは、景気の低迷とともに、人口の減少が背景と捉えられよう。なお'10年代に入って、景気の緩やかな回復から横這いで推移するようになってきている。
(2) 近年の変動
富山県の住宅地の前年比増減率は、2009年以降、次第に低下幅が小さくなってきておりいる。
各地域の推移については、三大都市圏、地方中枢都市所在県で上昇に転じており、地価の二極化が起こっていることが明確である。
なお、富山県は、これらの都市地域に次ぐ位置にあり、地価は、都道府県の中では相対的に上がってきている。
また、2020年からはコロナ禍により、大都市圏では、上げ幅の低下ないしは減少への転換が一旦起こり、その後急反転で上昇している。これに対して、富山県では横ばいが続いている。
商業地についても、住宅地価格と併行して変動してきており、2015年以降はほぼ横ばいが続いている。
年々の富山県の地価の変動率を都道府県の中でみると、'00年代は相対的にかなり大幅の減少となっていたが、2011年以降は、10番台にあった。しかし、2020年代に入って富山県の順位は急低下している。この要因ははっきり分からない。
全国の中で経済活動の活性度が2極化していると言われているが、活性化している大都市圏として、3大都市圏(東京、埼玉、千葉、神奈川、大阪、京都、滋賀、兵庫、奈良、愛知)及び地方中枢都市・準地方中枢都市所在道県(宮城、広島、福岡、石川、熊本)の都道府県数は合計で15であり、これに沖縄、住宅地では福島が加わっている。富山県の順位は、経済の活性化度が概ねこれらの大都市圏都府県に次ぐ位置にあると言えるだろう。
富山県が、このような位置にあるのは、取り敢えずは新幹線の開業と関連した動きと捉えることができよう。ただし、新幹線開業ブームが一段落し、コロナ禍の状況が変化すれば、現在と違った動向が見え始める可能性もある。
人口減少が続き、経済成長も見通し難い中で、地価の変動をどのように捉えるのが適切であろうか。現時点では、地価の変動は、経済活動の成果及び見通しを評価する指標となっていることは間違いない。しかし、最早資産運用・保全の手段となるものでない。
こうした中では、発想を切り替えて、土地の効果的な活用こそ大事であり、地価の停滞、減少はそれを可能にするものと捉えていくことができないのだろうか。かつて地価の高騰が都市整備等の障害となっていると弁明していたものだが。
富山県が、新しい社会創りへの革新を興す最もいい位置にいると捉えられないだろうか。
⇒公示地価
⇒路線価
(統計データ)
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(Sep.19,2024Rev.)
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