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第5章 ゆとりある郷土
第3節 交通
第2項 充実した道路網 ―道路整備の方向転換―
富山県の道路整備率は全国で最も高くなっている。道路延長の年々の伸び率はようやく沈静化してきた。
(1) 道路整備率
道路の充実度の都道府県間比較を何で行うか。人口・面積当たりの道路延長・面積などいろいろと考えられる。しかし、道路整備率という指標があり、実際の交通需要に対する利便性でいえばこれが相応しいであろう。
2018年時点の富山県の道路整備率は76.9%であり、都道府県の中で最も高い。富山県に続くのは、大阪府、石川県、北海道、福井となっている。また、全国では60.1%となっている。
⇒自動車保有の状況
道路整備率は、混雑度が1以下で改良済の道路延長の比率である。
富山県の道路改良率は78.2%であり全国一高い(2015年)。
改良率と整備率の差は、いずれの地域でも殆どないが、大都市圏で若干差がある。
富山県の混雑度は、0.65で都道府県の中では18番目の高さとなっているが、混雑度の指標は各道路で一定の値を下回ればいいのであって、これが低すぎれば、むしろ道路の過剰整備を意味することとなろう。
道路改良率の推移を見ると、富山県では以前から相対的に高かったが、全国同様に整備の努力を重ね、現在では最も高くなっている。
(2) 道路建設
各都道府県の近年の道路延長の伸びの変化を見ると、年々大きく変化しているが、'00年代を通じて次第に小さくなっており、'10年代には横這い気味になっている。
こうした中で富山県は相対的に'00年代は高い伸びとなっていたが、'10年代後半には、全国平均程度の伸びとなっている。
ただし、国道の高架化等に比重を移し、新たな延長が少なくなっている可能性がある。
富山でこのように道路整備が急速に進んでいるのは、財政支出がそれなりに大きいこともあろうが、県での道路整備のほとんどが平野部で行われるものであり、建設単価が極めて安価となっており、同等の予算でも、急速に整備が進む側面があるためであろう。
道路整備への投資は行政投資の中で最も大きいものである。しかし、近年、総投資額の減少と同様に道路への投資も急激に減少している。
道路をどこまで整備するか。個々人にとっては、それぞれが利用する道路が整備されれば結構なことであろう。
⇒道路満足度調査(2002年)
道路整備は、その財源問題から、これまでしばしば過剰投資が問題視されてきたものである。
道路整備率が最も高い富山県では、この懸念は避けることができないであろう。
局所的にはさらに整備が求められる箇所もあろう。また、既定の計画として整備を進めざるを得ないこともあろう。しかし、現下の財政状況や今後の更新投資必要額の急増の問題、さらには人口減少とその高齢化の中で交通需要が急速に変化していくことなどから、道路整備の在り方は、真摯に再考されるべき課題である。
なお、現在の財政制度から、地域の為政者が特定施設の整備水準が十分なものとなっていると発言できないことに留意が必要である。
(統計データ)
(3) 信号機のLED化
交通信号機のLED利用率(2022年3月)は全国平均66.6%であったが、これを都道府県別に見ると富山県は42.9%で、北海道、広島県に次いで低くかった。
利用率の地域特性は見出し難いが、富山県は節電という意味で環境に関する積極性に欠けるのであろうか。
富山県では雪で信号が見えにくくなるのを避けるため、ある時期に、縦型の信号機に一斉に切り替えたことがあったと記憶するが、この時期には白熱灯が主体であり、現時点では、その耐用年数が続き、交換の時期に至っていないのかもしれない。
(統計データ)
(Jan.02,2023)
(4) 自動車道の整備
中日本高速自動車道路(株) 各路線 | 延長 | a再調達 原価 | b営業 収支差 | a/b (回収) |
km | 億円 | 億円 | 年 |
中央_富士吉田線 | 94 | 9,824.7 | 302.9 | 32 |
中央_西宮線 | 360 | 15,207.1 | 665.1 | 23 |
中央_長野線 | 33 | 1,574.2 | 69.5 | 23 |
第一東海 | 347 | 28,168.9 | 1245.0 | 23 |
東海北陸 | 185 | 10,977.9 | 108.0 | 102 |
第二東海_横浜名古屋線 | 232 | 33,415.3 | 750.2 | 45 |
中部横断 | 26 | 1,352.8 | -2.0 | - |
北陸 | 282 | 11,349.9 | 333.6 | 34 |
伊勢名古屋第二環状 | 69 | 2,353.3 | 94.0 | 25 |
東名阪・名古屋第二環状 | 98 | 9,369.9 | 416.6 | 22 |
伊勢湾岸・新名神 | 37 | 6,091.8 | 129.9 | 47 |
紀勢 | 34 | 1,174.4 | 13.2 | 89 |
舞鶴若狭 | 39 | 1,350.0 | 8.2 | 165 |
日本高速道路保有・債務返済機構2016年度決算資料によれば、東海北陸自動車道は採算割れのかなり厳しい道路である。
ここでの営業収支差とは、年当たりの料金収入から維持管理費を差し引いたものである。全国の有料道路113路線の中には、これ自体が赤字の路線が2線あるとのことである。この営業収支差を建設費の年々の返済に充てていくこととなるが、仮に金利負担がゼロであれば、返済に要する年数が右表中のa/b(回収)となる。金利負担や耐用年数のことを勘案すれば、20〜30年が費用対効果の限界であろう。少なくとも半世紀を超えるようであれば、特段の事情がない限り、実施すべきでない事業と判断されよう。小生の見た新聞報道では、営業収支差赤字2路線の存在のコメントのみで、建設費負担ができない路線の存在については全く言及されていなかった。
東海北陸自動車道の2車線化は富山県の重要な要望事項であるが、このような道路整備の是非は自らはどのように判断・主張すべきであろうか。
・経営収支だけでなく、広い意味での採算性(?)を勘案すべきと主張するのか。この場合、整備の実現は地域間の競争であり、地域なりの主張は当然という姿勢であろう。(これについて、地方に要望があることを国の判断理由とすることは若干問題含みであり、大所高所からの判断が必要である。)
・あるいは、整備は困難であろうと捉えるのか。この場合、富山県に居づらくなるがどうするか。
・それとも黙っているのか。
(Aug.10,2017Rev.)
(5) 道路整備に関する総合的な検討
総合的検討の具体的な内容としては次のような事項が挙げられよう。
費用・便益に関する検討事項 |
| 引き続き精力的に整備を進めるべき理由 | 軌道修正を図り整備を抑制していくべき理由 |
費用 |
他の事業を圧迫しない財源がある。
特定財源
縦割予算(港湾、農業など)
補助金
起債引当
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財政的な限界。
維持費用の漸増。
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便益 |
【利便性の向上】
整備への要望がある。
安全な車線・施設の整備が必要。
【経済の活性化】
景気底支え効果がある。
雇用の場の確保。
【計画性】
既存計画を実現していく必要がある。
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【交通需要見通し】
人口が減少する。
高齢者が増加する。
(環境負荷への配慮、環境税による利用減少。)
【都市造りへの影響】
都市のスプロールを防止する。
地価の低下、居住密度の低下
【その他の影響】
環境負荷を軽減する。
農地の壊廃を抑制する。
公共交通の衰退を防止する。
駐車スペースの無駄を防ぐ。
都心駐車場の増加、住宅地の貧困
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総合的判断を行うには、実際の道路及びそのネットワークを知るとともに、道路整備を取り巻く幅広い諸問題について十分に考えめぐらしていく必要がある。
また、最終的な判断は県民がする建前であるとしても、実際には、その代理者としての議会、首長、官僚に委ねられる。この過程で、利害関係が強い者については情報提供の役割があるが、判断については、一歩退く仕掛けが必要であろう。
そして、誰が判断するにしろ、真摯に検討され、判断の内容についてできるだけ理由を付した説明がなされる必要がある。
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(Jan.02,2023Rev.)
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