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第5章 ゆとりある郷土
第2節 居住環境
第1項 住宅

1.住宅現況
―空き家の増加―

(1) 持家率
(2) 面積
(3) 築年
(4) 空家

 富山県の住生活の豊かさは、周知のとおりであるが、これとは別に、住宅を取り巻く環境が変化していることを捉える必要がある。
 特に、空き家が増加しているが、新たな住宅の建設より既存の住宅の活用に配慮していく必要がある。

(1) 持家率
 まず、富山県の持家世帯比率は、76.8%であり、都道府県の中では、秋田に次いで高い。ちなみに前回調査(2013年)では、79.4%で秋田を上回っていた。
 全国では、日本海沿岸の東北から北陸にかけての諸県で持家率が特に高い。
 これは従来からの稲作地帯と重なっており、稲作経営のために定住性が高かったことと関連しているといえよう。今日でも平野部が広がり交通の便がよく、就職等による転居の必要性が相対的に少ないようだ。




 5年前と現住所が同じく、定住している人の率は、秋田、山形、富山、福井等で特に高く、日本海沿岸県で共通している。
 これらの県では、持家率も同様に高い。
 都道府県全体のの定住率と持家率見てもかなり相関が高くなっている。
 こうした相関はある程度予想されることであろう。
 定住率が低い以上に持家率が低いのは、東京、大阪であるが、これはそれ以上に住宅事情が厳しいと解釈されよう。沖縄については、文化的に背景が異なりそうだ。逆に、相関以上に持家率が高いのは、鹿児島、宮崎であるが、住宅事情に余裕があると解釈できよう。


 富山県の持家比率は、かつては85%前後であったが、現在は80%程度で推移している。
 これは、2008年統計での低下で、若年者の単身世帯比率が増加する中で借家住まいが増えているという説明(県説明)もあったが、必ずしも低下傾向が定着している訳ではないようだ。また、低下するとしても、これ自体を否定的に捉えることではないだろう。

 持家率の高さは、安定した生活の条件として評価されようが、流動性の面からは否定的な評価もありうる。
 県全体での世帯の総数がまもなくピークを向かえ以降減少していくこと、同時に世帯の類型が三世代から単身へと変化しつつあることによって、住宅需要は大きく変化しつつある。また、地球環境問題や高齢社会での都市のあり方等を巡って、住生活としての望ましい姿も変わってきている。こうした中で、どのような住宅環境を実現していくか、持家率について、総合的な視野から、評価される必要があろう。


 なお、現居住地の所有率を見ても、当然ではあるが、同様の傾向である。


(2) 面積
 住宅当たり延べ床面積については、全国の93.0m2に対して、富山県は145.2m2であり、都道府県の中で最も広い。
 富山県に次ぐ山形県(135.2m2)を10m2上回っている。


 2003年調査では、157.8m2であり、今後、世帯規模の縮小等ともあいまって、しだいに狭くなっていく趨勢が表れてきたようだ。

 エネルギー消費の面から勘案すると、富山の住宅は、広すぎるという評価があるかもしれない。
 同時に、世帯の規模が縮小する中で、住宅の広さが縮小していくことも当然であろう。

  ⇒住宅の広さの考察(2010年国勢調査)


 富山は世帯規模が大いため、住宅も広いという可能性があるが、一人当たりで見てもやはり広い。
 一人当たり居住室畳数は全国の14.1畳/人に対して、富山は17.4畳/人となっている。


 一人当たり居住室数は年々多くなっているが、これは住宅面積の横這い・縮小にもかかわらず、世帯規模の縮小の効果がでているためである。


 なお、都道府県毎の住宅の広さは、持家率との関連が強い。


 持家と借家それぞれの広さは、いずれの地域でも大きな格差がある。また、地域毎の双方の広さに相関はあまりない。
 富山の借家の面積は50.6m2に留まっている。


 ちなみに国土交通省は、世帯人員毎に最低居住水準面積、誘導居住水準面積を設定しているが、富山県では、誘導居住水準面積以上の世帯の比率が75.1%で、都道府県の中で最も高く、最低居住水準面積未満の世帯の比率は2.9%で、秋田県の2.4%に次いで低い。


 所有する現居住地の面積も、当然ではあるが住宅面積と同様の傾向である。




(統計データ)

(Dec.02,2016Add.)


(3) 築年
 2018年の住宅土地調査による現存住宅の建築年次の構成を年当たり戸数に換算して見ると、富山県では、相対的には、1970年以前の住宅がしっかりと残っている。
 また、1990年代後半からピークがあるが、これは、団塊ジュニア世代の住宅建設によるものである。さらに、2006-2008年のピークはいわゆるミニバブルを背景とするもので貸家建設が増加している。
 なお、建築着工では'70年代に団塊の世代が形成したピークがあったが、それ以降より低いのは、築後40年程度で一部に廃棄が進んでいることが窺える。


(4) 空き家率
 富山県での空き家率は14.7%であり、全国の13.8%を上回っている。都道府県の中では31番目の高さであった。


 空家率の推移をみると、2018年までは次第に高くなっていたが、2023年は横ばいとなった。そして、都道府県値の分散が大きくなってきている(高かったところはより高く、低かったところは横ばいないしは低下)。
 こうした中で、富山県については、相対的には低めのいちにあるが、2023年はかなり増加している。


 最近5年間の空家率の変化(%point)を都道府県毎に見ると、低下した都府県と上昇した道県の分布が極めて明確に分かれている。低下した都府県は、いわゆる太平洋メガロポリス及び、宮城・福岡・佐賀県であった。

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 空家全体の住宅総数に対する比率(空家率)では、二次的用途の多い東京周辺の甲信・北関東・静岡及び放置の多い四国及び鹿児島で特に高い。和歌山・三重でも放置の比率が高いが、隣接する大都市府県へ人口が抜けているということであろうか。


 空家は@賃貸・分譲用の住宅とA用途のないいわば放置されている住宅とB別荘を含む二次的用途の住宅とに分けられる。
 @には、大都市圏の地域が多く、不動産サービスが活発なことが予想される。
 Aは、過疎の多い地域で、人口減少から住宅が放棄されていることが予想される。 Bは、東京圏周辺の地域であり、別荘等が多いことが予想される。



 富山県の空家について空家の種類毎に建て方別の構成を見ると、賃貸用では共同住宅が特に多く、さらに長屋が加わっている。
 共同住宅には古くなった公的住宅が多いのであろう。また長屋については、比較的近年のものも含め資産運用を狙って建てられたものが含まれると推測される。
 放置では戸建てが多く、これに共同住宅が加わっている。戸建てについては、世帯員の転出によって空家となってしまった住宅が多く、適切に管理されているか懸念される。



 ちなみに、持家のうち中古住宅を取得したもののの比率を見ると、全国で14.7%、富山県で10.2%と低い。
 このように比率が低いのは、持家の建設・維持では住替えることが念頭に置かれておらず、また、流通システムの整備も遅れているといえよう。


 持家率の低下は、住宅を取り巻く諸事情の変化の中での結果であり、これを直接評価するよりも、その背景にある課題を理解しておくことが重要であろう。
 世帯総数減少への転換、世帯規模の縮小、人口の高齢化などにより、住宅への需要は明らかに変化しつつある。一方で、退職金等余剰資金による貸家建設や土地販売への期待など、供給側の独立した事情もあり、空家率が上昇しつつある。
 県内での既存の住宅資産の効果的な活用、農地転用の抑制やコンパクトシティ形成を勘案した県土利用の管理などの面からは、今後は、適切な住宅流通市場が形成されていくことこそ期待される。
 景気浮揚の面からは建設需要の増加期待もあろうが、長期的な観点からはむしろ既存住宅ストックの効果的活用を図るリフォーム産業の形成こそ期待されよう。

 ⇒空き家考

(統計データ)

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(May.01,2024Rev./May.24,2020Rev./Mar.12,2015Re-Ed.)