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近代化についての考察
―豊かな地域の課題―

(1) 近代化
(2) 豊かさと近代化の乖離
(3) 富山県の特色を生かした地域づくり

 富山県の統計に現れる特徴は、豊かさの現れとして捉えられている。しかし、この豊かさは、我が国が明治以来求めてきたいわゆる近代化の方向と次元を異にするものである。
 富山県には富山県なりの豊かさがあり、今後これを生かし、主体的に地域を形成していきたい。


(1) 近代化
 社会の近代化については多様な議論があろう。しかし、非西欧社会にあっては、西欧文明と遭遇し、それが浸透する過程を指す言葉として使われている。
産業
 これを産業の発展で見ると、次のような経験則がある。まず就業者の太宗が農業を中心とした第一次産業に従事していた時代から、工業が発展し工場等へ通勤する第二次産業の就業者が次第に増加していく。ついで、第二次産業への就業の増加は頭打ちとなり、それに変わって各種のサービス産業を含む第三次産業への就業者が次第に増加していく。これらの現象は、産業の高次化あるいはサービス経済化ともいわれている。
社会
 社会における人々の行動、人間関係の変化については、具体的な統計指標等としては捉え難いが、社会学の中に参考となる概念がある。
 例えば、テンニースの「ゲマインシャフト」と「ゲゼルシャフト」の概念がある。ゲマインシャフトとは、人間本来の血のつながりや生まれ育った環境から生み出される自然的欲求が支配し、相互の了解に基づく全面的な相互依存関係の社会である。ゲゼルシャフトとは、ある目的のための手段の選択、考量において生み出される人為的欲求が支配し、相互の契約、協定に基づく一面的な依存関係の社会である。
 また、社会の多様な組織について考えるのであれば、マッキーバーの「コミュニティ」と「アソシェーション」の概念が参考となろう。一般に地域社会組織全般を指してコミュニティの用語が使われるため2つの組織が区別されない。しかし、地域社会に住むことによって必然的に加入するような組織(コミュニティ)と各人の自発的な意志で加入する組織(アソシェーション)には自ずと異なる役割があり場合によっては区別して捉えられる必要があろう。
都市
 また、都市の形成について見れば、非西欧諸国の多くは、西欧諸国に追いつくために、中央集権的な体制を採っている。このため、産業の高次化ともあいまって、特定の中枢都市へと人口が集中し、多くの国で大都市が形成されるといった都市化現象が進行している。
価値観
 一方、個々人の行動の背景にある価値基準については、パーソンズの価値のパターン変数が参考となろう。これには「@感情性・感情中立性、A集合体指向・自己指向、B個別主義・普遍主義、C帰属性・業績性、D無限定性・限定性」の5組の変数が提起されている。
 さらに、以上のような人々の行動の変化は、先の都市化ともあいまって、大規模な家族を次第に解体し、核家族化・個別化をもたらしている。
 富山県の地域社会を考える場合、地域社会の絆の強さによる、大勢順応的傾向が常に背景につきまとうが、これらの概念を共通認識として持ち、議論を深めていく必要があろう。


(2) 豊かさと近代化の乖離
 富山県の豊かさの特徴は、別の言葉では、@サービス産業が発展せず産業の高次化が展開せず、A大都市の形成がなく都市化は進まず、B三世代同居が維持され核家族化が遅れているといえる。これは、いわば社会の近代化に遅れてきたともとれる。しかし、「新国民生活指標」等の豊かさの指標と大都市圏への人口集中など近代化の中での諸現象とが同軸上にはないことを意味しているのであろう。


(3) 富山県の特色を生かした地域づくり
 それでは、富山は今後どのような地域を目指していくのか。遅れた近代化を追いかけ、サービス経済化に励み、大都市を育て、核家族化を促していこうとするのか。むしろ、このような変化には、メリットもディメリットもあり、現時点なりに社会の大きな変化を捉えて、21世紀の地域社会を主体的に形成していく必要があるのではなかろうか。もちろん、地域社会は全てが計画によって築けるものではない。真摯な議論を興し、各自はその中から行動を選択していくこととなろうし、行政もその中からバランス感覚の採れた施策を打ち出していくこととなろう。


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(Jan.17,2014Rev.)