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北陸の豊かさの背景 ―豊かさの軸試論―
(1) 豊かさの交差点
都道府県を比較した豊かさ指標が、経済企画庁による国民生活指標をはじめとして幾つもの機関で作成されている。
その多くの試算で、北陸地方の豊かさが指摘されている。
なぜ北陸が豊かな地域となるのであろうか。
試算の多くは、多様な統計指標を分野分けし、それぞれ標準化(正規化)した上で加算している。
統計指標値の都道府県分布については、この「富山を考えるヒント」の随所で引用している。これを整理すると、典型的な型として「中央=周縁型」、「日本海沿岸=太平洋沿岸型」、「寒地=暖地型」、「都市=鄙型」の4つの型が見られる。
日本の地域構造 4つの型
◎中央=周縁型
日本の中央部と周縁部が対比される軸で、多くの経済指標等で現れる。
◎日本海沿岸=太平洋沿岸型
日本海沿岸地域と太平洋沿岸地域が対比される軸で、水田農業経営を背景に家族・地域社会・住宅等に関連した指標で現れる。
◎寒地=暖地型
日本の南北を対比が対比される軸で、冷暖房器具所有率の指標等で現れる。
◎都市=鄙型
大都市圏特有のバリエーションで、都市型生活と自然型生活が対比される場合と都市圏内での都府県境の移動による偏りが現れる場合とがある。前者については、家電製品等の所有等で現れる。後者については、例えば埼玉県において人口当たり施設数が少なくなる現象等である。
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豊かさ指標では、一般に、地域にとって所与であり努力によって変更できない気候条件等の統計は扱われない。このため「寒地=暖地型」を持つ統計の多くは、引用されない。「高齢者にとって気候温暖な地域がいい」などといった視点は予め除外されている。
通常、豊かさの構成要素として第一に挙げられるのは経済的豊かさである。この指標は、概ね「中央=周縁型」に沿っている。3大都市圏とその隣接地域である関東、近畿、中部で高い評価となり、北海道、東北、九州、四国、中国で低くなる。
さらに経済的豊かさには、「都市=鄙型」の指標も関連している。都市側の地域としては、3大都市圏の都府県に地方中枢都市所在道県が、概ね加わっている。ただし、この指標については、都市側の評価が一方的に高い訳でなく、いわゆる過密の弊害などか窺われることもある。
他方、経済面以外での豊かさについては、明確には規定し難いが、ゆとりがあり安定していることなどが、評価される。この統計については、「日本海沿岸=太平洋沿岸型」で整理されるものが多く、ゆとりを始めとして、日本海沿岸が高く評価されることが多い。
このような経緯から、経済的側面でも非経済的側面でも評価が高い地域に属している北陸地方が、豊かさの総合評価で高い位置を得ることが多くなっているといえよう。
いわば、北陸は、「中央経済圏と日本海沿岸文化圏の交差点」にあり、2つの圏域の相乗効果による豊かさを実現している。
なお、このよう2つの軸に沿ったグループ分けは、国民生活指標に用いられている統計指標の因子分析でも抽出される。ただし、実際には、第3軸の「都市=鄙型」の要素が幾分重なって現れている。
以上のような豊かさの2つの要素のうち、経済的豊かさについては、豊かな職場がもたらす様々な評価に関わっており、周知の側面が多い。以下では、非経済的価値に沿う、日本海沿岸地域の特性について検討する。
(2) 日本海沿岸文化圏の豊かさの由来
日本海沿岸圏域の特性を示す県は、北から順に、秋田、山形、新潟、富山、石川、福井、鳥取、島根である。
日本海沿岸の道府県には、さらに、北海道、青森、京都、兵庫、山口があるが、いずれも太平洋沿岸(あるいは瀬戸内海沿岸)地域を併せ持っており、道府県全体の統計としては、特性が明確に現れていない。
また、石川、福岡については、地方中枢都市を抱え、統計によっては、異なった様相となることがある。
なお、佐賀県が類似した様相を呈することもある。また、日本海沿岸ではないが、滋賀県の統計も類似することがある。
日本海沿岸地域の判別
日本海沿岸諸県に共通する特徴を持つ指標がいろいろあるが、ここでは、戸当たり住宅面積と子育て期(30-34歳)女性就業率から、日本海沿岸の判別式を求めてみた。
ただし、2つの説明変数にも相関があるので、あまり成功している分析ではない。
ここでは、元のデータでは、日本海沿岸地域に入れなかった青森、佐賀、岩手が日本海沿岸に区分された。
佐賀については、ときたま富山と共通した傾向を持つ指標を見かけることがある。
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日本列島は、地殻の衝突によって大陸の周縁に形成された島弧である。
冬季には、大陸部での高気圧が優勢となり、そこから季節風が吹き出す。
この季節風は、暖流で暖かい日本海の水蒸気を含み、脊梁山脈に衝突し、大量の降雨をもたらしている。
さらに、この降雨は、脊梁山脈を浸食し、その麓の日本海沿岸地域に、広範な沖積平野を形成した。
日本海沿岸地域の人々は、このような地形的、地理的環境を持った舞台の上で、古くから稲作を営み、それなりに豊かな生活を享受してきた。また、それぞれの時代の都の繁栄を支える役割も果たしてきた。
戦後、製造業の発展を核に産業構造の転換が一層進んだ。これとともに、人口の都市に向かった移動に一層の拍車がかかった。また、企業本位の社会構造が一層強化された。こうした中で、家族については、家父長制度下の「イエ」が否定され、核家族化が進んだ。一方、農業については稲作への純化が一層進められた。
こうした、我が国全体の流れの中で、日本海沿岸地域においては、平野部においての稲作を中心とした農業生産が続けられてきた。この農業生産は家族経営で担われてきたため、家族規模の縮小は他地域に比較して緩やかに進んだ。都市に向かった人口の移動も相対的に少なく、住宅事情を始めとして、日常の生活空間もゆとりを維持したものとなっている。
このようなことが背景となって、日本海沿岸地域なりの豊かさの一端が形成されてきた。
(3) 中央経済圏との相乗効果による豊かさ
さらに、北陸地方においては、三大都市圏に近接しており、地域なりの産業振興の努力ともあいまって、産業が発展し、働く場が整備されてきた。
農業の労働生産性が著しく高まるとともに繁忙期が限られていたため、人々は、住所を移さないまま、工場等に働きに出ることとなった。この結果、世帯の中には働き手が多く、世帯当たりの所得が極めて高い、したたかな生活を形成することとなった。
さらに、平野部に分散したまま居住しつづけた結果、その需要に併せた各種施設の整備が進められ、文化施設や体育施設などの人口当たり整備水準も高いものとなった。また、自動車社会も浸透している。
経済的には、大都市の方が高い水準となりそうであるが、人口の過剰な流入等はなく、人々の生活水準も比較的格差が少なく、全体として経済的にも豊かな地域となっている。
なお、近年、このような豊かさの基盤は大きく揺らいできている。
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(Jan.18,2014Rev./Feb.12,2000)
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