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第3章 モノづくり指向の産業
第5節 21世紀産業の構想

第4項 新時代への産業転換

(1) 地球温暖化対応
(2) 企業目的の再確認
(3) 働き方改革
(4) 重点産業への資金循環
(5) 資本主義経済からの脱出

 地球温暖化が進んでおり、経済社会の大転換が避けられなくなっている。
 この当然の前提として、企業活動とは何なのか、働くとはどういうことなのか根底から再考せざるを得ない。これと同時に、政策の在り方も転換しなければならない。



(1) 地球温暖化対応
 人類の経済活動と地球温暖化の関係は未だ確実に分かっていない点も多い。しかし、今対応すべきことは、物的消費の鎮静化であることは明らかである。(下図再掲)

 地球温暖化に関して個々の産業の在り方を考えれば際限がない。包括的なメカニズムとしては、高額の炭素税によって温暖化ガスの排出を抑制していく必要がある。しかし、これだけで解決するわけでなく、個別的な課題にも留意しておく必要がある。
 まず昨今の景気低迷の中で観光産業の振興が図られており、それなりに経済活動の盛り上がりを達成しているが、地球温暖化ガス排出抑制の視点からは、これは否定すべきであろう。航空機の燃料消費は膨大なものであり、決して推奨すべきでない。このため産業振興として観光振興を取り上げることは早晩否定されるようになろう。富山県にあっても全国、世界に先駆けて観光振興の旗を降ろした方がいい。
 また、国土強靭化として各種の基盤施設の整備を進めているが、方向性を間違えないよう留意が必要である。特に、人口減少、財政的限界を勘案して、事業の必要性を仕分けていく必要がある。
 振興すべき事業としては、多様な発電産業であり、定額買取の継続、電気代への必要な上乗せなど地域なりに継続してはどうだろうか。また、富山県には、発電に関連する企業もあり、地域なりの振興策を展開していくことができよう。


(2) 企業目的の再確認
 喜ばれる財・サービスの生産こそ企業の目的であり、それが購入されることによって、企業は所得を得、働く人に賃金等として配分されお金が回っていく。(右図再掲)
 我が国の企業は、バブル経済崩壊後、アメリカのビジネススクールの教えに倣って、株主利益の最大化を企業の目的とした。1990年代の半ばには、経済同友会等の経済団体では、従業員の解雇も避けられないとして雇用維持の役割を放棄した。さらに2000年代に入って政府は、自己責任論を展開し、厳しい就業事情に陥った人々を顧みなかった。また、海外からの労働力の導入を技術研修と称して拡大した。労働力不足の中では、本来労働コストが上昇すべきなのだが、労働分配率はむしろ引き下げられた。
 こうした中で厳しい格差社会が形成されてきいる。また、人に喜ばれる財・サービスの生産を忘れ、結果として、我が国の経済力は国際社会の中で転落してしまった。
 現在の企業活動は、法律が許容する範囲での所得最大化を狙っており、かなり危うい。さらには発覚しなければなにをやってもいいという発想さえ蔓延している。こうした中で、資本主義市場経済自体に疑問が呈されるようにさえなり、企業活動の在り方の再検討が求められている。
 企業経営といっても人の活動であり、倫理的な発想を否定することはできない。H.フォードやC.バーナードのような素朴な経営論に戻れとは言わないが、関係者全員の利益を念頭におく必要がある。

 利益本位で金融操作に拘っていては、短視眼的には、個別的には、利益を得ることができても、長期的には、そして社会全体としては、衰退していく。これが我が国の失われた30年の実態だったのだろう。各企業の生産力が極めて劣ったものとなってしまっている。
 今日では、同一労働同一賃金や非自発的非正規雇用の解消などが政府でも提唱されているが、個々の企業は問題を直視していない。というより競争経済の中で直視しようがない。こうした中で、地域経済の生産サイドの構想において、格差是正を検討することは、殆どできそうにない。
 しかし、富山で働く人の非正規雇用比率は、相対的に低く、これはモノ造り産業が多いと同時に、地域で生まれ育った企業が、人の顔が見える経営を続けているためと考えられる。今後とも、こうした企業に、働く者の顔を見つつ、生産性を上げていくことを期待せざるを得ない。


(3) 働き方改革
 我々は、一層の所得を求め、様々な生活の局面の中で働くことを優先し、時にはその重圧に押しつぶされることさえ見られる。そして、いつの間にか人と共に生きる生活を失ってしまっている。(右図再掲)
 生活の中で必要な多様な支えを専ら政府に求めているが、それぞれなりのコミュニティとの共同がなければ、安心し安定した生活を送れる社会の実現は困難であろう。望まれる生活を取り戻すために働き方を変えていく必要がある。

 コマーシャリズムに対抗し、物的消費を再考・削減のできれば、長時間労働の回避も可能となり、各自なりにの生活を展開することもできるようになろう。新型コロナウィルスの対応の中でテレワークが推奨されているが、通勤時間の削減も大切であろう。COVID-19禍の中での新しい生活態度の提唱は、この参考となる。この生活再生期こそ新たな生活への転記としていきたい。
 情報通信技術の進展の中で、四半世紀後には人間の能力を超すとさえ予想されているが、これを一層の所得のために使うのでなく、働き方改革そして格差解消等々、新たな経済社会の創造のために活用していく必要がある。
 こうした、新しい生活、新しい働き方については、地域なりに提唱していけることがいろいろとあると考えられる。



(4) 重点産業への資金循環
 今日の経済メカニズムでは達成されない分野の活動に積極的に資金を回すことも必要があり、それなりの政策展開が求められる。(右図再掲)

 多様な人のケアを行政と地域社会が共に行っていく必要があるが、この分野に積極的に資金を回していく必要がある。ケアワークに働く人の所得向上がつとに言われているが、それなりの負担を覚悟して、地域なりに進めていかなければならない。
 農業についても、将来の食料需給の逼迫に対応していく必要がある。地域の農業・耕地の状況を踏まえて、所得補償等を含め、その在り方を検討、実践していくことが必要である。



(5) 資本主義経済からの脱出
 現在の金融資本主義経済の体制の下では、地球温暖化への対応、経済的格差の解消などは限界がある。このため経済体制自体を転換していく必要がある。
 その糸口としてどのような経済活動を展開していけばいいのか。
 多様な共同所有「コモンズ」と多様な協働「コモニング」により経済的成長から脱却していくことであろう。
 ただし、こうした社会の構築は、これまでの歴史の中で、R.オーエンを始め多くの人が試みてきており、失敗してきていることも事実である。
 しかし、覚悟して大転換を図ることが必要で、これを超えなければ人類社会の崩壊に至る可能性が見えてきている。
 多分、人類の階梯を一段昇る必要があるのだろう。

 本頁の内容は検討不十分であり、表現も練れていないが、取り敢えず掲げておく。

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(Jul.12,2024Rev、/Jun.25,2021)