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第4章 堅実な生活

 豊かな富山の生活の特徴は「堅実な生活」ということができよう。
 これまで安定して安心できる生活を確保し続けているが、自由で創造的な生活の展開には不得手なようである。
 家族地域社会の機能が脆弱化する中で今後とも足腰の強い生活を続けていくためには、人と人との多様な繋がりを再構築していく必要があり、外に開かれた生活を心がけることが要点であろう。

第1節 絆の強い社会
 人々の社会移動(転居)が少なく、家族は大きく、地縁社会の繋がりも強い。こうした中で、互いに支え合う生活を残しており、規範の縛りが強い面も見られる。
 しかし、世帯規模の縮小が急速に進展し、安定した社会システムが崩れつつある。

第2節 安心した暮らし
 かつては、家族・地域社会の中で福祉を実現してきており、行政への依存度は低かった。
 しかし、意識は変わってきており、部分的には社会的支援に大きく依存するようになっている。

第3節 健やかな暮らし
 これまで、健康改善の努力を重ね成果を収めてきた。
 しかし、医療制度は、財政的困難に直面しており、大きな転換が迫られている。

第4節 学び続ける暮らし
 これまで、進学率や各種講座受講率の高さなど、教育・学習への熱意がある地域とみられてきた。
 しかし、地域の皆で子供を育てるとともに、一人ひとりが豊かに学び続ける社会には至っていない。

第5節 価値ある暮らし
 伝統的な活動はやや残っているが、豊かな新しい活動は育っていない。
 むしろ、様々な活動において、若者には不活性の傾向が見られる。

第6節 新たな生活習慣
 県民の生活行動は大きく変わってきており、より功利的な傾向がでてきているようだ。
 新たな社会を築いていくいろいろな活動は、なかなか立ち上がり難いように見受けられる。
 今後とも堅実な生活を続けていくためには、人と人との多様な繋がりを築いていく必要があり、外に開かれた生活を心がけることが要点となろう。

 富山は県全体としては、主として扇状地で形成された富山平野を中心にコンパクトにまとまった地域である。このため県内で職を得れば、転居しなくても、かつては鉄道で、現在では自家用車で職場まで通うことができ、社会移動(転居)の少ない県となっている。これは、かつての家業の兼業農業を支える効果もあった。結果として、世帯規模の縮小はかなり遅れ、また地域社会の繋がりも残り、足腰の強い生活を維持してきている。これは、世帯所得の大きさや生活保護率の低さ、あるいは老人クラブの組織率などで見ることができる。
 しかし、富山県でも三世代家族等の核家族化、さらに単身化が進み、地域社会の繋がりも薄れてきている。結果として、失業、疾病、高齢化等々に対し、県民の生活基盤は次第に脆弱なものとなってきている。
 これまで、このような脆弱性については、専ら各種の社会保障制度の中で公的に補完される社会の形成が目指されてきた。この社会保障制度の充実・維持は当然社会の重要な懸案である。しかし、高齢化社会の中での財政的限界があることと同時に、社会保障は困窮への対処であり、そのような困窮に陥らない仕組みを地域で形成していくことこそ大切であろう。

 このためには、地域社会で普段からの多様な繋がりを形成していくことが必要と考えられる。地域社会での繋がりについては「絆」として震災等を契機としていろいろと議論されるようになってきている。富山ではかつては家族地域社会の繋がりが自然にあったが、それが崩壊しているにも拘らず、新たな繋がりの形成への動きは、相対的に弱いように思われる。
 人と人の繋がりは多様な活動を契機として形成されよう。繋がりを形成するための活動というより、各自なりの普段の多様な活動を地域に開かれたものと工夫していくことであろう。ワークライフバランスが議論されるが、生活に少しの社会的活動を加えていくことが必要であろう。さらに、団塊の世代が高齢期に入り元気な高齢者が多数生まれているが、この人たちが各自勝手にいろいろな活動を展開すると、面白い社会が創られていくことが期待される。これについては、高齢者の健康寿命を引き延ばす効果もあろう。
 社会に開かれた活動の繋がりは、多様なグループであってよい。時たま不特定の人が集まるグループもあれば、組織化して法人化(NPO化)したグループもあろう。そして、人が困難に陥った時、それを支える契機となればいい。あるいは困難に陥る前に支える契機となればいい。人の孤立を防ぐ役割が果たせればいい。
 さらに、活動に関連して、空間の共有があれば、目に見える形での繋がりとなる。特に高齢者の増加に鑑みれば、日中の生活空間、食事の場、さらには住まい(シェアリビング、シェアダイニング、シェアハウス)などが形成されてもいい。

 多様な学びの場の充実も大切である。
 その一つは、子供の成長を社会で全面的に支えることが求められる。社会の格差の一層の拡大が危惧されているが、この連鎖は断ち切らねばならない。
 また、経済活動が目まぐるしく変化していくが、これに耐え働く能力の形成の支援も重要である。
 さらには、皆が参加して、教え教えられ、幅広く学ぶ場の形成も図っていきたい。

 高齢社会では、個々人の健康維持も重要な課題である。各自の人生最後の健康でない期間(平均寿命−健康寿命)が短縮されることによって、社会のありようは大きく異なってくる。個々人の差異を踏まえつつも、それぞれが活き活きと生き続けることができる地域環境を創っていくことも大切であろう。

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(Nov.11,2019Rev.)