圏論

 「丸山善宏著『万物の理論としての圏論』青土社2023年」を読んだ。

 数学の圏論は、「まず対象があり、それに何らかの操作(射)ができ、その射は繋ぐことができる」というシンプルな基礎でできている。この圏をもとにして多様な知的分野の橋渡しをすることができ、さらには万物の構想を描くことができるというものである。そして圏論の重要性は、解決困難な問題が、橋渡しされた別の知識から、その双対性(アナロジーと理解してもいいかもしれない)を使って、元の問題が解決されるという点である。
 小生には、この数学的意味合いは全く理解できないが、本書には、興味深い記述がいろいろとあった。

 まず包括的には、ボーアvs.アインシュタイン論争あるいはノーヴィグvs.チョムスキー論争などを「対象の統計的処理による理解」vs.「メカニズムによる理解」として捉えていることである。ボーアの量子論は、統計的処理から精密に予測できる式を導きそれを解釈している。これに対してアインシュタインの相対性理論は、リーマン空間のメカニズムとして微分方程式により導かれている。量子理論でエンタングルメ(もつれの理論)にぶつかってしまうのは、量子論はヒルベルト空間を単に利用しているに過ぎないためであると解釈している(隠れた変数を理解していないと言えるかもしれない)。また超弦理論は困難な数学的発想が必要で物理学者には対応できないとも言われているが、これで量子論が深みに入れるのか、基本的なところに課題があるのかもしれない。

 情報理論については、宇宙の存在自体をコンピューティングとして捉えるメタバースの発想を説明しており興味深い。
 シンギュラリティについて、多様な意味で考察し、さらには、与えられていない(認知されていない)問題は解きようがないという後期クィーン問題に触れているのも面白い。

 いずれにしろ、本書のコメントにあるように「圏論によって、世界を統一する大胆で、無謀で、野心的な試み」であることは間違いない。但しそれが成功しているのかは、小生には評価できない。

May.09,2025

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