新しい階級社会「橋本健二著『新しい階級社会ー最新データが明かす<格差社会の果て>』講談社現代新書2025年」を読んだ。東京駅60km圏26,001人、名古屋駅40km圏6,218人、大阪駅50km圏11,601人の合計43,820人(20-69歳)を有効標本とした「2022年三大都市圏調査」で、格差を多面的に捉えるための多様な質問をした調査を分析・解説したものである。 インターネット調査であり基本的な限界はあるが、統計的にしっかりと分析したものとなっており、図も文章も分かり易く整理されている。 分析では、次の階級区分を設定している。 @資本家階級3.9%250万人 A新中間階級32.1%2051万人 B正規労働者階級27.4%1753万人 Cアンダークラス13.9%890万人 D旧中間階級10.3%658万人 パート主婦 A、Bの主婦12.3%788万人 主婦以外の失業者、無業者273万人 育った家庭、教育、キャリア、消費生活状況など、内容は概ね予想される結果となっている。 統計分析から離れるが、アンダークラスが形成された歴史的背景も解説している。 フレクシ=グローバル資本主義が進む中で、現代の資本家階級は、自らの利益のみを考え、労働力の対価として労働者が生活の維持・結婚・子供の養育といった再生産をできない賃金しか払わなくなったことを特に強調している。 これは、資本主義市場経済が正当性を失っている証と考えられよう。 また、本書の最後に、統計のクラスター分析により、政治意識を分析している。ここでは、現代日本人の類型として、@リベラル、A伝統保守主義、B平和主義者、C無関心層、D新自由主義右翼の5区分をあげている。 5階級に関しては、それぞれに各政治意識類型の者がいるが、それぞれの意識が相対的に多いのは、@リベラルではアンダークラス、旧中間階級、B平和主義者では新中間層、C無関心層では正規労働者層、D新自由主義右翼では資本家階級であり、概ね納得できる内容であろう。 私自身は、この調査の年齢層からは外れているが、階級としては新中間層に該当し、政治意識としてはリベラルを自認している。これは本書の典型的な位置付けとはずれている。 ところで、我々の政治意識はどのように形成されるのだろうか。 政治意識は、一般には、自らの損得勘定とされそうだ。 しかし、これより大切なものとして規範意識があるのではなかろうか。私としては、「真実に沿い、正義に適う」ことを念頭において生きている。 ここでの正義については、人によって様々である。しかし各自の正義は、自分は何をしたいか、そのための整合性がある社会を描き、それが実現するよう自分なり努力することとなるのではなかろうか。そして、私にとって核となるのは、ロールズの言う平等の実現である。 さらに、今日の日本社会の基本的問題は、皆が規範意識を放棄していることではなかろうか。いろいろな仕事の中で各自なりの利益を追求し、正義を放棄している。このため、それぞれの仕事がいい加減になり法律違反(犯罪)、事故 産業活動の衰退が起きている。政治家も自らの利益に拘り、各自なりの正義に基づく社会の実現を図ろうとはしていない。 Jun.29,2025 目次に戻る |