ヒトの本性
ー戦争への対応を考えるー

「長谷川真理子著『美しく残酷なヒトの本性ー遺伝子、言語、自意識の謎に迫るー』PHP新書2025年」を読んだ。
 Voice2021年〜2023年各月号の巻頭言に掲載されたものが再構成されている。このため、特定の話題を取り扱っている訳でないが、人類が今抱えている課題に我々は対処していけるのかが、基本的なテーマとなっている。

◎著者はヒトの本性に関連して次のように述べている。
 人類は長らく、文化を共有した小さな集団(内集団)で暮らし、互いに助け合ってきた。これに属さない他の集団(外集団)とは日常的な関わりが薄く、文化も異なり偏見を伴いがちであった。そして外集団は多くの場合に敵であり、殺しても構わない存在であった。
 こうした中で、人権や人道主義という概念が生まれ、外集団でも同じ人であり、例え文化が異なろうとも同じ扱いをしようという理性が生まれたのは、たかだか18世紀のことであろう。我々人類には、未だこの理性に感情がついていけないことがしばしばある。

◎それでは、戦争の危機に対してどのように構えればよいのだろうか。
 このような人の本性の結果、国家間あるいは国内の集団間での戦争・内乱が絶えない。仮に、自分が近代的な理性を貫こうとしても外集団が争いを仕掛けてくる。今日の世界では、〇〇ファーストという言葉が飛び交い、力こそ正義という発想が、再び露わになってきているようだ。

 このような状況の中で、どう対応していくか。
 自分としては、理性的な生き方として、非戦を貫きたい。仮に戦争を仕掛けられ、侵略を受けても敢えて戦わない。ただし、平生からの平和への最大限の努力が必要である。
 としても、我々日本はどうしていくか。自分の立ち位置はともかく、国としてどう生きていくかは、最終的には、若い人に委ねたい。その中で自分がどう行動するかは、また考えなければならない。

 バランスオブパワーの中で、非軍備という立場を取れば、それに乗じて侵略されることはかなり明白であろう。しかし、総力戦となれば、幾つかの国には叶わないことも明らかである。ここで、アメリカの要請に応じて軍事費をGDPの5%に引き上げることなどは、アメリカとの心中への道を進むことであり、国家運営からみて愚かではなかろうか。我が国は、どんなに頑張っても一定の限られた対応能力にならざるを得ない。また、非戦への努力として、他国の戦争遂行の支援は一切しない。ただし、国連の主導するPKOへの参加等は検討していく。また、戦争後の復興には積極的に支援していく。
 普段からの平和への努力としては、ODAをGDPの0.7%に引き上げることなどが必要であろう。ただし、近年我が国のODAは変質しており、国家安全保障の下部に位置づけられ、下心を露わにしているが、これは国家戦略上愚かであろう。
 なお、我が国の過去の帝国主義的行動については、歴史を歪めず認識し、1945年に考えを改めたことを明確に確認し続けておく。これは、周辺諸国と共生するために欠かせない姿勢である。


◎話は変わるが、著者は、生物学を理解するためとして、生物界を捉える4つの軸を提示している。
@種
A階層 遺伝子、諸分子、タンパク質、細胞・器官、個体
B機能 形、代謝、外界への反応、成長と加齢、繁殖
C進化

Jun.23,2025

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