ホモ・サピエンスの宗教史

 竹沢尚一郎著「ホモ・サピエンスの宗教史」中公選書2023年を読んだ。
 宗教は虚構であろうが、人類史の各段階で宗教が生まれる必然性があった。科学の進展等の中で脱宗教化が起こっているが、人が倫理観を身に付ける術を喪失し、大きな課題に直面している。
 以下では、本書の内容を自分なりに整理しておく。

 家族を単位とした狩猟採取時代の初期から、豊猟の際などにお祝いがあったことが予想される。また、人がなくなった際の葬送儀礼もあった。そして自然と一体となったアニミズム的世界観を持っていたに違いない。

 狩猟採取時代でも集団が若干大きくなってくると、その結集のための手段が求められる。このためそれなりの象徴が用いられるようになっただろう。また、子供の成長段階に応じた役割分担を明確にする通過儀礼も制度化されたであろう。アニミズム的世界観は続くが、トーテムの繁栄祈願があったことも予想される。

 農耕牧畜が始まると、その豊穣を願っての先行儀礼が生まれる。またうまくいかなかった場合の遡及儀礼も伴っていたであろう。そして土地等の占有から祖先崇拝が始まり、通過儀礼の制度も充実してくる。さらにアニミズム的世界観は、神々の精霊が想定されるように変化していく。

 人々の集団が大きくなり、強力な調停者が生まれてくると、宇宙の進行を操る者として神格化していく。多くの集団を支配する中で、多神教を持つようになってくる。

 国家が大きくなっていく段階で、神々の階層化が進み卓越する宗教儀礼が出てくる。こうした宗教の改革運動として、新たな世界宗教が生まれる。
 世界宗教の共通点としては、次のような事項があげられる(取り合えずキリスト教、仏教を想定)。
・弟子には世俗を離れることを求めた。
・在宅信者の支えが前提となった。
・個人をターゲットとした。
・儀礼主義を批判した。
・狭い集団にとどまらなかった。
 相当数の信者の獲得の後に、これが国教化され、世界宗教として拡大していった。

 さらに年月の経過とともに世界宗教も形骸化し儀礼主義に陥っていったが、これを批判したのが宗教改革である(イスラム教や日本の鎌倉仏教もこれに含まれるが、通常はルターのプロテスタンティズムを取り上げる)。原点に帰り、神への直接的帰依を求めた。この改革の下で、新たな科学、経済が展開した。

 科学の展開の下で、宗教の虚構性が明らかになってきた。そして脱宗教化が進む。
 ただし、この結果として、人々がその成長過程で倫理性を育む契機を失うこととなった。
 我々一人ひとりが、人の生き方のあるべき姿をとことん考え、人生を選択していくことなど極めて困難であろう。そもそも、人生の初期にこのような姿勢を形成する契機を失っているのだ。

Mar.29,2024

表紙に戻る