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第4章 堅実な生活
第3節 健やかな暮らし
第2項 医療

2.医療の変化
―医療費の抑制―

(1) 医療費の推移
(2) 入院期間の短縮
(3) 病床数の削減
(4) 一般病院受診の抑制
(5) 病院数の推移
(6) 医師数の推移
(7) 薬剤費の抑制

(1) 医療費の推移
 人口の高齢化、新たな医療技術の導入などによって、国民医療費は著しく増している。このため、健康保険制度での医療費の抑制が求められており、病床の削減、診療報酬・薬価の切下げなど多様な対策が重ねられている。
 団塊の世代が後期高齢者になる段階に向かって、医療資源の配分の在り方を今後一層大きく変えていく必要があり、いわゆる高度医療などは抑制し、さらに療養の主体を在宅(家庭)で担うことが画策されている。
 しばしば行われる制度改革が適正かどうかは、慎重に判断されなければならない。しかし、制度の多くは国全体の枠組みであり、地域の考えを入れることは難い。富山県は国の方針に即応している面があり、いろいろな支障を招いていないか、地域なりに慎重な配慮が必要である。

 人口当たり医療費は、経年的には、人口の高齢化が進む中で、20世紀末で次第に増加してたが、2000ゼロ年代に入って介護保険の導入により一旦減少し、その後再び緩やかに増加している。
 しかし、団塊の世代が後期高齢世代に向かっており、医療費の抑制が一層急務となっており、各種の制度変更がなされ、国民医療費は年々不規則に変動している。


 厚生労働省は、我が国特有の医療費増加要因として、@病床数が多い、在院日数が長い、A薬剤価格が高い、薬剤使用量が多い、B医療材料価格が高い、C検査が多いを上げている。

 ちなみに富山市の家計消費支出に占める保健医療費の割合は、全国でも特に低い水準で推移している。




(2) 入院期間の短縮
 病院への新規入院患者数は、一旦'00年代半ばに横這いになったが、'10年代に入って再び増加に転じている。
 富山県を含む北陸3県は、全国平均を2千人/10万人近く上回って推移している。


 入院期間の短縮に関しては、長期入院の診療報酬引下げや患者負担の導入などがなされてきている。
 一般病院平均在院日数を見ると、全国では1980年代前半、富山県では1990年頃をピークとして、大きく低下してきている。富山県については、ピークでは50日を超えていたが、現在は30日を割っている。

 ⇒患者調査による入院・受診率の動向

 新規入院者数が増加しているにも拘わらず、入院期間の短縮によって、一般病院の1日平均在院患者数は漸減している。



(3) 病床数の削減
 2025年での富山県内の医療病床数として2013年比で33.6%(4844床)減と極めて厳しい目標が掲げられている。

 富山県の削減率は、都道府県の中では、鹿児島、熊本に次ぎ3番目に大きい。また、30%以上の削減目標は、8県となっている。
 富山県の削減率がなぜ相対的に高くなっているのか、その理由はよく分からないが、県土全体がコンパクトにまとまり病院が効果的に利用できるためであろうか、あるいは、介護施設が多いことと関係しているのであろうか。さらには富山県が国の政策に素直に従っているのかもしれない。


 病床削減計画のもとで入院期間の短縮が図られ、一般病院の病床数は、横這いの後、'00s半ばから次第に減少している。



 診療所の病床の減少が極めて大きいが、これは廃止の方針が出されたためである。ただし、全廃はしないようである。


 入院期間の短縮と病床削減の結果、富山県での病床利用率は'00s年代始めには、90%程度で全国の中でも最も高かったが、'00s年代後半には80%程度に低下し全国平均並みとなった。




(4) 一般病院受診の抑制
 紹介が無く大病院に直接受診することについては、初診料が引上げられ、一般病院の外来患者数は、'00s年代に大きく減少した。'10s年代は概ね横這いで推移している。


 なお、患者調査による通院者率は漸増しているが、これは人口の高齢化の中で避けられないであろう。



(5) 病院数の推移
 以上のような変動の中で、一般病院数については、'80s年代末にピークがあり、その後'90s年代に大きく減少し、'00s年代以降は漸減ぎみで推移している。



 他方、診療所については、'90s年代に増加した後、概ね横這いで推移している。



(6) 医師数の推移
 また、人口当たり医師数は、各都道府県において漸増を続けている。




(7) 薬剤費の抑制
 薬剤費の削減については、医薬分業の実施により、多くの処方箋薬局が新設されている。
 また、ジェネリック医薬品の利用推奨の中で、富山県の医薬品産業の生産が伸びている。


 現在、社会保障費の急増と財政難の中で医療・介護の負担を家庭に押し戻す方向で政策転換が進められている。一方で、1億総活躍のキャッチフレーズの下で、介護施設での受入れを拡大していこうという方向性もあるのだが、これは施設に入所できる介護度を限定することによって、実質削減を目指しているようである。
 社会保障全体として、どのような方向にもっていくのか。施設指向か、家庭指向か、あるいはコミュニティ指向という選択はあるのだろうか。包括的な方針を明確にして、納得できる政策の展開が求められる。このためには、皆でしっかり議論し、皆で選択していく必要があり、さらに信頼感のある政治が欠かせない。
 こうした状況の中で、個人としては、基本的には健康な生活を心掛けていかざるを得ない。しかし、疾病を間違いなく避けれるわけではなく限界がある。そのため、確実なセフティーネットが欠かせない。この手段として、各自それぞれが、支えてくれる家庭を持つことが要請されているのであろうか。今日の個々人の選択では、自らの家庭を形成しない者も多くなっているのだが、これをどう捉えるのであろうか。
 また、地域コミュニティで支えるという選択肢はあるのだろうか。地域包括ケアの中で試行錯誤中ではあるが、健康な生活を確保していく段階では意味があろうが、それを超えることはかなり難しいであろう。
 いずれにしろ、各人それぞれが、いろいろな形で社会を支える負担をしていく覚悟が必要である。



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(Sep.20,2020Rev./Jul.31,2020ReEd.)