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第4章 堅実な生活
第2節 安心した暮らし
第3項 高齢者の暮らし

2.制度の変革
─抑制される施設サービス─

(1) 介護保険給付額の構成の変化
(2) 新たな介護保険体勢の模索

 介護保険の負担増から、これまで施設サービスが抑制されてきたが限界にきているようであり、さらに居宅介護の拡大も容易でなく、近年では、地域での支えの在り方が模索されている。


(1) 介護保険給付額の構成の変化
 左図は、富山県での介護保険給付費用額の2010年度から2020年度への変化を介護サービスの種類毎に比較したものである。
 まず、予防が伸びていないが、制度がうまく機能していないようである。
 施設サービスは、療養医療院が減少であり、福祉も保健も小さい伸びとなっている。これは、費用がより多くかかる、施設サービスを抑制するようにしたためである。
 これに対して、地域密着型サービスは、大きく増加している。


 高齢人口の増加とともに介護保険給付の費用額は年々急速に増加している。
 しかし、施設サービスの費用額はほぼ横ばいで、居宅型サービス、地域密着型サービスがもっぱら、伸びている。特に2006年度に新たに設けられた、地域密着型サービスの伸び率は大きい。
 このような変化は、富山県も全国も共通である。
 ちなみに2016年度から、それまで居宅サービスに区分されていた通所介護の一部が地域密着サービスに入れられている。


 この結果、2020年度の富山県では、施設サービスは約40%までに縮小し、地域密着サービスは約20%までに拡大し、居宅サービスは約40%の横ばいとなっている。


 このうち施設サービスについては、総額では概ね横ばいで推移しているが、福祉サービスが拡大気味で推移し、療養サービスが大きく縮小している。特に2018年度から医療院サービスが設けられ療養サービスと入れ替わっている。


 療養医療サービスの構成比は、2018年度まで療養サービスが次第に減少していたが、その後医療院サービスが加わり若干拡大している。


(統計データ)


(2) 新たな介護保険体勢の模索
 上述のように、方向としては居宅介護が志向されているが、限界が見えている。このため、医療制度を含め、地域包括ケアの制度化が図られ、新たな体勢が模索されている。既に、各地域に地域包括ケア事業のための組織が設立されている。しかし、その実態は千差万別で、初期の目標の成果を収めている組織は限られているようだ。

 高齢者がそれまで住んできた住宅で生活し続けること、家族と共に住むことが当たり前の姿(ノーマル)であるとして、居宅介護の方向を助長する考え方がある。
 しかし、現在の動きは、保険システム持続の困難性に配慮している面が大きい。施設入所待機者の解消のために、また今後予想される希望者の増加に備えるために、さらに施設を充実させる必要があるとは考えないのだろうか。保険制度は、サービス受給事由を充たせば、サービスを提供するのが当然のはずである。
 ここで、我々は、地域なりにどのような福祉社会を構築していくのか、議論が必要なのではないだろうか。どのような体制を形成していくにしろ、皆で負担する覚悟が必要なことは間違いない。地域としてどの程度の負担を許容するか覚悟し、地域なりのサービス体系を形成していくために、地域でしっかりと透明な議論をしていく必要があるのではなかろうか。
 福祉施設運営の優れた事例があったことから「富山型福祉」の提唱がなされてもいる。

 他方、問題解決のための努力として、高齢者が要介護状態に陥らないために、高齢者がいつまでも社会的つながりの中で、生き生きと生き続ける地域を形成していくことが肝要であろう。実は、これが功を奏せば、かなり負担が軽くなる可能性がある。

 国全体の制度から飛び出ることは難しいが、その制度変更に唯々諾々と従っていくことには疑問も感じる。
 特に、地域密着型サービスについては、理念的には好ましい制度であろうが、実際に地域にどのような高齢者がいて、また、どのうような事業者がいて、それが地域ケアとしてどのように調整されて実現していくのか、まさしく、地域毎の課題である。国が制度化した支援制度を鵜呑みにして導入できるものではない。このことについては、制度に関連する予算の利用が不適切で十分に活用されていないと会計検査院から指摘されているところでもある。

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(Nov.05,2021Rev./Apr.10,2015Orig.)