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第3章 モノづくり指向の産業
第3節 事業所

第3項 価値ある事業経営
―広義の社会的責任―

 2005年に制定・公布された会社法によってコーポレート・ガバナンスへの関心が高まっている。ここでは、主として企業と投資家の問題を論じる狭義のガバナンスを論じられ、アメリカ型のコーポレート・ガバナンスが意識されている。企業の目的は株主利益の最大化とし、企業倫理問題(正当性問題)、企業効率問題(企業政策の問題)が扱われている。
 企業と社会の問題を論じる広義のガバナンスについては、CSR(Corporate Social Responsibility;企業の社会的責任)として、独自に議論されることが多いようだ。
 コーポレート・ガバナンスにどのような問題が含まれるにしろ、企業経営が人の活動である以上、企業経営で多様なステークホルダーへの配慮を欠くことが好ましくないのは当然である。そして、例えばわが国で非正規雇用比率が増加していることなどは、総体として企業経営に失敗していると言えるのではなかろうか。
 ⇒企業の行動規範


 企業活動は、本来、消費者に喜ばれる財・サービスを生産し、その対価を受け取ることによって、企業に働く人々に生きていくための糧としての賃金を渡していく行動である。これは、分業化した経済社会であらゆる仕事に共通することであり、ヘンリー・フォードは社会奉仕と見ている。また、企業経営は、企業組織に参画する者が、コミュニケーションを通じて、企業目的について共通認識を形成し、各自が組織活動に貢献する協働意識を持ち、企業目的を実現していくようにすることであり、チェスター・バーナードは道徳を創造するリーダーシップとみている。
 このような発想では、グローバル経済の中で、企業経営はやっていけないという反論はあろうが、その困難を乗り越えてこそ、あるべき企業経営と言えるのではなかろうか。
 地球規模で活動する大企業であれば、こうした企業活動の原点は忘れがちになりそうだ。しかし、地域に生まれ育ち、地域に根差した企業にあっては、多様なステークホルダーへの配慮を蔑にすると、その経営者は地域では生き辛くなり、地域からの支持を得れなくなるであろう。

 雇用状況の推移などで富山が他地域に比して好ましい成果を上げている背景には、まさしく地場で生まれ育った企業 経営者集団が地域を支えているためと考えられる。
 概ね20世紀末近くまでは、戦後に地域で業を起こし発展させた経営者が互いに繋がり、そして地域社会と連携しつつ活躍していたが、今日では世代が大きく入れ替わってきている。
 地域企業経営者の互いの連携、地域社会との連携はそれなりに引き継がれていると見られ、今後ともこれが大切にされつつ経営が持続することを期待したい。




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(Jan.02,2015)