目的を創造する粒子集団

 「B.グリーン『時間の終わりまで』BlueBacks2013」を読んだ。
 超弦理論や宇宙論の第一線で活躍する研究者B.グリーンが、様々な科学分野の知見から得られた洞察から我々の今日の位置付けを語っている。
 近年、量子科学、宇宙科学、生命科学等々多様な分野の科学が進展してきた中で、多くの人が、人類のそして宇宙の通史を語り始めている。しかし、本書ほど今日の幅広い分野の科学的成果をしっかりと取り入れ、宇宙・人類全史を語っているものは見かけない。

 本書では、宇宙の始まりから宇宙の終わり(時間の終わり)までをしっかりと語っている。アインシュタインの一般相対性理論の解のひとつとして、極めて微小な均質な空間で斥力的重力が現われ、それが瞬時に膨張する現象があり、宇宙誕生のインフレーションと関連しそうだということは知らなかった。また、宇宙の終わりまで語るのに時間の尺度を対数でとりエンパイアステートビルの階を昇ることに例えているのは分かり易い。
 歴史全体が、エントロピーピック・ツーステップ(熱力学の第二法則に関わらず秩序が構築されていく原理)と進化の理論(より存在し易いものが残っていく理論)を基本として語られており、体系的な理解としてなるほどと思わせる。
 多様な現象には、外に現れる客観的な世界と内なる経験という主観的な世界がある。前者については、素粒子の現象から細かく説明するのは難しいとしても、それなりに理解可能でイージープロブレムとしている。また後者を理解困難なハードプロブレムとしている。そして、多様な現象が入れ子構造となっており背景となる理論が転換することを理解する必要があるとしている。この部分は、小生の理解が不十分かもしれないが、繰りこみ理論にも通ずるようだ。

 最期に、我々の存在をどう捉えるかまとめている。それは、特定の粒子集団が、考え、感じ、内省する力を獲得し、そうして作り出した主観的な世界の中で、目的も創造できるようになったものだとしている。このため、人間の条件を明らかにする方向は、各自がその内面に向かう方向であり、自分自身の意味を構築するためのきわめて個人的な旅にでる必要があるとしている。それは創造的表現の核心に向かう旅であり、心に響く物語のふるさとを訪ねる旅でもある。

 結局、いかに生きるかという問いには、自分なりの求める生き方を考え、同時に創造と物語を楽しむということになるのだろう。


第1章 永遠の魅惑 ―始まり、終わり、そしてその先にあるもの―
第2章 時間を語る言葉 ―過去、未来、そして変化―
第3章 宇宙の始まりとエントロピー ―宇宙創造から構造形成へ―
第4章 情報と生命力 ―構造から生命へ―
第5章 粒子と意識 ―生命から心へ―
第6章 言語と物語 ―心から想像力へ―
第7章 脳と信念 ―想像力から聖なるものへ―
第8章 本能と創造性 ―聖なるものから崇高なるものへ―
第9章 生命と心の終焉 ―宇宙の時間スケール―
第10章 時間の黄昏 ―量子、確率、永遠―
第11章 存在の尊さ ―心、物質、意味―

Jun.02,2023

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