ネガティブ・ケイパビリティ

 「帚木蓬生『ネガティブ・ケイパビリティ−答えの出ない事態に耐える力−』朝日新聞出版2017年」を読んだ。
 著者は精神科医で小説家であり、患者さんとどう接するかが主題である。
 本書のタイトル「ネガティブ・ケイパビリティ」(答えの出ない事態に耐えること)がその解である。

 そして、芸術家こそ、答えの出ない課題に耐え作品を創造していると説明している。その筆頭としてシェークスピアを挙げている。同時にこれに並ぶものとして源氏物語の紫式部を挙げている。源氏に接した女性一人一人の困難な生き様こそが主題ということだ。私はこの指摘で源氏物語の主人公は、源氏ではなく、これらの女性だということに気付いた。

 精神科医の対応としては、患者さんの答えのでない状況をそのまま受け入れ、患者さんとともに悩むこととなる。相手の思いを理解しようとするEmpathyこそ大切としている。

 現代社会の多様な課題への対応も同様に考えられるであろう。
 そして、寛容の精神が大切となる。
 寛容は、ヒューマニズム(ルネサンス・ヒューマニズム)の核となるもので、宗教革命の際に、既存の教会の中で内部批判をしつつ、ルター等の戦う姿勢も批判した。この結果、双方から疎まれたのだが、その後の宗教戦争を避ける大切な発想だったといえよう。今日も、我々が素直に発想するヒューマニズムこそ基礎におくべきではなかろうか。

Jan.13,2025

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