建設事業指向の地域造り

 これまでの富山県内の土地利用に関連した地域創りは、住みやすい居住空間を創るのではなく、とにかく建設事業を増やし、関連事業者等の目先の利益拡大を求めていたと言えそうだ。
 これには、幾つもの要因があった。各要因は相互に重なり明確に区分できない。また個々の建設事業にはいろいろな背景がある。このため、各要因と各事業を対応させて整理することは困難であるが、以下に列挙してみる。

@全国一律の土地利用制度
 1968年に改定された新都市計画法は、主として大都市圏でのスプロールの抑制を目的としたものであった。都市計画区域を線引き都市計画区域(市街化区域と市街化調整区域に区分)とその他の非線引き都市計画区域に分け、全国一律に適用された。
 結果として、富山県内では市街化区域の周りに比較的幅の狭い調整区域が設けられた。このため、線引き都市計画区域の外側で住宅建築が進められた。農業振興区域内の農用地区域も多く含まれているが一塊の開発として、小規模住宅団地の形成 がなされた。農地所有者はその転売で所得を得、地域の農業委員会はこれを容認した。また、住宅を取得した者は、自動車利用の生活を前提としていた。しかし、人口減少、世帯の縮小(世代分離)が進む中で、住宅団地は一世代で衰退してしまう結果となっている。

A建築規制
 近年は、富山でも、都心に高層マンションの建築が進んでいる。人口の都心での増加に寄与するとして広告されているようだが、問題も多い。居住する人にとっては満足できる景色があっても他者の眺望を遮る結果となっている。さらに、長期的には、維持管理が円滑に行われるか懸念がある。いずれにしろ必要な建築規制がなされていないのではなかろうか。

B中央集権の財源配分
 多様な建設事業に国の補助金があるが、地域毎の必要性の多寡への配慮には乏しい。縦割りで一定の配分の後に地域で必要個所を選択する結果となっている。地域で必要なインフラに重点を勝手に移すことはできない。富山では道路を始めとするインフラを比較的早期に概成させたが、結果としてそれらに上乗せして整備を続けている。近年の富山県内で行われている国土強靭化事業なども国全体から見て必要性が高いか疑問が残るが、返上を申し出る仕掛けなどはない。

C都市計画スタッフの不足
 かつて富山大学工学部は高岡市にあり五福キャンパスへの一体化を指向したため改変できず建築系の学部・学科が作られなかった。このため、地域創りのしかるべき方向性を主張する学識者がいなかった。県庁内には、建設省からの見識のある出向者もいたが短期間では能力が十分に発揮できなかった。また、内部にもそれなりのスタッフはいたが知事への発言が十分にできなかった。このため、かなり歪んだ都市整備が行われている。
 典型的な事例としては、各種病院の郊外立地が進められたことであろう。特にリハビリ病院は、その必要者が直接通えない立地である。県の直接の所掌では ないが済生会病院、市民病院、赤十字病院も郊外へと移転している。
 また、市街化調整区域内の県有地で大規模住宅団地(月岡住宅団地)を整備しているが、理解できない事業である。

D建設指向に偏った政治
 富山県の県議会はかつては他地域と比べて建設業を背景とした議員に偏っていた(現在の状況は確認していない)。このため、県政の展開も建設事業の拡大継続を指向していたと考えられる。もちろん、景気浮揚の意図も強かった。

E個人・不動産事業者等の新築指向
 建設関連事業者はもっぱら新規建築を指向し、既存住宅の維持管理・回転に力を入れてこなかった。
 また、空家の更地化は固定資産税が上がるため避けられている。

F人口減少の受入れ拒否
 人口減少そのものを受け入れことに躊躇し、各種の基盤施設の重要縮小に対応してこなかった。既存の基幹道路の大改修も続けられているが、交通需要の減少で、過剰整備となることが明らかなのではなかろうか。

 いずれにしろ、土地利用規制の変更は、利害関係者への影響が大きい。このため、地域創りは、長期的で透明な計画を地域で共有し展開していく必要がある。地域社会が政治的能力に欠け、また個々人・個々の事業者の短視眼的な利益に翻弄されてきたのではなかろうか。

Jan.02,2025

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