人類はどこで間違ったか

 「山際寿一著『争いばかりの人間たちへ ゴリラの国から』毎日新聞出版社2024年」を読んだ。
 これまでの著作等を集め再構成したものである。内容の重複も多いがかえって分かり易い面もある。
 著者の研究活動はゴリラの社会についてのエスノグラフィーづくりと言え、本書の内容は、これに著者なりの解釈が加わっている。
 かつての欧米の研究者は、人と他の生物を明確に分けていたため、霊長目真猿亜目ヒト上科の社会を人と同じように捉えて検討することができなかった。しかし、日本では、今西錦司の研究を受け継ぎ、霊長類、人類についての新たな見方を提示してきた。(霊長目真猿亜目ヒト上科; ヒト,チンパンジー,ボノボ,ゴリラ,オランウータン,テナガザル類)

 本書の内容を小生なりに再構成し、人類の歴史的経過を整理すると次のようになりそうだ。
・霊長類として
 相手の心を推測する能力は霊長類真猿亜目ヒト上科共通のものであり、他のサルと区別される。この分離は12百万年前(?)とされる。(テナガザル類?)
 ヒトは、ゴリラ、オランウータンから別れ、さらにチンパンジーと別れて生まれた。チンパンジーはさらにボノボと別れている。
・ヒトの始まり
 サバンナ化により、十分な食料が得れず、森の中で地上へと降り始める。これが数百万年前のヒトの始まりらしい。
 直立二足歩行で、次第に森を出て平地をさまよい、手を使って、家族に食糧を運ぶようになった。
 ヒトは、これ以降、さらに長い期間の生物学的進化を遂げる。
・多産化と脳の成長
 次第に地上生活を拡大していくが、獣の餌食となり、死亡率が増加する中で、多産化が進む。
 このため、養育期間が長期化する。他方で誕生後に時間をかけて脳が成長するようにもなる。
・家族から親族等の集団へ
 食糧の確保のため、次第に大きな集団を形成し、一緒に食事をするように変わっていく。この共食は、他の霊長類では見られないようだ。
 集団形成の前提として、性の争いを避けるため性を秘め事とし、インセストタブーを形成した。
 また、集団の調整役が現れたと考えられるが実態はよく分からない。現在の霊長類では、喧嘩の強いボス型(チンパンジー型)、皆を配慮するリーダー型(ゴリラ型)、めったに争わずリーダー不在型(ボノボ型)が見られる。我々はどんな型を選べばいいのだろうか。
・集団の共感の強化
 集団の生活ルールとして道徳が形成され、共感を強めていく。
 ちなみに、人が共感を持って認識できる範囲は、150人程度ということらしい。
・狩猟の開始
 ヒトは最初は他の動物の食べ残しの骨髄などを食べていたようだが、数十万年前には簡単な棒などによる狩猟を始めた。
・言語の獲得
 子育て、その他の共同生活の中で、まず歌が生まれた。
 さらに数万年前には言語を獲得した。
 ちなみに、74千年前の超巨大噴火による気温低下で、人類は、百万人近い人口から1万人程度への減少を経験している。
 また、ホモサピエンスの出アフリカはこの後である。
・農耕の開始
 1万年超前には。農耕を開始した。
 貯蔵できる食糧によって、次第に欲求が増大していく。
 そして人口が増加し、生産を一層増加させ、労働を強化させるといった循環的拡大が始まる。
 さらに、土地の所有や食料の強奪など、他集団との争いが起こる。
 この争いの中で、自己犠牲を伴う美徳が称賛されるようになる。
・宗教の発生
 争いのある社会のなかで、数千年前には生きていく術として、世界宗教が生まれる。
・近代化
 多様な呪縛から逃れ、数百年前には経験科学を基礎とする近代的発想が広まり始める。
・幻想の平和時代
 第二次世界大戦が数十年前に終わり、一旦、恒久の平和が達成されたかに見えた。
・人類の活動の限界越え
 農耕開始から1万年程度で、人類社会の崩壊に至る。

 内容も文章も不十分だが、このような流れが、ヒトの発生から滅亡までの歴史ではなかろうか。

Oct.20,2024

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