進化論の世界観近年、宇宙の始まり、生物の進化、脳の機能等々いろんな分野で科学的研究が急速に進んでいる。まだまだ分からないことも多いが、我々の宇宙が形成されてから今日の我々の存在までが、物理的作用で形成されていることが説明されるようになってきた。これによつて生物進化論を多様な集団の進化に関する普遍性のある現象として捉え直して活用できるという考え方が出てきている。ダーウィンの進化論は、いろいろな形で優生論が展開されたため忌避されてきた面がある。そして生物学以外の他分野で引用することもあまりなかった。しかし、生物の進化論には、DNAという固有の枠組みこそあるが、人文社会科学の解明にも参考になるようだ。 このような進化論の新しい世界観を説いたのが「ティヴット・スローン・ウィルソン著『社会はどう進化するのか』亜希書房2020年」である。本書では、進化の検討の核となる要素として、ダーウィンの道具箱と称して、「機能」、「系統発生」、「メカニズム」、「個別発生」を挙げている。対象の持つ機能を明らかにし、それが集団の中でどのように引き継がれていくか捉え、機能が実現するメカニズムを明らかにし、さらに集団の中の個体でどのように実現していくか理解することが進化の解明の鍵となる。 具体的な事例を簡単には説明できないが、経済学、文化人類学、心理学、社会学等々についていろいろなヒントを提示しており興味深い。 本書全体で、多様な話題を扱っており、各分野の本質をとらえているのか、都合のいい部分を引き出して説明しているのか、残念ながら私には、すっきりとした評価はできない。ただ、人類全体の共生の可能性については、前提なしに多くの人は共生を望んでいるとして話を展開しており、疑問を感じている。 Jul.09,2024 表紙に戻る |