生の目的・生の意味

 まず生命(概ね動物)とは何かを確認しておく。
 最近の科学により、生命は、宇宙148億年の歴史の中で、天の川銀河系・太陽系・地球上に多様な化学反応によって発生したことが分かってきた。そしてヒトとは、生命のゲノムを約100年間保ち、次世代へとバトンタッチしていく存在であることが見えてきた。もっと切り詰めて狭義の生物としてみると、我々は、自らの発生時に胚葉の中で生殖細胞を分離し、それを思春期まで保持し続け、両性の減数分裂した生殖細胞を合体させ、次世代を再生産しているのみである。
 この限りでは、生の目的が自然の理として存在するとは言えないだろう。

 しかし、ヒトは、進化の過程で、文明を持つようになった。文明形成のための高度な認知機能に必要な突然変異は、60万年以上前に誕生したサピエンス集団のゲノムのなかで徐々に生じ、なんらかの利点があったために集団内の個体のゲノムに広がり始めた。そして高度な認知機能の獲得に最低限必要な複数の突然変異がセットでそろい始め、数万年前までには、洞窟壁画を描かせるようになる。その後、数千年前までに文明の創造を可能にする突然変異のセットが揃い、古代文明を発祥させた。(「林純一著『「生命の40億年」に何が起きたのか』2024年光文社新書」198ページの要約)(注1)
 このため、ヒトは生物として生まれただけではヒトとならず、それなりに文明を身につけることがヒトとしての条件となった。

 そして、ヒトは生物としてのヒトを再生産するだけでなく、生れ出た次世代に、文明を引き渡すための子育てが必要となっている。(注2)
 また、ヒトは生きていく過程で、その文明に何らかの影響を与える。(注3)
 結果として、生の意味は、「次世代を再生産していくこと」と「我々の創造した文明に何らかの影響を与えること」と捉えることができるのではなかろうか。蛇足だが、これは目的ではない。


注1;全てのヒトが全く同じゲノムのセットを持っている分けでなく、各人毎に若干の変動があることを理解しておくことが大切である。

注2;子育てで最も必要なことは正しく生きようとする姿勢を身に付けさせることだと思われるが、自らの姿勢として正しく生きる姿勢を持たないヒトが多く、社会が次第に崩壊してきている。特に、最近年の日本では、これを強く感じる。

注3;文明の展開の行きがかりから、次世代を育てることを拒否する発想も生まれているようだ。

Jan.26,2024

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