私たちは何を知らないのか「ローレンス・クラウス著『私たちは何を知らないのか』KADOKAWA2014年」を読んだ。時間・空間・物質・生命・意識についての科学の最先端の関心事で、今何が分かっていないか説明しており、極めて興味深かった。以下、私自身の備忘録として、内容、感想を整理しておく。内容については、私なりに脚色した部分もある。また、掲載は興味深かったものからの順となっている。
1.意識とは意識には、認識、感情、記憶(回想)、学習などいろんな種類のものがある。脳の中では多様な情報処理が同時に行われている。パソコンの画面に多数のファイルが表示されている様子に例えることができよう。多様なファイルが膨大にあり、見えずに隠れているものもありそうだ。 これらの画面のうちのどれに着目するか、それはとりあえず記憶として残されようとするもので、これ意識であろう。脳内の作用では、例えば海馬に信号が流れ込むということであろうか。 ただし、どの情報処理に着目するかを操作する主体は存在しないようだ。よく分かっていない。この意味では、自己というものは存在しないこととなりそうだ。もっとも、これらの過程全体を自己と捉えることができるかもしれない。 ちなみにこの着目するという操作が、特定の画面にこだわったり、逆に変更し過ぎたりしてうまくいかないと、自閉症やADHDの症候群が現われるようだ。 さらに、物事を考えるとは、特定の処理(画面)に注目し続けるよう努めることであろう。なお、この考える過程では、言語の存在が前提となりそうだ。 この過程で、新たな処理としてたまたま生まれてきたものが新たなアイデアである。ただし一定のことを考え続けていて、一旦そこから離れたときにかえってアイデアが浮かぶということもあるようだ。 2.物質の不思議ニュートン力学は、原子が多数集まった個体等で明確に機能する。これに対して、量子段階の大きさでは全く異なる力学系があり、これは標準モデルでそれなり理解ができた。しかし、量子の世界には、我々には理解困難な不思議な現象が幾つもある。以下は、本書150ページからの「量子力学の特徴」である。 @電子の飛ぶ経路が不特定で、2本のスリットで干渉が現れるようなことが起きる。このためファインマンの「経路分析」の提唱がある。 A波動関数による複素数で表す確率振幅が観測対象の実態である。 B「ハイゼンベルクの不確定性原理」では、観測によって性質が決まる。 C物体同士は、離れていても密接な相互関係を持つ「もつれ現象」がある。 D空っぽの空間でも粒子・反粒子の出現・消滅がある。 いずれも、空間と量子の性質として一応了解しておくが、Cの「もつれ現象」については、イメージがまったく湧かない。 3.生命の尊厳の曖昧化生命に関する科学技術の最先端での展開では、地球外での生命の存在を探ることや地球型生命の遺伝様式あるいはATPによるエネルギー利用などの普遍性について言及している。地球での生命の発生については、実際の経過はともかく、数多くの偶然が重なる中で発生した可能性は十分に想像できると捉えている。 しかし、偶然の中で発生したとすると、生命の尊厳をどう捉えるか、その土台が崩れてくるのではなかろうか。例えば人の死を悼む気持ちなど、人の進化の過程で身に付けたものであろう。しかし、この根源について考えると、死は当たり前にあり、たまたま何かの理由で生を終えただけということになってしまう。 こう捉えている私自身が、人の弔いの場面等で戸惑っている。 クラウス自身は、科学の至らないところを哲学がカバーしており、科学の進展の中で哲学の役割が縮小していると捉えているようだ。しかし、まだまだ哲学が本質的に必要な面もあるのではなかろうか。 4.極限について考える時空間アインシュタインが見出した相対性理論は、その正しさが証明されている。そして、その極限状態での現象を探ることが、今日の最先端の話題となっている。 ブラックホールに関連して時間はどう進むか、宇宙の始まりの際のインフレーションの中で時空間はどう変化したか。宇宙は今後どう変化していくのかなど。 こうした話題は際限なく続きそうだ。 中でも、4次元を超える時空間やマルチバースの話題などは興味深い。 Apr.17,2024 表紙に戻る |