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参考 地域創りの意思決定
第1節 歴史認識

第3項 再帰的近代化 メモ

 現代社会をどのように捉えるか、「再帰的近代化」について、まだまだ消化不十分なのだが、現時点なりの小生の理解を整理しておく。
参考図書
W.ベック・A.ギデンズ・S.ラッシュ著、松雄精文・小幡正敏・叶堂隆三訳『再帰的近代化』而立書房1997年
宮台真司著『日本の難点』幻冬舎新書2009年



【産業化】
 産業革命以来の生産様式は、かつての農業生産を主体とした狭い地理的範囲での生産から、商工業に比重を置き国際貿易を含めた広い地理的範囲での生産へと移行していった。
 また、科学的管理による生産性の向上は賃金の上昇・製品価格の引下げをもたらし、これが製品需要の拡大、生産の大規模化、さらに一層の生産性の向上へと循環し、資本主義市場経済の高度成長をもたらした。このメカニズムはフォーディズムと呼ばれている。


【欲求の上昇】
 産業の発展、消費生活の安定、向上の中で、A.マズローの言うように、人々の欲求は、安全・生存から、仲間として・能力ある者として人から認められること、そして自己実現へと向かった。

【価値の多様化】
 こうした中で、人々の欲求は様々な形で現れ、これまでのやり方には必ずしも縛られない各人各様の価値が相互に認められるようになっていった。この結果、あるゆることに相対的主義的な判断が持ち込まれるようになってきた。これがポストモダンの核となる発想であろう。

【自由の衝突】
 価値の多様化は、自由の一層の尊重と併行して進む。しかし、J.S.ミルの言うような愚行権(他人に被害を掛けなければ何をやってもいい権利)は、単に、暴力的な損傷を与えることを回避するだけでなく、多様な迷惑をも回避することが要請されるようになり、共生のための新たな調整システムが求められるようになる。



【家庭機能の外生化】
 産業革命以降の経済の発展の中で、生産手段の所有・管理は一部の者に限られるようになり、資本家と労働者の分離が進む。また、これまで、各世帯の中で充足されてきた機能は、家庭の外部にある企業等の提供する財サービスによって充足されるようになっていく。
 この結果、家族・地域社会の繋がりが強かった自給自足的経済から、お金を媒介とした商取引中心の経済へと移行していった。これはF.テンニスの言う、ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへの変化である。

【家族・地域の解体】
 人々は次第に新たな経済活動を担う都市へと移動し、世帯の核家族化・単身化が進むとともに、地域での多様な繋がりも次第に解体していった。

【生活リスクの顕在化】
 各人の生産手段の喪失や家族・地域社会の紐帯の弱体化は、生活を脆弱化させてきた。 特に、終身雇用体制等の解体、非正規雇用の増加などの中で、著しい困窮に陥いるものも目立つようになってきた。
 失業などを契機として、個々人の生活の脆弱さが露見することとなり、格差社会が顕在化し、出生率の低迷、自殺の増大等々多様な社会問題が噴出している。


【福祉施策の展開】
 この結果、人々が排除されない社会制度の形成が要請され、多様な福祉施策の展開が求められている。



【グローバル経済化】
 他方、情報通信システムの浸透等もあり、産業経済活動が一層地球レベルで行われるようになってきている。特に、多くの発展途上国が経済的離陸を遂げつつあり、先進諸国経済は、これらの新たな経済活動とどう調和していくか、困難な課題に入り込んでいる。



【経済活動の自己目的化】
 企業は、グローバルな経済活動の中で生き続けるため、専ら、自らの利益確保主眼として、人々の生活に必要な財・サービスの提供やそこに働く人に必要な所得の源泉を提供することを二の次としつつある。
 また、金融資本の拡大の中で、企業活動は、企業の所有者である株主の利益を目的とするように変わってきている。
 この結果、金融資本を中心として、短期的利益を狙って、明らかに長期的には経済システム全体して整合性のとれない活動も辞さなくなる。

【小さな政府・個人の自立】
 こうした中で、人々・企業の税負担の軽減要請から、社会保障施策を見直し、小さな政府を指向することとなる。新自由主義の風潮を一層強調し、社会全体が個人の自立を要請される。




【各自の自省 (コミットメント)】
 各自がそれぞれなりに、社会のあり方を自省し、それぞれが必要と考える行動を展開していくことが避けられない。これは近代化の延長・その折り返し点に現れてきた社会現象であり、A.ギデンズ等により「再帰的近代」と呼ばれている。
 多様化した価値の下では、他者に「何々をすべし」という主張はありえない。
 自らの真摯な行動を他者が観察し、共感から模倣(ミメーシス)されることによって、自らの意図を広めていくことができる。
 自発的なアソシェーション(NPO)が形成され、必ずしも収益を目的としないボランタリィな活動が活性化していく。


≪政治的主張の両極化≫
【コンサバティヴ】
 これまでのような経済成長を取戻し、人口の維持増加を指向し、一体となって力強い社会を形成していく。
 方向性の物語としては分かり易い。
 正義論ではコミュニタリアンと親和性があると考えられる。


【リベラル】
 これまでのような拡大基調は困難であり、経済的格差など多様な課題の解決を直接的に図り、多様性を許容した豊かな社会を築いていく。
 課題解決のための新たな行動が求められ、共通認識の形成が難しい。
 正義論ではJ.ロールズの正義論と親和性があると考えられる。


≪正義論≫
【リベタリアン・コミュニタリアン論争 (社会的選択)】
 こうした中で、共に生きていくための新しい社会秩序が求められている。
 基本的には、市場活動の基礎の上に、政府による再分配で調整していくことが考えられている。我が国では、その市場が暴走しがちとなり、政府の信頼も欠くため、方向の選択が極めて困難となっている。
 世界的には、1970年代初のJ.ロールズの「正義論」以来、新自由主義のリベタリアンから、それぞれの共有文化を基礎とすることを主張するコミュニタリアンまでの広がった議論が続けられている。


【熟議か代議か (社会的意思決定)】
 社会のあり方の選択については、「民主主義」的手続きによってなされるべきとされている。
 しかし、その手続き、可能性自体が定かではない。
 公共の場で深く議論(熟議)することによって求めていくことができるという見方と、複雑な社会の各人による理解は困難であり代議制で集約していかざるをえないという見方が対立している。
 我々は、一方で議論をしつつ、一方で各自の判断による代議制で社会の方向を定めていく他はないのであろう。


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(Feb.11,2016Rev.)