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参考 地域創りの意思決定
第5節 共通認識の形成 ―熟議―

補足 合意形成の場

総合社会政策のための合意形成と目標設定
総合社会政策基本問題研究会報告書
「総合社会政策を求めて」
経済企画庁国民生活政策課編 昭和52年
第4章から引用
40年前の文献だが基本的な課題がまとめられている。
 

 合意形成過程の整備


 市場機構と議会制民主主義の機能を最大限に生かしつつ、それを補完するために行政の公開、地方分権、各種の参加などを促進する必要がある。

1 総合社会政策の形成のためには、その前提として社会全体としての理念、目標体系、手段の明確化とそれについての基本的な合意が必要である。近代化や経済成長といった合意された価値が失われ、価値観が多様化しているだけに、このことは今日特に必要となっている。(パラグラフ1−2)

2 そのため、合意形成の促進のために諸制度を見直し、必要な整傭を行うことが望まれる。その際次のような点が重要である。(1)すなわち、市場メカニズムの長所をできるかぎり生かすこと、(2)議会機能の一層の充実、議会と行政との分業・協働体制の明確化、行政過程の公開化、(3)地方分権化の促進(4)企業の社会的、経済的、政治的行動についてのルールの確立と労働組合のソーシャル・パートナーとしての責任と役割の明確化などである。(パラグラフ3−8)

3 また、議会制民主主義の機能を補完する政治参加、住民参加、企業の場における民主主義の確立を目指す労働者の経営参加、消費者主権を実効あるものにするための消費者参加など、多段階、多次元の参加の促進が望ましい。ただその際議会制民主主義との調和、自己の責任の明確化などの条件を満たすことが必要である。(パラグラフ9−14)

4 議会制民主主義を補完して合意形成や目標設定の過程に世論がよりよく反映されるようにするために、世論調査の役割が期待される。現在の調査技術をもってしては、直ちに政治目標に翻訳できるような調査結果を得ることは望めないが、その方法を改善する努力を続ける一方、政治、行政、民間多者が代替的な選択案を国民の前に提示し、十分な議論を尽くすことが望まれる。(パラグラフ15−19)

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第4章 総合仕会政策のための合意形成と目標設定



第1節 はじめに
第2節 合意形成過程の整備
第3節 参加と民主主義
第4節 目標設定と世論


 

第1節はじめに


1 総合社会政策の形成のためには、その前提としていかなる社会を作っていくかについて基底的な国民の合意が必要である。今日、諸々の要求があれもこれもという形で噴出し、抗議や抵抗などが雑多な形で現われているのは、1つにはある意味で民主主義が定着した結果でもあるが、社会全体としての合意形成の過程が必ずしも確立していないことが一因であると考えられる。したがって、制約条件を明示したうえで。目標体系、理念。手段体系について合意を形成していく過程を整備することが必要であろう。総合社会政策は、合意形成を前提とするとともに、逆に合意形成促進の要因ともなることが期待される。その場合、できるだけ広範な問題についての合意の形成が望ましくはあるが、少なくとも、総合社会政策の1つの有力な理念である「ソーシャル・ミニマム」についての合意を目指すことが必要であろう。

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第2節合意形成過程の整備


2 今後の経済社会環境の下で総合社会政策の前進を期するためには。現在の制度や仕組みをそのままにしておくことはできないであろう。総合社会政策の確立を図るためには、いかなる社会的選択をするかと並んで、あるいはそれ以上に、いかにして社会的選択をするかが重要である。社会的選択あるいは集合的選択のための制度をどのように編成するか、換言すれは、政治、行政機構を市場機構などとの関係を含め、どのように有機的に総合化するかは、以下のごとき理由からも現下の我が国にとって無視することのできない問題である。(1)従来のように、欧米を範として、近代化や経済成長といった広汎な国民の間に合意のみられた価値を追求することはもはや不可能であり、国民の多様な価値観に立脚して、あるべき社会の姿を模索しなくてはならない時期にさしかかっている。我が国が進むべき方向についての基本的合意はもはやアプリオリには存在せず、社会的選択のための制度的編成を通じ意識的に確立されなくてはならない。(2)一方において、国民の二ーズの多様化を背景として政策によって解決すべき問題の範囲が拡大したことと、他方において、市場機構の欠陥が顕在化したことにより、政治システムを通じた集合的選択の領域の拡大が求められており、現実にも拡大しつつある。したがって、政治システムの重要性は、絶対的にも市場システムとの比較においても高まりつつある。(3)政治システム内部において、間接民主主義あるいは代表制民主主義の機能不全が目立つようになってきており、個人の自律性を高め、社会の統合を促進するという民主主義の理念をよりよく実現しうるような制度・機構・慣行などの改善の必要性が指摘されている、

(市場機構と政治・行政機構の関係)
 現行制度の問題点とその改善の方向のあらましは次のとおりである。第1に、集合的選択の領域の拡大が求められているとはいえ、市場機構を広範囲にわたって生かすことは、自由、効率、公正それぞれの観点から必要であろ。政治、行政機購は、意見や利害の不一致の政治的調整に伴う困難を内包し、多様な試行の可能性の排除、官僚主義と組織の肥大化、サービスの供給と対応しない不公正な負担などの弊害を伴いやすいことはよく知られている。あくまでも市場経済を基礎とした国民経済の運営の必要性を認識したうえで、政治、行政機構を介した集合的選択を導入していくことが不可欠であろう。

(立法府と行政府との関係)
4 第2に、政治、行政機構内部における立法府と行政府との関係については現在の両者の分業・協働体制が必ずしも最善のものとは言えないであろう。結果的に行政府の権限が肥大化Lてきているため、行政府内における立案過程がより強く政治過程の性格をおびることとなっている。政治過程が、諸提案についての公然たる論議より非公式非公開の折衝の形をとる傾向になりがちになるというところに問題がある。したがって、議会機能・政党の政策立案機能の一層の充実、立法府と行政府の分業・協働体制の明確化、行政過程の公開化、行政府内の総合機能の充実、審議会機能の見直しなどが期待される。

(分権)
5 第3に、政治、行政機構の構造の内部において中央と地方との関係をどのように再編成するかという点がある。結論から言えば、日本の制度はかなりの程度中央集権的であり、今後は地方制度改革を含め、分権化の方向での検討が必要であろう。従来のように、経済成長というような比較的単純な目標に向かって国民のエネルギーを動員するためには、中央集権的な権限、財源、情報の配分構造は効果的であったかもしれないが、今後はそうはいかない。社会福祉サービスや社会資本整備の機能を中心として、もっと権限、財源、情報を地方自治に委ねるべきであると考えられる。分権化の重要性は特に以下のような根拠に基づいて主張されうるであろう。(1)社会福祉サービス・システムの確立と供給、環境基準の策定と適用、都市計画などの地域計画の実現などは、それぞれの地域の自治的な活動の中で、地域の特性を考慮し、住民の二一ズをきめ細かく検討して具体化していくことが望ましい。(2)分権化は、各地域の庄民と指導層に対してそれぞれが置かれている制約を目に見える形で示すことにつながる。(3)分権と自治の確立は、地方の政治、行政機構の自律的な機能を高めることを意味し、財力や人的資源のゆきすぎた集中化傾向に歯止めをかける手掛りを作り出す可能性を持っている。(4)後に述べる「参加」も、住民に意思決定の過程を公開しそれに参加させるという意味で分権化の1つの現われとみることができよう。

6 しかし、同時に、各地方自治体の財政の健全性の確保、国全体としての整合性の確保などとのパランスを十分に勘案しながら分権化を進めることが肝要であろう。

(企業、労働組合)
7 第4に、企業が、今日、経済活動のみならず政治や行政に対する発言力も含めて社会への影響力を強めているにもかかわらず、その行動については、企業の行動から影響を受ける人々によって、民主的にコントロールが行われる状態になっていないことが指摘されている。これは、具体的には、階層としての企業経営者に対する不信という形で企業に対する批判が表面化されているとみることもできる。これらの批判に対しては次のような方法の並行的推進が選択されるべきであろう。(1)企業の行動について社会的責任と役割の明確化をはかるとともに社会が課すべき枠組みとしてのルールの確立・強化を図ることである。例えば、環境政策や独禁政策はその典型であろう。(2)企業がその組織や財力を政治に影響を与えるために利用することを制限する制度の検討を行うことである。(3)企業内部の民主化つまり経営者の選任や、経営のいろいろな段階の決定、監査、運営を民主化することである。例えば、従業員の職場参加、経営参加の実現は、こうした改革の最も重要なそして最も現実性のある方法として提起されているといえよう。

8 一方、労働組合も、社会の主要な構成員であって、その行動の社会的影響は大きい。したがって、労働組合のソーシャル・パートナーとして。の責任と役割の明確化が必要である。

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第3節参加と民主主義


9 社会的選択についての議論に際して、「参加」が今日1つの共通なキー・ワードとなりつつある。「参加」の概念はまた十分確立しておらず、また、その要求も必ずしも十分に明確な具体性をもった体系的な提案の形をとっているわけではないが、一般的にいえば、社会の構成員である諸個人が、集合的な意思決定に際して、自分の意見を述べるなど、何らかの方法で参与する平等の権利を与えられるべきであるという考え方である。

10 参加の要求は、一方では、産業化があまりにも進みすぎ、技術と職業の専門化が進みすぎ、労働の細分化が進みすぎてしまったことに対する人々の不満と危倶とを代表しており、他方、それは先進産業社会の成熱に伴う国民の要求の高度化の反映というか、これまでの成果とは違った、より高められた要求を現わしている面の両方があり、両者の矛盾を含んだ要求を反映しているとみることができる。

(参加の諸局面)
11 参加にはいくつかの局面がある。その第1は、政治参加であり、普通選挙制による代表民主制の下における政治、行政機構をよりよく機能させ、民主主義の理念と現実との乖離を最小限にとどめようとするものである。それは、権力としての政治、行政機構に対抗し、多数決原理を補完して少数意見のよく反映するような機構の要求、委任から自己決定への要求などを契機としている。それはまた、地方やコミュニテにおいては主として中央集権的な意思決定への抵抗として、自己決定の実現を求めた市民運動、市民参加の形となって現われることが多い。第2は、企業における労働者の経営参加である。企業の場においては、企業内における民主主義の確立、機械化・分業化による「疎外」と人間性の回復の必要、企業および労働老の社会的責任などが叫ばれるようになり、諸々な形態での労働者の経営参加が関心事となっている。第3は、消費者主権をめざす消費者運動、消費者参加であり、それは、市場において生産者と比較して弱い立場にある消費者の、資源配分の窮極的な主権者としての立場を実効あるものにしようとする動きである。

12 このような諸局面の決定過程への関与という意味で、参加は、多元的であると同時に、情報伝達・意見聴取の段階から決定・管理の権限を有するまでの多段階的な性格も併せ持っており、その意味で参加の範囲ないし領域またはレベルについては議論のあるところでもあるが、かなり広くかつ高次のものを含めて考えることが順当であろう。

(参加の機能)
13 参加の機能の1つは、権力の分配の公正化として捉えることができよう。従来の分配のための政策は、主としてその対象を所得と富においていたが、特に今日では、所得、富の分配のみならず機会の分配、権力の分配の公正化の要求が強まっている。参加はそれに応えるという機能を持っている。第2に、参加する者が事柄の次第をよく理解し、自らに課せられた制約条件を認識して、必要な選択を行うことが期待される。当事者は共同の決定を行うわけで、したがって決定への責任を負うことにもなるので制約条件を無視した無責任な態度をとれなくなる。このように。諸局面における参加の推進は、権力の分配の公正によって人々の満足感を高め、社会全体の安定性を実現し、社会の統合を促進する一方、個人の自律性を高めることが期待され、参加を議会制民主主義との調和の上に促進させていくことが重要であろう。

(いくつかの問題)
14 その際留意すべきいくつかの重要な点がある。第1に、参加の進め方によってはそれはより自由な社会へのステッブともなりうるし、全体主義へのステップともなりうることを認識しておく必要がある。それを決める重要な要素は、参加の機構の設計の仕方であるのは当然であるが、その他の諸制度、特に議会制との組合せ方や、国民の意識、価値判断、資質などが一定の水準に達していることが前提となろう。第2に、参加は、短期的には決定過程の効率を低下させる可能性が大であるが、長い目でみれば効率的でありうるといえよう。公正と効率とのバランスを配慮し。長期的展望に立った制度を工夫する必要があろう。第3に、参加の促進が個人やグルーブのエゴを尖鋭化することにならないよう自律性と自己責任を明確にする仕組みの検討が必要であろう。第4に、参加を常に具体的な制度上の問題としてのみ考えず、本質的に運営の問題として広く考えるという姿勢が必要であろう。参加は制度化されると同時にダイナミズムを失い、それが持つ意味を半減してしまう一面を持っているのである。

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第4節目標設定と世論


15 国民の価値意識は政策目標の設定、合意形成の基底となるものであり、今後祉会環境の変化に伴って国民意識の適確な把握、変化の予測の必要性が高まっている。価値意識を、かなり具体的な事項に対する要求や満足度のレベル(狭義)と、より基礎的で抽象度の高いレベル(広義)に分けて考えることができよう。政策決定のために国や地方自治体が明らかにしようとする価値意識の範囲は、通常具体的施策に関連した狭義の価値意識であった。しかし、国の政策決定に際しては、広義の価値意識が特に問題となってきており、国民のより基底的な価値意識の次元にまでもどって政策決定の方向を検討しようという動きが強まっている。

16 価値意識の測定は主として世論調査による。現在の世論調査の手法では、狭義の価値意識については世論調査はかなり有効であり、ある程度の予測も不可能ではない。しかし広義の価値意識については、方法論の確立など今後に課された問題が多い。

17 価値意識の変化の予測については、(1)時系列調査による方法、(2)年齢差を軸にした予測、(3)地域差を軸にした予測などが現在考えられている。(1)の時系列的予測は長期にわたる調査の反復実施の結果に基づくその延長的予測であり、徐々に進行していく意識の変貌を捉えるにはかなり優れた方法といえるが、現状ではこの種の時系列調査は非常に少なく適用は難しい。また急激で異質な変化はこの方法では予測し難い。(2)の年齢差を軸にした予測には「年代論」「世代論」「時代論」の3つの考え方を基礎にした方式がある。「年代論」は、いかなる時代、いかなる社会においても年齢の変化とともに変わっていく意識をいい、例えば若いうちは革新的で年とともに保守的になることなどがこの例である。「世代論」は、年齢層ごとでの意識の差は年をとることによって変化するのでなく。その人達が生まれ育った文化的環境によって規定されていると考えるものである。「時代論」は年代とも、世代とも異なった次元で、すべての年代、すべての世代の人達が時代時代の影響を受け、全体として一定の方向に変化するものがあると考えるものである。しかし個々の意識がこれらのどの要素により強く規定されるものであるかということは一概に決し難いものもあり、実際には難しい。(3)の「地域差を軸にした予測」は、先進国における主要な傾向が一定時間後の他の諸国の先行指標になるとか、大都市の新しい傾向が何年か後に中小都市などに波及していく傾向などを基にした考え方であり、問題によってはかなり有効な方法となりえよう。

18 ところで、二ーズの把握や国民の満足度の測定は最近特に活発に行われるようになり、その結果は現実の政策決定に際しての判断材料として役立つことが期待されている(注1)。しかし、現実にはいくつかの理由により必ずしも期待どおりにはなっていないようである。それは、従来の世論調査が結果において「たまたま」そうであったということのほかに、「そもそも」世論調査によって測定される国民の意識の性質に起因する面がある。「たまたま」いままで行われてきた調査では、まだ調査技術が未熟であり役立ち難いということであれば、今後の技術改善によって役立つようにしていくことが重要であろう。しかし、それだけではなく「そもそも」世論調査というものは、国民の素朴な感情や意向を測定するためのものであり、どうしても局所的、短期的、自己中心的な反応が現われやすく。政策決定に直接つながるようなデータがとりにくい。したがって、国民の素朴な世論を正確に把握したうえで、より総合的、長期的視点と専門的見地からそれを政策決定へとつなげていくことが必要なのである。すなわち、世論調査は政策決定に際して間接的に役立てるべきであり、種々の決断を「代行」すべきではないのである。こうして、限界を正しく理解したうえで、今後とも世論の正確な把握について技術開発をも含めた一層の努力が必要であろう。

19 同時に、政党、行政府、民間知識人などが、それぞれ代替的な選択のためのいくつかの案を国民の前に提示し、それについて充分な討論の過程を径て合意形成が行われるような環境の整備が必要であろう。そして、そのような各者の政策選択体系の樹立や決定については、専門家や学識経験者の果たす役割は大きいと思われる。しかし、それとて必ずしも万能でなく、しかもそれを強調しすぎることが、テクノクラシーを強化し、デモクラシーを弱める結果になっては本末転倒といわなけれぽならないであろう。

(注1)この代表例としては。経済企画庁の「国民生活選好度調査」があり、これを受けて多くの地方自治体レベルでも、選好度に関する調査研究を行っている。


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(Feb.13,2016Rev./Jul.21,2004Orig.)