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参考 地域創りの意思決定
第4節 社会計画
第1項 目標の設定

1.目標の曖昧化

曖昧化の要因

 社会的政策等の目標が非常に曖昧なものなってきていると同時に、決め難いものとなってきている。
 その原因の一つは、物が不足する時代にはそれを充足することが目標となり分かり易かったが、豊かになって何が求められるのか不明確になってきたことである。個々人にとっても不明確となると同時に、各人によって求めるものも多様化してくることが課題を複雑にしている。このことは、既に四半世紀以上前から指摘されていたことである。
 また、我が国は、これまで百年以上にわたり、先進諸国の後追いの時代であり、その意味でも目標が定め易かった。しかし、一人当たり国民所得が世界でも極めて高い国として、自ら目標を定めていく時代になって、困惑している。この結果としてバブルの時代を招いたともいえるのではなかろうか。
 さらに、目標設定を困難にしているのは、経済的拡大の時代が終焉しつつあることである。これまでは、成長の成果を新たな目標に向けて配分していくことができた。しかし今後は、誰かが所有するものを持ち出し、配分の見直しを進めていく必要がある。これは、極めて合意形成の困難な作業である。

ソーシアル・ミニマムの限界

 これまで、社会政策等の目標を定めるために「ソーシアル・ミニマム」の概念が用いられた。
 これは個々人に対して社会的に保障するものとして設定され、集団主義、平等、必要原則の系列に属する原理である。この保障が十分に充たされると同時に、この範囲を超える事柄については、もう1つの原理系列、すなわち個人主義、自由、能力原則を最大限に生かす条件を作り出すことによって、各自の力量によって充足していくこととなる。これによって、活力ある社会の形成が期待されている。
 しかし、ソーシャルミニマムが充足し、さらにその水準が上がってくると、専らそれに依存して生きていこうとする発想も生まれてくる
 このため、豊かな時代のソーシャルミニマムについては、その水準に明確に限界(いわばソーシャル・マキシマム)が設けられ、人々の能動的な活動意欲を阻害しない配慮が求められる。個々の水準については、議論があるだろう。しかし、例えば、生活保護については、平均的な世帯の所得の一定の割合の水準で行う考えになっている。
 特に、保険制度については、自らも負担することによって、受益が当然の権利となっている。しかし、積み立て方式として完結していない限り、他人の負担による社会保障であり、制度が充実するほど、社会全体の困難が生じる。一種の道徳律の衰退(モラルハザード)が起こっているのだが、社会全体の制度であり、その事実さえ認識されなくなる。
 このような議論の展開は、社会の大多数から反感を買うものであろうが、社会システムの設計に際しては、常に配慮されるべきことである。
 例えば、特別養護老人ホームの充実は、大切な事業であるが、高齢者が自立してコレクティブハウス等を整備していくことがより奨励されることなど喫緊の課題であろう。


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(Feb.12,2016Rev.)