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参考 地域創りの意思決定
第4節 社会計画

補足 総合社会政策

総合社会政策基本問題研究会報告書
「総合社会政策を求めて」
経済企画庁国民生活政策課編 昭和52年
第2章から引用
40年前の文献だが基本的な課題がまとめられている。
 

「総合社会政策」の提唱(第2章)

 各種の水準と範囲での政策の「総合化」を多日的に進めるとともに、トータルな社会システムのパーフォーマンスを高めることを通じ、国民生活と福祉の向上を実現するための政策の枠組みと理念を体系的に示す「総合社会政策」を導入すべきである。

1 提案1で述べたような総合的な政策を「総合社会政策」と呼ぼう。「総合社会政策」は、主に社会保障などを中心とする「社会政策」に比べ格段に広い概念であって、上述のように経済、社会、文化を含む広義のトータルな社会システムを対象とする政策である。その対象こは、人的資源(健康、労働、教育など)、物的資源(所得、消費、住宅、物的環境など)はもとより、文化的資源(余暇、文化、価値観など)、関係的資源(家族、コミュニティ、社会階層と社会移動など)が含まれる。(パラグラフ1−7)

2 「総合社会政策」は、トータルな社会システムの個人の必要および社会的な必要に関する各種機能を総合的に高めること、すなわち社会のパーフォーマンス(段能的要件充足能力)を向上させることを通じ、社会均衡、社会成長、社会的最適への接近をめざし、もって国民生活の向上と福祉の確保を図ることを目的とする。(パラグラフ8−10)

3 「総合社会政策」は、トータルな社会システム全般の企画を表わすような水準と範囲において「総合化」された政策である。「総合化」は、一元化、中央集権化、画一化の意味ではなく、政策が体系的に整備され、相互に十分調整され、整合的であり、首尾一貫しており、かつ協働的ですらあることなどを意味する。「総合社会政策」は、各種の水準と範囲における多層的な「総合化」を前提として、トータルな社会システムに関する政策の枠狙みと理念を体系的、事前的、計画的に示そうとするものである。(パラグラフ11)

4 また、「総合化」は多視点的でありえよう。各人の生涯の各段階を通ずるという視点から時間のうえでも、各人の生活圏をおおうという視点から空間のうえでも、また社会的な二一ズの体系を網羅するという視点から分野のうえでも総合化が行われなければならない。また「総合化」は政策研究、政策目的、政策主体、政策手段のそれぞれにおいて行われなければならない。(パラグラフ12−17)

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  第2章「総合社会政策」の概念と視点
第1節「総合社会政策」とは何か
1 前章においてその背景と必要性を論じたような総合的な政策を「総合社会政策」と呼ぶこととしよう。だが、「総合社会政策」という言葉はまだ十分熟していない。というよりも、むしろ一種の新語といった方がよいかも知れない(注1)。したがって、まずその意味内容を明らかにしなければならない。もちろん、その意味内容は本論全体によってようやく明らかになる態のものであって、一片の定義によってその全容を明らかにすることは不可能である。しかしながら、まず最初に何がこの言葉によって意図されているかを概ねなりとも示すことが有益であろう。

2 「総合社会政策」を定義する前にまず「社会政策」という言葉の意味するところをみておこう。「社会政策」という言葉は従来種々の意痢こ使われてきた。例えば、1870年代から20世紀初頭こかけてドイツ歴史学派によって担われた「社会政策」(Sozialpolitik)思想がある。ここでは、社会問題は利潤を指向する私企業活動の倫理的な「悪」に起因するものとされ。これに対して国家を倫理的、道義的な悪の救済者として位置付けるとか、国家の手による私企業制度の漸次的廃絶(1910〜20年代当時の用語でいう「社会化」)とかが社会間題解決の処方として提唱された。我が国では戦前主としてドイツから「社会政策」の概念を取り入れ、労働力の保全政策ないしは分配政策を指す言葉として盛んに用いられた(テクニカル・ノート2参照)。ただし戦後のドイツでは、市場原理を基本として、その枠組の下で社会政策を行っている。

3 我々が用いる「社会政策」は一定の幅のある概念であるが、いずれにしても上述の戦前のドイツ−日本的な意味とは全く異なるものであり、英米系の系譜を継ぐものである。「社会政策」(socil policy)の語は、第二次大戦後のイギリスでもベバリッジ、T.H.マーシャル、ティトマスなど社会学、社会福祉学の分野の学者たちによってキイ概念として用いられ、また、アメリカでもバーンズやカーンらによって取り入れられているが、その意味はドイツ社会政策の考え方と根本的に異なり、市場経済の機能を前提としたうえで、市場行動によっては充足されえない物的および社会的な欲求充足機会を政府の活動こよって作り出すことを指している(注2)

4 同じくこうした系譜に立つ「社会政策」の定義の内容こは、狭いものから広いものまでかなりの幅のスペクトラムがある。狭い方の端には、公的扶助、社会保険を中心とする社会保障政策をもって「社会政策」とする定簑がある。広い方の端には、いわゆる経済と社会を包含するきわめて広い意味でのトータルな社会システムを対象とする政策がある。後者が「総合社会政策」である。

5 狭義の「社会政策」から「総合社会政策」に至るスペクトラムは連続的なものであって、その区分は便宜的なものである。したがって、どこに区分が設けられるということよりも、このスペクトラム上の位置付けの相違が大局的にみてどのような性格の相違をもたらすかということの方がより重要である。このスペクトラムは単に政策の対象範囲の大小を意味するにとどまらない。対象範囲の拡大は、同時に視点の高次化、ある意味では抽象化を伴う。すなわち、狭義の「社会政策」のレベルではその範囲内での具体的な政策や制度の総合化が問題になるが、「総合社会政策」のレベルでは、そこに至るまでの各レベルでの総合化を前提としたうえで、政策の理念、政策の枠組みの総合化が問題とされる。

6 この両端の間にはかなり広い中間領域がある。いまそこに若干の便宜的区分を導入してみよう。もっとも狭義の社会政策である「社会保障政策」よりももう少し広く捉えられた「社会政策」は、公的扶助、社会保険のほかに、健康、労働、住宅、物的環境などを対象範囲に含んだものとなろう。この場合、これらの個別領域は相互に調整され、「社会政策」へと総合化されていなければならない。さらに、この「社会政策」と経済政策との間には密接な連関があるので、両者の間の総合化が行われることが必要となろう。この意味において総合化された「社会政策」を「社会=経済政策」と呼ぼう。これはいわば経済政策と「社会政策」の総合された和集合であり、「総合社会政策」へ向けての第一歩である(注3)

7 しかしながら、われわれがここで「総合社会政策」と呼ぶものはこれよりも一段高次の概念であゑ。それは上述の意味の「社会=経済政策」を下部システムとして包摂している。すなわち、それは経済システムと狭義の社会システムを下位システムとする広義の社会システム全体を対象とする。「社会=経済政策」は、主に物的および人的資源を対象とするのに対し、「総合社会政策」は家族、コミュニティ、階層と社会移動など社会学でいう「関係的資源」および余暇、価値饒、意識、文化などの「文化的資源」をも含む広い意味でのトータルな社会システムを対象とする政策である。

  8 「総合社会政策」は、このようなトータルな社会システムの、個人の必要および社会的な必要に関するさまざまな機能的要件充足能力(注4)(パーフォーマンス)を改善することを通じ、第1章で述べたような広い意味での社会均衡、社会成長、社会的最適への接近をめざし、もって国民生活の向上ないし福祉の確保を図るための総合化された政策体系であるということができよう。

9 「総合社会政策」は、事前的、体系的な政策として構想されているのでそれ自体計画的な色彩が強い。計画ということばを公共当局によって立てられた一定の目標達成のための一定の時間領域にわたる政策プログラムと解すると、「総合社会政策」の目的を達成するための体系的な政策プログラムが「総合社会政策」に対応する「総合社会計画」であることになる。「社会計画」ということばは、「社会政策」のように従来別の意味で用いられてきたわけではないのでこれを単に「社会計画」と呼ぶことが許されよう(「社会計画」はまたもう少し狭い意味で考えることもでき、これは狭義の「社会計画」と称しえよう)。このような意味での「社会計画」(または時間的広がりに強調点をおいた「総合社会政策」)は、「総合社会政策」と同じ目的のための、社会システムの変化の事前的な計画化であるということができよう。

10 「総合社会政策」ないし「社会計画」の概念は今後いろいろな点で深められていかなければならないだろう。ここでいう機能的要件充足能力(パーフォーマンス)の改善、社会変化の概念は抽象的なレベルにとどまるもので、なお具体的な社会事象との関連において概念を明確化する努力が必要と思われる。しかし、この点については、近年各方面で開発が行われている社会指標(注5)によりある程度まで定量的な判断の基礎が与えられている。こうした指標をさらに開発し、それを十分に利用していくことが望まれる。また、総合的な政策体系を確立するための理念を種々の角度から明確化していく努力も必要である。こうした作業は今後長期にわたって続けられなければならない。

  11 総合化は、あらゆる範囲あらゆる水準で必要であるが、それが社会全体の企画を表わすような範囲と水準で行われたときに「総合社会政策」という名称を用いることとするのは前節で述ぺたとおりである。ある範囲あると水準における総合化は、それより、より広い範囲、より高い水準における総合化の前提をなすものと考えられる。「総合社会政策」が成り立つためには、その構成要素である各種政策分別こおいて総合化が行われることが前提となっているといえよう。しかし、また逆にサブ・オプティマイゼイション(部分的最適化)の危険を避けるためには、より狭い範囲、より低い段階における総合化に際しても、より広い範囲、より高い段階における総合化の原理が浸透していなければならない。こうした意味で、総合化は多段階にどのレベルでも行われることが必要であり、また、その意味なり視点なりには共通性がなければならないと考えられる。ここでいう総合化の意味は、一元化、中央集権化、画一化といった意味ではなく、構成要素間の相互連関が1つのシステムとして十分把握されており、このシステムを対象とする政策が体系的に整備され、相互に十分調整され、整合的であり、首尾一貫しており、かつ協働的ですらあることをいう。

  12 総合化を行う際の視点ないし角度は多様でありうる。1つの視点は、人間の生涯の各段階の必要に応じて諸政策の整備、調整を行うことである(注6)。これが時間軸に沿った視点であるとすると、空間軸に沿ったもう1つの視点がある。これは「近隣地域」または「日常生活圏」といった生活空間を捉え、それが備えるべき要件に対して政策を整備、調整していくやり方である(注7)。もう1つの有力な視点は、人々の二一ズないし目的を体系的に整理し、それぞれに対応した政策の整備、調整を行うことである。社会指標体系はこうした方向への1つの足掛りを提供するものといえよう。さらに、これが予算と結びついて、予算上のインプットと社会指標上のアウトプットが結び付けられれぱ、コスト・ベネフィットの比較もしやすくなり、総合的判断の基準として有益であると思われる。その際間題となるのは従来のような狭い意味での経済的コスト・ベネフィットでなく、より広い意味での社会的コスト・ベネフィットである。

13 さらに、総合化は次のような種々の局面において必要とされよう。
(a) 政策研究の総合化。 第1に、社会政策は経済政策その他の政府の政策との総合化を強める必要がある。社会政策、研究の分野でも実際の政策の分野でも、経済政策などと密接な関係があるにもかかわらず、学問の、分業化、政策主体である官庁の分立などのために総合化されていない。この点での総合化を高めるためには、学際的研究を進めることと政策主体間の協力を進めることが大切である。
14 (b) 政策目的間の総合化。 第2に、政策目的もいろいろなレベルにおいて総合化されなけれぱならなし、近年我が国では、経済政策や経済計画が追求する経済目的と社会政策が追求する社会目的との間のインテグレーションが欠ける傾向にあり、特に1960年代までは経済目標が重視され、社会目標が軽視されがちであった。この点について反省がなされ、経済政策ないし経済計画の中に社会目標を織り込む試みが行われた。我が国の経済計画が1967年に経済社会発展計画と名づけられたのは、このような方向への変化の兆しを示すものである。今後、いろいろなレベルにおいて政策目的間の総合化がさらに追求される必要がある。

15 (c) 政策主体間の総合化。 第3に、政策履行の主体となる各種官庁のセクショナリズムのために、政策の総合化が行われないという問題がある。また、国と地方公共団体との間の政策の合理的配分と費用負担の分担についても、統一的原理と方針が示されているとはいえない。こうした点を改善することが望まれる。

16 (d) 政策手段間の総合化。 第4に、政策手段間の総合化は経済政策の分野ではある程度進んでいるが、経済政策と他の社会分野での政策との間の総合化は非常に遅れている。社会指標の作成と改誉がこの種の総合化の手掛りとなることが期待される。

17 上述のような意味における総合化を、いろいろな視点から、いろいろな局面について、各種の範囲と水準において試み、そうした経験を積み重ねていくことは、それ自体、きわめて重要なことであり。それが同時にトータルな社会システムについての政策の総合化としての「総合社会政策」のための不可欠な基盤をなすものといえよう。

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(注1)「総合社会政策」(integrated social policy)という概念はOECD社会労働局によって1973年始められたプロジェクトにおいて使用された。プロジェクト参加国は0ECDの呼ぴかけに応じて社会政策総合化に関する報告を提出している。0ECDではプロジェクトに関する中間報告を準備中である。

(注2)非市場的ということは非貨幣的ということと混同されることがあるが、年金などのように貨幣的形態をとるが非市場的なメカニズムを通じて行われるものを含む点で、非市場的という概念を用いる方がここでの目的に叶っていると思われる。仮にこの関係を図示すれば次の図のようになろう(省略)。

(注3)経済政策の手段と社会政策の手段との区別は簡単ではない。経済政策手段もそれが社会的目的に影響を与える限りでは社会政策の手段と考えうるし(例えば、景気刺激の、点から行われる租税や保険料の操作は社会的目的変敏に影響を及ぼす。)、またその逆の場合もある。

(注4)社会を機能的概念として捉えるとき、社会システムそれ自体としての充足されるべき必要条件を機能的要件といい、例えば、パーソンズによれば適応機能(A)、目標達成機能(G)、統合機能、(I)、潜在的型の維持機能(L)がある(テクニカル・ノート1参照)。種々の社会的必要がより高度に充足されることは、この機能的要件の充足出力が高まるということでありこれを社会の成長として捉えることができる。

(注5)経済企画庁、東京都および同盟=IMF・JCで作成された社会指標の範囲をあげると次のとおりである。
(1) 国民生活審議会調査部会「社会指標」(昭和49年)
1健康、・2教育・学習・文化、3雇用と動労生活の質、4余暇、5所得・消費、6物的環境、7犯罪と法の執行、8家族、9コミュニティ生活の質、10階層と社会移動
(2) 東京都総務局統計部「東京都社会指標の研究開発」(昭和51年)
1所得・消費、2住居、3健康、4教育、5公共の安全、6環境、7交通通信、8労働・余暇、9社会保障
(3) 同盟=IMF・JC「働くものの生涯生活ヒジョン」(昭和50年)
 私的消費領域 1住居、2耐久消費財、3余暇生活、4食生活・衣生活・その他
 社会的消領域 1住宅、2都市生活環境、3教育、4医療、5老後保障、6公的扶助

(注6)村上泰亮、蝋山昌一ほか各「生涯設計計画」(昭和50年) 同盟=IMF・JC「働くものの生涯生活ピジョン」(昭和50年)、国民生活審議「国民生活の長期的課題」(昭和50年)はこうした視点に立っている。

(注7)フランスの第7次計画には。この視点が含まれている。また経済企画庁国民生活局『自由時間の現状と対策の方向」(昭和52年)もこの視点に立つ。


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(Feb.12,2016Rev.)