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参考 地域創りの意思決定
第3節 社会組織
第1項 社会の理論

1.共同体の理論

以下の内容は次の文献の骨子です。
小川仁志著『はじめての政治哲学―「正しさ」をめぐる23の問い』講談社現代新書2010年

共同体をめぐる論争

◎国家
◎市民社会
◎コミュニティ
◎公共性

◎国家

・国家を規定する3要素  領域・主権・国民

【国家】
@自然共同体としての国家
 アリストテレスBC384-322)「人間とは本性的にポリス的動物である。」
A権力国家
 N.マキャヴェッリ『君主論』
B契約による国家
 T.ホッブズ、ロック、J.ルソー

@国家肯定論
 J.ラスキー(1893-1950)「多元国家論」 国家は他の利益集団との関係は本質的に同等
 ヘーゲル、ボサンケット 「国家一元論」国家と社会の同一視
A国家否定論 「無政府主義(アナーキズム)」

【ネーション】
@同一の属性
 J.フィヒテ(1762-1814)『ドイツ国民に告ぐ』(1808)言語と文化
 E.ルナン(1823-1892)『国民とは何か?』(講演1882)「日々の投票」
A国家が管理する人の範囲

【ナショナリズムの起源】
@近代の産業社会化の要請
  A.ゲルナー(1925-1995)『民族とナショナリズム』(1983)
    言語を介したコミュニケーションの要請→同じ言語、同じ歴史観の形成→
A出版資本主義の進展、世俗語の普及
  B.アンダーソン(1936-)『想像の共同体』(1983)
    印刷機の普及→世俗語で書かれた出版物の普及→
B民族的な起源
  A.スミス(1933-)『ネイションとエスニシティ』(1986)
    既存の社会の枠組みが前提、絶え間のない再解釈・再発見・再構成

【ナショナリズムの類型】
@シヴィック・ナショナリズム
  共通の政治原理のもとへの所属希望を重視
Aエスニック・ナショナリズム
  言語や文化など民族的一体性に基づ紐帯を重視
Bリベラル・ナショナリズム ミラー、キムリッカ
  リベラル・デモクラシー実現のための安定したネーションの要請
   ナショナル形成のため言語、文化政策への政策的関与を容認



◎市民社会

【市民社会の概念】
@政治社会 古代ギリシャ
A市場としての市民社会
  ヘーゲル『法の哲学』(1820)
  @.経済的自由主義 欲求実現のための諸個人の活動
  A.ニーズを交換し合う場
Bブルジョア社会(強制的交換) 克服すべき対象マルクス
C諸団体の集合
  議会制民主主義の機能不全の中での新たな動き
  J.ハーバーマス『公共性の構造転換』
    自由な意思に基づく非国家的非経済的結合関係 様々なアソシェーション

・三項モデル 国家・市場・市民社会
  コーエン、アラート『市民社会と政治理論』(1992)
   経済権力・国家権力への批判としての市民社会の自律性 国家の機能補完

・社会関係資本
  R.パットナム(1941-)『孤独なボウリング』(2000)
   自発的結社の衰退→デモクラシーの危機



◎コミュニティ

【コミュニティの定義】
 F.テンニース(1855-1936)
   「ゲマインシャフト」・「ゲゼルシャフト」
 R.マッキーバー(1882-1970)『コミュニティ』(1917)
    地域性に基づいて共同生活が行われる生活圏

 J.デランティ(1960-)『コミュニティ』(2003)
@社会学者 小規模集団を基礎とした特定の社会組織
A文化人類学者 文化的に規定される集団
B政治学者 市民社会などの集合的アイデンティティに力点
C哲学者・歴史学者 イデオロギー概念に焦点
・帰属探し 社会的相互作用論→アイデンティティへの関心 コミュニティの復活へ

【コミュニティの変容(日本)】
 都市集中の中での村落共同体の崩壊
 郊外移住でのインフラ整備等のための共同行為
 行財政の限界の中での福祉・防災等での行政補完 「自助・共助・公助」
 社会環境の変化(少子高齢化・高度情報化・グローバル化)の中での新たな機能の要請
   相互扶助の福祉コミュニティ、地域ぐるみの子育て、・・・
   ヴァーチャルコミュニティ・グローバルコミュニティの誕生

【コミュニティの問直し】
 広井良典(1961-)『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書2009)
  成熟経済の中での個人の孤立化を背景として問直し
  自立的な個人をベースとする自発的かつ開かれた性格の共同体
  新たなコミュニティ形成の要点
   @挨拶など見知らぬ者どうしのコミュニケーションや行動様式
   ANPO、協働組合、社会起業など新しいコミュニティづくりに向けた多様な活動
   B普遍的なルール・原則による物事の対応や解決



◎公共性

【公共性の歴史】
・カフェ、サロンでの議論 市民による議論 18世紀ヨーロッパ
・国家システムの整備・巨大化 国家権力と同一視、否定的ニュアンスの付与
・再発見 アーレント、ハーバーマス

【全体主義の回避】
アーレント『人間の条件』(1958) 異質な者の存在、パースペクティブの複数性の意義
 「現れの空間」先入観を持たない対応
 「共通世界」異質な者同士の関係性としての「間」

【自律的公共圏】
ハーバーマス『公共性の構造転換』 
 (当初)私的自律の主張 権力への批判
 (新版)生活世界を守る 討議を通じた諸個人の意思決定
・N.フレーザ サブ公共圏の存在
・N.ボルツ(1953-)『グーテンベルク銀河系の終焉』(1993)無数の選択共同体

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(Feb.10,2016Rev./Jan.04,2011Orig.)