地球温暖化解説
これは、1999年の記述である。 1990年代には課題を認識しながら、適切に対応してきていないと言えよう。 (1) 温暖化の解明 地球全体の温暖化が進んでいることは、既に多くの人が認めている。 しかし、地球上のあらゆる地点で、年間を通じ、気温が一様に上昇するわけではなく、地域によって、また季節によって様々に変化していくとされている。 気象変動の具体的な現れ方については、専門家によって鋭意研究されているが、現時点は、その緒に着いたところといえよう。ましてや、各地域・各季節の変化の方向は、今後の研究に待たなければならない。 以下では、「村山貢司著『異常気象』ワニのNEW新書1999年」を参考にして、富山の気象の変化の方向を整理してみる。 ただし、決して確実な内容ではなく、ものを考えるためのとりあえずの枠組みにすぎない。現時点なりの一つの予想であり、新たな事実の判明に合わせて内容を修正していく必要がある。
まず冬期の気象については、シベリア高気圧がこれまでのようには発達しないため、季節風の勢力は弱まり、降雨(雪)量は相当程度減少することが予想される。ただし、気温については、若干の上昇に留まると見られている。 (*)気温の上昇により一層の水蒸気が上がるため、降水量が増加する可能性もある。 次いで、春期については、早い時期からの前線の停滞などが見られ、天候不順が予想される。 梅雨期については、優勢な高気圧により停滞前線の平均的位置がこれまでより北方に移行する。この移行の程度によって地域毎の状況が大きく異なるが、高気圧の縁を通じて太平洋の水蒸気が湿舌に送り込まれ、あるいはジエット気流に乗ってインド洋の水蒸気が送り込まれ激しい降雨がもたらされる。ただし、富山という地点を捉えれば、太平洋高気圧の発達の度合いによって、年によっては、いつまでも前線が停滞し梅雨が明けないことがあり、年によっては前線が北方に追いやられ降雨が少ないこともある。 夏期については、梅雨に続き、太平洋高気圧の動向により、いつまでも梅雨が明けない冷夏と最高気温が35゚Cを容易に超える猛夏を繰り返すようになる。 秋期については、台風の発生位置のずれから、大型台風の発生・襲来は減少すると見られる。 (*)最近年の動向では、発生数はともかく、エネルギーの蓄積から大型化が起きているように見られる。 なお、以上のような気象変動は、温暖化と連動したものか否かの証明こそできないが、既に経験してきているとも見られる。 米不足をもたらした平成5年の冷夏や翌6年の猛暑などから典型的な事象が起こり始めているともいえよう。 また、エルニーニョ現象・ラニーニャ現象の頻繁な繰り返しなどにより、多様な気象災害が、世界中で増加していることもしばしば指摘されている。
それでは、予想される気象変化は、地域の生活・生産活動にどのような影響をもたらすのか。 まず、激しい降雨による洪水等の直接的な被害の増加が見られよう。 また、気温の上昇は植生の変化をもたらす。ここでは、気温の変化速度に対して、植生の変化が追いつくか否かが重要である。特に、富山県の場合、植生の垂直分布の変化が追いつかず、山岳地帯の樹木が立ち枯れを起こす可能性もある。 なお、この立ち枯れについては、酸性雨等による影響と判別できず、むしろ複合的な効果が現れると見ておく必要があろう。 さらに、農作物への影響も大きい。世界的な食糧生産の不足が予想される中で、富山においても、年々の激しい気象変化により、不作の年が頻繁に出てこよう。 冬期の降雨量の減少は、スキー場経営等に大きな影響をもたらす。また、山岳部への積雪は天然のダムであり豊富な電力をもたらしているが、発電量の減少は免れない。なお、梅雨期の短時間の激しい降雨は、流出量が多く有効な貯水にはなりにくい。 海面の上昇については、海岸線の維持を一層危うくする。 他方、気温の上昇は、熱帯性の昆虫等の生息を容易にし、各種の疾病の発生をもたらす。 (4) 危機管理 地球温暖化への対処として、炭酸ガスの排出抑制は当然である。 さらに温暖化によって引き起こされる諸災害への事前の対処も重要である。 このような未経験の事象に対する危機管理は、一般に社会的合意の形成を待っていては、時期遅れとなる可能性が高い。 このため、有能な指導者によるフライング気味の対応が必要と考えられる。 しかし、一般論としては、現在の社会体制の中で好ましい方向に誘引されるか心細い限りである。 地球温暖化に関する国際的な議論自体が、アメリカ議会上院公聴会でのJ・ハンセン氏による証言から始まったが、当時この証言は、科学的にはフライングであったとされる。 富山県での事前的対応としては、まず適正な土地利用の実現であろう。最大限の農地の保全、かつての氾濫原等への住宅地の展開の抑止などが特に重要である。 また、長期気象予測と連動した作付け計画の実現なども研究を深めていくべき課題である。 さらにスキー場や山岳観光の経営などについては、状況の展開を十分に注視し、適切な対処を図っていくことが求められよう。 なお、山岳部の植生が最適な位置に移動していくとした場合、平均気温3°(標高差500m)の変化で、下図のような移動となるが、場合によっては、適応できず禿山化する恐れもあるのだろうか。 (May.08,2015Rev./Jul.03,1999Orig.) (5) 富山気象台による世紀末気候の変化 世紀末まで最悪5℃上昇富山気象台が、気候予測モデルによる21世紀末(2076〜2095年)における気候の予測結果を発表した。予測は「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2013年に公表した第5次評価報告書にある4つの温室効果ガス排出シナリオの中で最も排出量の多い「RCP8.5シナリオ」が用いられている。つまり温暖化ガス削減がなかなか進まなかった場合の予測である。富山での21世紀末の気候は、20世紀末の気候に比較して、 @年平均気温がかなり上昇する(富山市の気温が現在の鹿児島市の気温程度となる)。 ・・・5℃程度上昇 A富山市で猛暑日が増加する。 ・・・約40日/増加、真夏日・夏日・熱帯夜はそれぞれ約40日/増加 B夏季を中心に滝のように降る雨(50mm/h超)が増加する。 ・・・0.5回/年程度増加 C冬季を中心に降水の無い日も増加する。 ・・・14日/程度増加 気候がこのように変動した場合、多様な災害が頻繁に起こるとともに、農業・漁業等の産業活動の変化、日常生活の多様な側面への影響が避けられない。 (6) なすべきこと このような予測に直面して、我々は何をなすべきか。 とにかく地球温暖化ガスの排出削減に真摯に取組むことであり、一方で災害等に強い地域・生活を形成していくことであろう。 ただ、地球温暖化ガスの排出削減は、産業活動・日常生活に与える影響も大きく、本気になって地球温暖化を抑制するために必要な削減を想定し、自らの削減必要量を計算し、取組んでいくといった姿勢を持ち合わせていないのではなかうか。 例えばI.カントの定言命法を背景にした、J.ロールズ『正義論』にある無知のヴェールの後での判断(自分は何者か分からない設定のもとでの無私の公平な判断)であれば、現在の人類全体の総排出量を固定するとした場合は、地球温暖化ガスの一人当たり排出許容量は全人類の平均値で一定であろう。さらに先進国の人々によるこれまでの排出の蓄積に配慮すれば、先進国の人々の許容量は例えばその半分にしなければならない。このように設定すれば、我々日本人は、排出量を早晩1/4以下へと削減しなければならないことになる。そして、お金があるからといって、沢山の排出が許される訳でないことも重要である。また、飛行機での移動は温暖化ガスの排出が極めて大きいため、観光産業の振興については方向転換が求められる。このような指摘は、大部分の人は想像もしていないであろうが、誇りある生き方とはこういうものでなかろうか。 災害に強い地域社会については、国土強靭化対策と称して力が入れられているが、公共土木事業指向が極めて強いように思われる。むしろ、土地利用の在り方等を含めて、地域での住み方の工夫が必要ではないのだろうか。 関連項目に戻る (May.31,2018Rev./Jul.03,1999Orig.) |