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第2章 富山の舞台
第3節 経済構造の変革

第4項 地球温暖化と経済活動

(1) 支出
(2) 生産
(3) 分配

 地球温暖化が進み、多様な災害が増えている。この進行を抑制していくためには、温暖化ガスの排出を伴う経済活動の縮小を図っていかざるを得ない。このため、マルクス・ガブリエルの「倫理資本主義」や斉藤幸平の「脱成長コミュニズム」など多様な提言がなされている。

 以下、地球温暖化の下での経済活動の在り方を所得統計の循環に沿って考える。
 (なお、以下の内容は、地域政策と国全体としての政策が混ざっている。)
 
(1) 支出
〇消費
 まず、我々の生活を改め、排出を伴う生活行動を減らしていく必要がある。
 一人当たり温暖化ガス排出許容量を考えると、ロールズの正義論を持ち出すまでもなく、基本的には各自に差異は設けられない。これを真摯に捉えると、先進国に生きる我々にとっては、いろいろな活動を抑制すべきことは明らかである。さらに言えば、個人の一定以上の所得には意味がないこととなる。
 ここでは、個人のエネルギー消費の多い行動を列挙してみよう。
 まず、冷暖房について、富山県民の生活は冷暖房のためのエネルギー消費が多くなっている。一定程度の冷暖房は避け難いが、できる限り節約する生活に改めていく。住宅の広さなどもエネルギーの浪費につながっており、住まい方の多様な工夫が必要である。
 ついで多様な移動手段について、富山県の日常生活では自動車利用等でエネルギーの消費が多い。日々の車の利用を削減するとともに、長期的には、自動車を利用する必要がない居住・職場の選択が必要である。また、観光やその他自動車利用の遊興も極力削減する必要がある。飛行機の利用も相当量の燃料を使用しており、抑制していく必要がある。

 こうした温暖化ガス排出削減については、一方で、何を楽しんで生きていくかを検討することが大事になってくる。直観的に言うと、衣食住等の物的消費・サービス消費は多くを求めず、地域社会で仲間と一緒に創造的生活を楽しむことではなかろうか。人を排除せず、触れ合い、互いにケアし合い、そして好きな事を自分なりにして楽しむということであろう。地域コミュニティで互いに支えあいつつ創造活動については、ここではこれ以上触れない。

〇固定資本形成
 支出のうちの固定資本形成については、建設事業などが大量の温暖化ガスを排出している。
 住宅建設については、既に空き家率がかなり高くなっているのだが、富山県でも持家建設は減少しているが、貸家の建設が続いている。これについては、既存住宅の有効活用が進められるよう工夫が必要である。
 公的な各種基盤施設の整備については、今後は、維持補修に限定していく必要がある。富山県では、1980年代の半ばの県民総合計画の作成過程で、いろいろな基盤施設が概成し、将来の人口減少に鑑み、事業量の削減等を図っていくべきことが見えていた。しかし、景気浮揚と称して、また国からの補助金を受けるために基盤整備の上乗せを続けてきた。

 
(2) 生産
〇需要減への対応
 生産活動については、支出の変革に伴う需要減少から多様な産業の縮小が求められる。 ちなみに、マルクス・ガブリエルは、企業に倫理部門を設けることを提案しているが、昨今は企業の法律違反等が目立ち、意味のある提案には思えない。
 産業では、特に移動を伴う 自動車関連産業の縮小が必要であろう。また観光産業については。今後の地域産業の核としていこうとする考え多いが、地域外からの来訪の拡大には問題が多い。春先の立山の除雪などはもう止めるべきであろう。
 また、建設業全般の縮小も避けられない。

 これまで景気浮揚策として住宅建設や公共事業の拡大やの助成などなされてきたが、これらは温暖化ガス排出削減に逆行するものである。また、温暖化ガス排出の少ない自動車購入への補助金なども、本来は排出の多い自動車購入に追加の税を課すべきであろう。ちなみにグテーレス国連事務総長は化石燃料のコマーシャルはやめるべきだと主張している。


〇積極的拡大
 他方、今後充実していくべき産業としては、まず異常気象の中での危機対応として食糧生産がある。国際情勢の展望をしっかりと持ち、農地の維持・拡大に努め、農業従事者がやる気になる筋の通った農業支援策を着実に展開していく必要がある。富山県の農業は米作に特化しているが、今後どのように作付け転換を行っていくのか、指針が必要であろう。
 また、自然エネルギー活用に関連した産業の拡大も望まれる。富山県は、小水力発電の可能性がいろいろとあると思われるが、大幅に増やす工夫はないのだろうか。なお、太陽光発電のために、耕地を利用することは、再考すべきであろう。
 さらに、他地域から稼ぐための産業として、特定の技術集約を核とした産業コンプレックスの形成も求められる。富山では、医薬品産業等に可能性があるが、現況はかなり心もとない状況に陥っている。

 人口の高齢化、予想される社会の混乱に対しては、これまでシャドウ・ワークとされてきた多様なケア活動を地域社会全体で担っていく必要がある。このため、コミュニティ産業として、互いに支えあうケア関連産業の充実図っていく。

 
(3) 分配
 支出・生産の変化に伴って、自ずと分配も変化してくる。

〇雇用
 上述のような産業の変革は、働く場の移動を伴い抵抗が多いが、別途の新たな職場の形成が必要である。また、労働力不足で外国人の受入れがなされているが、これは就労が避けられる職場への受入れであって、本来、就業環境の改革によって対応していくべきである。

〇所得税
 一人当たりの温暖化ガス許容排出量に鑑みると、まず個々人の消費の限界から各人の一定以上の所得は再配分へ回すことに正当性がある。

〇社会保障
 ケア関連産業の充実について資金を循環させいてくことも重要である。そのための組織、基盤施設等を地域で共有し、NPO等の活動や高齢者の就労を促していくなど多様な工夫が可能であろう。年金制度の計画的変革も避けられない。

〇バラマキ政策
 他方、物価高等のなかで、多様なバラマキ政策が展開されている。税の裏付けのない借金による歳出は、結果として貨幣価値を引き下げ、円安、物価高へと繋がり、悪循環が生じている。財政民主主義の立場からは、集められた税金内での政策展開を選挙で付託しているのであって、ポピュリズムの要望に流されてはならない。

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Jun.30,2024