ゲラルドウス・ドルネウス『瞑想哲学』日本語訳――ユングの錬金術研究への一歩としてh
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*2017年11月28日 修正第3版をアップロードしました。

ユングの錬金術研究は、近代のロマン主義的ノスタルジーというメガネを通して眺められるのが一般です。エキゾチックな図像や表象の中に、近代が失った超越の残り香 を求め、そこに癒しを見出そうとするための、いわば素材として利用されてきました。

しかしユングの意図はそうではありませんでした。彼は錬金術の作業と想像活動、その記録等々が蓄積され、形成されていった集合的な表象のネット ワークが、客観的な心の変容過程を表現していたと考え、その観点から錬金術文献の密林の中に分け入り、我々にその探索の旅行記を残してくれたわけです。

もしユングの見立てが正しかったとすれば、これはすごいことです。もしそうだとすれば、錬金術は、人類の精神史の中でもとりわけ大きな変革であった、近代の誕生と 発展の背後で生起していた無意識過程を反映したものだということになります。
マルクス主義者がなんと言おうとも、この変革が経済的・社会的理由だけで起こったとは考えにくいことです。そこには無意識の中でのこれに対応する過程があったに違 いありません。残された錬金術文献を通じて、この無意識の過程に接近することが可能になるでしょう。

無論、それがユングの壮大なる勘違いだったという可能性もあります。

この道の先には宝が埋まっているのか、あるいはどこまで行ってもただ何もない荒野が広がっているだけなのか。

それは私たち自身が、ユングが依拠した錬金術の文献に当たって見て判断するしかありません。ユングの錬金術研究を「理解」するには、彼が著作で引用した素 材だけでは不十分であって、私たち自身が錬金術文献にある程度親しむ必要があります。(このことには2017 年日本ユング心理学会大会における発表 でちょっと触れておきました。)

その手始めとしてドルネウスのDe Meditativa Philosophia『瞑想哲学』を日本語に移してみました。

ユングがドルネウスに深い関心を寄せたことはよく知られています。とりわけ『瞑想哲学』は、ユングの晩年の大著『結合の神秘』最終章「結合」の主要な素材 となった著作です。内容も一般の錬金術文献のように不可解な処方よりも「心理学的」記述に比重が置かれていて、近代人にはわかりやすいです。

この著作にはポー ル・ファーガソンの 優れた英訳があり、邦訳にあたってはこれを参照しました。というより、私のラテン語力ではとても独力で翻訳することは無理でした。感謝の意を表します。これにはラ テン語原文の転写も添えられており、電子ファイルがネット上からダウンロードできます。 Transcription and Translation of Gerhard Dorn's De Meditativa Philosophia

またドルネウスには『思弁哲学』Speculativa Philosophiaという著作があります。これはドルネウスの初期の著作 Clavius totius  Philosophiaeの第二部として 1567年に公刊された著作ですが、『瞑想哲学』とほぼ同じ内容を扱っており、文章まで同じという箇所が多数あります。しかし、こちらは哲学の七つの段階 の全体が詳しく記述されています。『瞑想哲学』と読み合わせることで、ドルネウスの言いたかったことが、より立体的に理解できます。また、この著作には、 アニムス、アニマ、体という人間の三つの部分が交わす対話も収録されています。フォン・フランツはセミナーで『思弁哲学』を取り上げ、この対話を「錬金術 における能動的想像」として論じています。(M‐L. フォン・フランツ 『ユング思想と錬金術―錬金術における能動的想像』垂谷 茂弘 訳, 人文書院, 2000年)
『思弁哲学』にもポール・ファーガソンの大変良い英訳があります。こちらはインターネットにおける錬金術サイトの草分けを主催してきたアダム・マクリーンの刊行し ているMagnum Opus Hermetic Sourceworks Series No. 34.で、 アダム・マクリーン自らが革で製本し、通し番号をつけた250部限定版として刊行されています。書店での販売はせず、メールオーダーのみとなっています。関心のあ る方は、リンクを示したアダム・マクリーンの錬金術サイト『思弁哲学』紹介ページをご覧ください。

変更履歴
・2017年8月16日 『瞑想哲学』日本語訳をアップロード
・2017年9月25日 『瞑想哲学』日本語訳 修正2をアップロード
・2017年11月28日 『瞑想哲学』日本語訳 修正3をアップロード

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